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その8 アレクト、本望を果たす(完)

「期待……期待! うん! ぼくね、ぼく、あのときドロウィッチが『ボウヤの魔法はいらないわね』って言ったから、いっぱい魔法を覚えてきたんだ! なんでもいいよ、全部奪って! ぼくから、今度こそ奪ってくれる?」


 ヘンリエッタは膝から崩れ落ちた。

 自分の憧れ、誰よりも清潔感があり……客観的にも、そして自分の認識としても顔が整った部類である自分たちにアレクトが少しも「反応」しなかった理由を思い知って。

 アレクトの発言を聞いて、そしてドロウィッチがアレクトを抱擁したさまを見て悟ってしまったのだ。


 すぐに自分たちを下品な目で見る男性たちと違って、アレクトはいつでも紳士的で誠実だった。一緒に旅をしても、やむを得ず密着するような場面があっても彼はいつも申し訳なさそうにするばかりで頬を染めたり、意識している様子なんて見せたりしなかった。

 それはアレクトの紳士的な性格によるものではなくて……そう、溢れんばかりに豊満な、いっそ下品なほど大きく柔らかい愛だけがアレクトにとって性的対象なだけだった。すなわち。

 三人娘揃って「絶壁」としかいいようもない貧なる乳なんて、アレクトにとって女とも言えないほどどうでもよかっただけなのだ。


 事実、念願の大きな胸に顔をうずめたアレクトは少し離れた位置にいてもアレクトのアレクトがアレクトしている様がハッキリと見えていたいたし、恋するヘンリエッタにもアレクトがどんな顔を……どんな恍惚な表情を浮かべているのか、分かってしまっていた。


 鼻の下を伸ばし、デレデレとしたいやらしい顔つきに違いない。ヘンリエッタはそう確信した……自分たちがただの踏み台に過ぎなかったことも、自覚しながら。


「解析開始♡」


 むぎゅりとドロウィッチの胸がアレクトを強く抱き締めたことによって変形する。

 素直に受け入れているアレクトの肢体からはすっかりチカラが抜け、ぐったりと……いや、そのやわらかなカラダにただ身を任せるばかり。


 まさに夢にまで見た状況。天にも昇る心地とはまさしくこのことだった。


「ウフフッ♡ 知らない魔法がいっぱいあるわァン♡ ボウヤ、そんなにアタシに奪ってほしかったの?♡」

「うん、そうだよ……ほら見て、ぼく魔王の魔法も使えるの。瘴気を生み出す魔法! それから勇者の魔法も、全部! あそこでのぞき見している女たちの魔法はぼくが全部使えるから、ぼくは彼女たちと同じだけ上手に使えるから、ぼくから奪って♡」

「あらあら、あらあら……ウフフ、どれから奪っちゃおうかしらァン♡ 全部簒奪するまで、天国でも見てなさいねェン♡」


 むぎゅり、むぎゅり♡

 ボヨン♡ ボヨン♡


 そんな下品な音が聞こえてきそうなくらい、抱きしめたまま激しくアレクトを揺さぶるドロウィッチ。

 アレクトもドロウィッチも着衣のひとつも乱れていないというのに、妙にその光景はみだらに見えた。

 欲しいものを買ってもらって上機嫌な少女が親と手を繋いで元気よく腕を振るように、アレクトを抱きしめて揺さぶっている。

 されるがままのアレクトは大きな胸に時折呼吸を妨害されながら、脳に刻み込んである魔法がひとつずつ「簒奪」されていく焼けるほどの快楽に「小さく、大いなる死」を迎え続けていた。


 あぁ、脳みそからまたひとつ大切なものが抜け、無遠慮に吸い込まれ、チカラが奪い去られていく。

 取り返しのつかない状況。アレクトにはそれが手に取るようにわかった……同時に、アレクトの勇者のチカラはこの時も正しく働き、ドロウィッチの「簒奪魔法」をも学習して自分のものにしながら。


 この世界を救済するに至った「勇者の魔法」が抜き取られる。瘴気を祓い、暴走する魔物を鎮める魔法が。

 この世界を半分滅ぼした「魔王の魔法」が奪われる。生きとし生けるものを生きながらにして腐らせる瘴気を生み出し、周囲の生物を魔物に変貌させ、意のままに操るタチの悪い魔法が……目の前の倫理に縛られない自由な女のものになる。


 他にも、ドロウィッチへの「手土産」として収集したフィーダの危険極まりない「戦争魔法」の数々が強烈な快楽とともに奪い去られ。

 神聖の名のもとに人間を傀儡としか認識していない高慢……聖女の魔法とは名ばかりの「傀儡魔法」が「小さな死」を伴いながら吸収される。


 感極まったドロウイッチは恍惚のまま白目を剥いているアレクトの頬にむちゅりとキスを落とし、だらしなくもヨダレを垂らしたまま意識を飛ばしかけている勇者の残骸を……いっそ愛おしそうに見やった。


「あ♡ あ♡ どろうぃっち♡ どろうぃっち♡ もっと♡ もっとうばって♡ どろうぃっちの魔法も、ぼく覚えちゃったよ♡ これもうばって♡」

「勉強熱心なボウヤねェン♡ あの時助けておいて良かったわァン♡」


 あの時、などドロウィッチの中に残っていなかったがそんな事など誰も気にしない。話を適当に合わせながらドロウィッチは更にアレクトから奪った。

 ドロウィッチにとってはカモがネギを背負ったまま火を起こし、自分で用意した鍋に自らの羽根を丁寧に毟ってから浸かり、味付けまで済ませているような状況なのだ。


 しかも、分かりやすくも性的に興奮しているアレクトに「他意」などあろうはずもない。

 下心しかない男が、下心のために努力してきた。

 最初から下心しかないのだから、下心を満足させてやれば良い。

 ドロウィッチにとってアレクトが勇者「だった」ことなどどうでもよかったし、奪える魔法がなくなれば、勇者の神聖な魔力を全身で搾り取ることにただただ夢中になるばかり。


 そのお陰でアレクトは幸福の極まれし場所にいたし、ドロウィッチは彼女の理論の中で幸福な瞬間だった。


 ただ……。


「あ、あ、あぁ……」


 魂が抜けたようにその下品な狂宴を凝視し、言葉という言葉を失って呻き声を上げ続ける聖処女シャルロッテにとっては最大の不幸だったろう。

 しかも、自分がアレクトに差し出したのは宗主国が世界の全てに敵視されても仕方の無い、外法の中の外法であったし……あんな口も尻も軽そうな女が洗脳魔法の使い手となったという恐ろしい事実が宗主国の姫君であるシャルロッテにとっては恐怖以外の何者でもなかった。


 しかも。愛する男は、聖処女に相応しい清潔感溢れる男は……今や、全ての意志を投げ捨て、求め続けた肉欲の化身に抱きしめられただけで喘ぎ続けている。


 当然、アレクトは神聖な童貞である。シャルロッテは宗主国の権力で調べさせ、それを知っていた。

 聖処女たる自分に相応しい男は自分で初めてを捨てなければならない。という古い考えをシャルロッテは持っていたからだ。

 そんなアレクトは、ドロウィッチの豊満にやわらかく受け止められているだけで極まっている。狂おしく乱れ、身も世もなく……特別みだらな行為をしている訳でもないのに、下品に狂い続けているのだ。


「ウソだ、ウソ、ウソ、ボクのすべて、ボクの覚悟、ボクの人生全部をかけた魔法が、あんな下品な低級魔女に差し出すために……?」


 フィーダは絶望した。

 天才の自分が使命感を持って自分の代で葬り去ろうと思っていたおぞましい魔法。戦争のための惨たらしい呪術。それらも、愛するアレクトになら差し出せた。

 だというのに、アレクトにとっては単なる手土産でしかなかった。自分の覚悟も全て無駄。

 ただあの大きすぎる乳房に包まれたい欲望のために消費されてしまった。

 天才魔女である自分と並び立つ、真面目で勤勉な勇者アレクトなど幻想の姿。そこにいるのは白目を剥いて口からヨダレを垂れ流し、高みから決して帰って来れなくなった肉人形に過ぎない。


 ただ、十年かけて求めた双丘に顔を埋めているだけでアレクトのアレクトが見事に反応しているだけなのだが……フィーダにはこの光景が全裸で絡み合う男女よりもみだらな光景に見えていた。

 愛とは時に主観を狂わせるものである。


「イヤ! イヤよ、イヤ……これは夢なんです……夢に決まっています……」


 しかし、それでもシャルロッテとフィーダは、どうして自分たちがアレクトに親切にされたのかという「理由」はわかっていただけ幸福だったかもしれない。

 どんな理由でも好きな人の「役には立てた」。その事実だけは変えようがない。


 だけども闘士であるヘンリエッタはだけは違う。魔法のひとつも使えない自分がどんな理由でパーティに採用されたのか、分かってしまった。


 自分は聖女シャルロッテというレア魔法の辞書を保護するためのブックカバーでしかなかった。

 天才魔女のフィーダという珍魔法のスキルブックを傷つけないようにするための装置でしかなかった。


 自分は彼女らと違って真に利用価値すらなく、荷物に詰める緩衝材のようなものでしかなく、……また、ドロウィッチとの対極の絶壁の胸を持つ自分を好意的に見ていたはずなんてなくて。


 ヘンリエッタは慟哭し、彼女の脳みそはその事実で壊れてしまった。


「アハ、アハ、アハハ……ッ!」


 笑い声をあげて、彼女は地面をイモムシのようにのたうち回った。

 文字通り血のにじむような努力を、物心が着く前からしてきた自分の価値を思い知って、とうとう壊れたのだ。


 その武の才能を活かすため、彼女に自由なんてなかった。

 少しでも自分をよく見せるために化粧を覚えたのもアレクトに振り向いてもらうため。旅の途中で習得したのは、それまで自由がなかったから。

 打算的だったけれども、健気だったことには間違いない。魔法というエサで釣ることさえできなかったヘンリエッタにとって……「所詮はアレクトが好きな魔法で吊ることしか出来ないバカなライバルたち」を見下していたヘンリエッタにとって、自分はバカなライバルたちの代替可能な包装紙程度の存在だったと思い知るのは酷すぎたのだ。


 その間も、魔力を奪われ続けているアレクトはすっかり幼児退行して乳房に夢中であった。


「えへ♡ えへ♡ もっとぉ……♡」


 しかし、念願叶ったアレクトにとって女たちの絶望などどうでもいい。

 最初から全部どうでもよかった。

 世界なんてドロウィッチとの再会に比べたら滅んでもらって構わなかった彼が、三年ほど旅した仲間なんて気にするほどの価値もない。

 当然、三人娘が思い知ってしまったように彼女らに魅力なんて最初から感じていない。


 今はただ、夢にまで見たドロウィッチの抱擁に身を任せるばかり……魔法と魔力を吸い上げられる不思議な悦楽に溺れ。

 「勇者」という特別な器だからこそできた、圧倒的な魔法の修得量と魔力の保有量のお陰で全身の神経が焼き切れそうなほどの長い長い快楽の中で幸福に浸るばかりだった。


 そして。

 文字通りの出涸らし、完璧に枯渇したアレクトは豊満な胸から離され。

 先に吸い尽くされた山賊たちと同じように地面に伏せることになったが……もはや、アレクトにとって人生とはそういうものだった。


 アレクトほど、自分の村を滅ぼした野盗たちに強い感情……怒りではなく、激しい嫉妬を抱いた人間はいなかっただろうから。

 悔いなどあろうはずもなく。


「御馳走ァン♡」


 分厚い唇をペロリと舐めるドロウィッチを、白く霞む視界の中で捉えたアレクトはぷっつりと意識を失う。

 揺さぶられている間高いところにい続け、ただの一度でさえ「小さな死」と称されるほどの極地に長時間暴露し続けた彼の肉体が無事なはずもなかった。

 それも抵抗したのならともかく、むしろ大喜びで受け入れていたのだから。


 簒奪魔法の副作用で一般人なら命を落としただろうが、アレクトは幸か不幸か……アレクトとしては不幸にも、聖剣に力を与えられた勇者だったので命までもは奪われず。

 ただ魔法と魔力とほとんどすべての生命力を奪い尽くされるという報いを受け、幸福の只中にいる。


 狂おしく愛し求めた相手に全てを奪われるより幸福なことなどあるだろうか!


 そのうち、長い時間が経って僅かな理性を取り戻した三人娘にその出涸らしの肉体をどのように扱われるのかは分からなかったが、アレクトの自我は幸福のままに完全消滅したのでもはや関係の無いことだった。


♡HAPPYEND♡

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