第3章 俺は神様
非常にモブの多い物語です。
モブ・ストーリー・・・?
「ヴァレリー。どうして来たんだよ」
「はっはっは、ジンジャー少年! 何をわかったことを聞きやがる!」
ユリアンもジンジャーも手を止めて仔ギツネ片手に笑うヴァレリーを眺める。
「神様はペットを飼うことにしたんだぜ!」
「ちなみに名前は?」
ユリアンがご満悦なヴァレリーに問う。
「聞いて驚け、この仔ギツネはランデイだ」
ジンジャーは再び手を動かす。
「『――遙かなる炎の海――精霊の森に住まう獣王よ、その姿を顕現させたまえ』、ヴァレリー。こいつが僕のランデイね。名前パクらないのって、常識じゃない?」
ジンジャーは呼び出した炎の獣を指さす。しかし、ヴァレリーは空いている手をひらひら振って、
「俺様リアルに神だからノープログレム! むしろ、神様のペットと同じ名前つけるお前が悪い! 改名しろ!」
炎の狼に見向きもせず、宣言する自称「神」のヴァレリー。はた迷惑な野郎である。
「あー、わかったよ……、ランデイ。新しい名前何にする? え? クリスティーヌ・ジュエルパイ? 君、男じゃないか」
炎の毛が燃えさかるのを見ると、ジンジャーは仕方なく元ランデイの意見を聞き入れることにした。
「ヴァレリー、そろそろここは危険な場所になるから逃げた方がいいわよ?」
「そうだよ、死んじゃうよ?」
「ああ、そう。じゃあ、教えろ。キツネって何食うの?」
二人は、少し考え込んでから
「トカゲとかじゃない?」「カエルとか野ネズミじゃないかな?」
「オッケーオッケー! サンキュ! 早速、トカゲ探しに行って来るぜ!」
そう言い残してヴァレリーが去ったのを確認すると、二人の目つきが豹変した。
「『――煉獄に連なる赤き山々――深淵に住まう腐敗の獣――哀れなる御霊を包みたまえ』」
ジンジャーはありったけの力を本に注いですらすらと読み上げる。
「本当にくだらないわね! 死んでも知らないわよ!」
ユリアンは両手の平をジンジャーに向けた。彼女の周りの地面から石が浮かび上がると思えば、すぐにそれは六本の筒、それもバズーカ砲らしきものに姿を変えた。
「バズーカ砲六本の総攻撃に耐えられるかしら!」
「その身体を腐らせて一生外に出られない身体になっちゃえよ!」
ジンジャーもユリアンも油断のできない状況に立たされていた。先に動いたのはジンジャーだった。ジンジャーは本の中から現れた黒い影に小声で命令を下す。
ユリアンはその動きを即座に察知し、宙に浮かぶバズーカ砲を動かした。
「標的、ジンジャー・カスタスを中心とする半径一メートル範囲。照準速度MAX、火力MAX、射出!」
砲弾がジンジャーに直撃しようとしたときだ。砲弾が黒い影にぶつかった瞬間、溶けて消えたのだ。
「まだ、まだまだ! 第二波よ! 射出!」
もう一度、幾つもの砲弾がジンジャーを襲う。しかし、彼は、
「『――大地の守護――自然の魂――荒れ狂う破壊の感情を抑えよ』」
刹那、ジンジャーを軸とした岩壁のドームが彼を包み込んだ。壁に砲弾が炸裂する。しかし、何もなかったかのように、壁は立ちふさがっている。
「何しているんだ! ユリアン!」
ユリアンは背後の声の主を見る。
「あ、兄さん! 手伝ってよ、あのジンジャー・『カス』タスに一泡吹かせてやるの」
「アホか! ネクロマンサのゴミあさりなんかにかまってる暇があったら、もっと能率的なことをしようと思わないのか、帰るぞ!」
ユリアンの兄はアイリンの手を引いて去っていく。
「お、覚えてなさいよ!」
ジンジャーは黒い影を使って岩壁を溶かすと「バーカ、弱虫~」と罵った。
「あんなことをする暇があったら、少しは余生を幸福にしようとか思わないのか、お前は。あと十年生きられるかどうかなんだぞ?」
自宅でユリアンは兄の説教を不本意ながら聞いていた。
「第一、殺し合いをしているのをヴァレリーに見られたらどうするつもりだったんだ。死罪を犯すところだったな」
「ねえ、ヴァレリーってなんなのよ。自称神なんて痛い意外のなんでもな……痛いわね!」
兄はユリアンの頬を思いきりはたいた。
「ヴァレリーを馬鹿にすれば天罰が下る。ずっと言ってるだろうに」
「うー……理由がなきゃわかんないわよ」
兄はふぅと一息ついて、言い残す。
「明日は成人の儀だろ? その時、わかるはずだから」