第二章 争う理由
ドドンと第二話。
ついに本編です。
「『我ら、ネクロマンサ家は高潔で俊才な神々の子だ』。ネクロマンサ家の初代当主カフトパレス・ネクロマンサの言葉である。カフトパレスは、「魔術」の開祖でもある偉大な人物だ。彼は万物をも超える力を持った「伝説の魔術師」である。私たちはカフトパレスの子らとして、魔術を守っていく必要がある。シグナ半島の外には出さずに、な」
「アポスガルズ先生、それはなぜですか?」
ネクロマンサ領内の学校で、子供が若そうな教師に尋ねた。もちろん、ネクロマンサ領の子供も、大人もネクロマンサ家の血を引いている。
「いい質問だメアリー・イアンノン。魔術は私たちカフトパレスの血を引く者にしか扱えない。一度、シグナの外に出て使ってみなさい。人外と見なされ、研究と実験の対象になってしまうから。人間は、人の形をした奇異を見るとそれを人とみなさなくなる。奇異というのはもちろん、魔術を使う者のこと。そして、私たちを見れば殺戮を始めるだろう。同じ人間なのに何故、争わなくてはいけないのか。カフトパレスの偉大な血が混ざっただけで人外となるのか。不思議なものだ」
「ユウデル先生。なら、アルケミスト家と争うのはどうして?」
ユウデルは眼鏡を外し、質問をした子供をぎろりと睨んでこう言った。
「クラウス・ライミッツベルク。君はアルケミスト家が憎くないのかい?」
「…………」
クラウスは口を閉ざして、下を向いた。
「いいか。アルケミストのブタ共が使う、錬成術は大地への冒涜だ。いずれ、このシグナの地を破壊しかねない。私たちにはこのシグナしか残されていないのだ。シグナが失われれば、魔術と、そして私たちが失われる。それを止めるためにアルケミスト家に抗議を入れた第六十三代ネクロマンサ家当主のルーヴィンは、あの忌まわしきアルケミストに殺された。命を奪ったのだ。そして、魔術を罵倒した。これは、カフトパレスを足蹴にしたことと同罪だ。あのブタ共はわかっていないのだ。錬成術は危険であると!」
「…………六十三代ってずっと昔じゃないですか」
「クラウス、いい加減にしたまえ。現在の当主は百八代目だ。その間にも、ブタ共はネクロマンサ家の農地を使えなくしたり、岩で固めたりした。シグナを滅ぼそうとする者を排泄するのは、悪いことではない。むしろ、この世から消し去ることは、世界にとっておおいに利益のあることだ。いいかね? これ以上ブタの肩を持つようだったら、君は裏切りの疑惑によって処刑されるぞ」
色々と言いたいことはあったが、死ぬことは怖いのでクラウスは静かにしていることにした。
「その顔じゃわかったようだなあ。さて、昼ご飯にしようか。午後からは魔術の特訓がある。しっかり食べておけよ」
はーい、という子供達の元気な声が、木造校舎に響いた。
「ネクロマンサ家は魔術という不気味な力で、神々を殺そうとしているのです」
アルケミスト領の小さな学校で、女教師が説明を始める。
「『我ら、ネクロマンサ家は高潔で俊才な神々の子だ』だと? ふざけんな、馬鹿かっつーの! 矛盾しまくりだし、何かとインネンつけてアルケミストを攻撃するわ、馬鹿にするわ、シグナ半島は俺達の物だ、みたいな態度マジむかつく! ねえ、みんな! 先生イライラしてるから一発殴り込んでいいかな? ダメ? そうかいそうかい。じゃあさ授業続けるよ、錬成術は今風にいうと『エコロジー』なの! なんの根拠もナシに大地への冒涜とか、頭おかしいんじゃねーの? ギャハハ! まじウケるんですけど!」
歴史の教科書をバンバンと教卓と黒板に叩きつけ、腹を抱えて笑う教師を生徒は白い目で見ていた。
「つーわけで、午前の授業おしまーい。午後は錬成術の授業だからがんばってねー!」
「先生はどこかに行かれるのですか?」
「まあね、先生の隣の家のマゴット氏が享年二十三歳で亡くなったの。まあ、長生きしたと思うわ。じゃ、さよなら~」
これから葬式に行くというのに、軽快なステップで教室を後にする教師を「こいつばかじゃねーの」という目で生徒は見送った。
「クィッツェル・マゴットの御霊が永遠に安らかであることを願います」
パンチパーマの男の遺影を持った女性が泣いていた。
女教師は口元にハンカチを添えて、笑いをこらえていた。
神父は、涙ぐんでいた。
マゴット氏の死を悔やむ参列者が、一言ずつ別れの言葉を告げてゆく。
一級錬成士クィッツェル・マゴット。享年二十三歳。死因・心の老衰。
ざああああむうううういいいいいいいい((((