表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

その7 アレクト、再会する

「ドロウィッチ! ドロウィッチ! そこにいるの?!」


 勇者の剣も構えず、魔法で周囲を偵察するわけでもなく、少なくとも傍目には無防備のまま走り出した様子に三人娘たちは慌てて追いかける。

 なにせ相手は分かっているだけでも「簒奪」の魔女……アレクトは今や伝説に語られし勇者の呪文も、魔導大国の叡智たるフィーダの呪文も、女神に選ばれしシャルロッテの呪文も使いこなせる唯一の存在。

 いくら幼い頃のアレクトを一度助けたとはいえ、ここまで目撃情報が極端に少なかったのは行く先々で「奪った」結果なのではないかと三人娘たちは危惧していたので当然の心配だった。


 すなわち、簒奪魔法とは魔法や魔力を奪うだけではなく、副次効果として相手の命までも吸収するような禁忌魔法なのではないかと……ゆえにまだ幼く、保有魔法的に無価値だったアレクトは無事で。野盗たちは「奪われた」ために死に絶えた。

 ゆえに、これまでの目撃者たちは「奪われ」、王国の捜索も、法皇の呼びかけも、索敵魔法にも引っかからない存在となったのではないか、と。


 三人娘たちの思惑など、悲願を叶えようとしているアレクトにはどうでもいい。おのれにとって神のような存在であるドロウィッチに与えられるものなら、それが殺意でもアレクトには嬉しいだろう。


 走って、走って、走って。

 アレクトはとうとう見つけた。

 とうとう。


 山賊の最後のひとりから「簒奪」したらしく、すっかり干からびてしまった荒くれ者を地面に転がしたばかりの魔女が足音に気づいてゆっくりと顔をあげた。


 それはあの時の再現。

 煌々と燃え上がる炎に照らされて、魔女の長い髪が揺れている。

 蛇のように怪しく揺らめく髪、逆光のかんばせ。

 魔女らしい帽子に黒いマント、そしてはち切れんばかりに豊満な胸を隠そうともしない薄着のいでたち。

 今時娼婦も戸惑うような下着同然の格好をして、しかし妖艶な魔女はそこに堂々と立っている。


 白昼堂々、山賊を皆殺しにし……おそらく、彼らの魔法と魔力を根こそぎ簒奪して。積み上げた死体の山を燃やし、その場の人間を根こそぎ全滅させたのにその表情は楽しい買い物をするあどけない娘のように笑っている。


 艶やかで分厚い唇を薄く開き、笑みは三日月のように細く。


 アレクトは誰がどう見ても喜色を浮かべていたが、同時にはらわたが煮えたぎらんばかりに嫉妬していた。

 かつてのドロウィッチの行動がどんなものだったのか、子どもから青年になり理解していても……彼女から奪われるのは自分だけであってほしかったから。


 それは間違いなく愛の感情ではあったが美しい恋ではない。

 ドロドロの嫉妬、黒い執着、ただの妄執。ある意味この世のすべて……勇者の剣に宿った神の意志さえ「一途である」と誤認させ。この世すべてにある希少魔法を根こそぎその身に宿すほどの熱情。

 世界を救うことさえ、ドロウィッチとの再会に比べれば朝飯前、ただの準備運動にすぎない。

 自分を慕ってくれる女たちを巧みに手玉取り、そのすべての知識を差し出させ、自分を追いかけていることに気づきながらも振り払うことさえ「面倒」だったためしなかった……このあと、自分がどう思われてもどうでもよかったからである。


 ドロウィッチと再会したあとの自分の名誉なんてどうでもよかったし、アレクトにとってドロウィッチとの再会こそが文字通り人生の絶頂であり、文字通り人生の終わりであってよかったのだ。


 余談だが、いわゆる「絶頂」とは「小さな死」とも呼ばれるらしい。

 アレクトにとっては「大いなる死」であり、それは人生二度目の絶頂となるに違いなかった。


 なんせ、アレクトはドロウィッチに狂わされて以来完全な不能になっていたのだから。

 幼い脳に強烈に焼き付いた下品なほど豊満な女は、どんな美女相手でも、どんな献身があったとしてもアレクトに……プラトニックな愛情さえ抱かせなかった。


「あらァ?♡」


 かくして、アレクトはドロウィッチと再会する。

 かつての恩人、唯一興奮を覚える相手、彼の性的趣向を粉々に破壊した運命の人に。


「ボウヤ、アタシを知っているみたいねェん? 前にどこかで会ったことあったかしらぁ?♡」

「あるよ、ずっとずっと前に。ぼくが小さな子どもだった頃に。野盗に襲われた村の生き残りの少年が、ぼくだよ、ドロウィッチ」


 シャルロッテは目を疑った。

 いつだって穏やかで、分かりやすいよう優しくゆっくり話してくれるアレクトが……小さな子どもが親に話すように一生懸命な早口になって、幼く拙い口調で話す姿を見て。


「んー、覚えてないケド、そんなこともあったかしらねェン♡ じゃあ、あたしが泥棒魔女だって分かっているんでしょお?♡ ウフン♡ 随分美味しそうに育って……もしかして、何か期待しているのォ?♡」


 フィーダは見てしまった。

 子犬のようにドロウィッチに縋り付いたアレクトの股間が……つまりアレクトのアレクトが見事にアレクトしているさまを。

 勇者のためにあつらえられた、聖魔法をエンチャントしてある鎧の下履き。

 正義を示す真っ白なズボンにそれはそれは立派な三角の山が出来上がっているさまを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ