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その6 勇者、追いつく







「アレクトさま……?」

「どうしてぇ……」

「わたくしをおいていかないでくださいまし……」


 文字通り縋り付く三人娘を優しい手つきで、しかし有無を言わせず引き剥がしたアレクトは困り顔を隠そうともしない。


「どうして、か。

返事するなら『どうしても』なんだよ。あの日、ぼくはあのひとに救われたんだから……そのために、ぼくは世界を平和にした。勇者になろうと思った。あの人のために……」


 それだけ言い残し、今度こそアレクトは振り返らずに立ち去った。


 残された三人は互いを恋敵と認めていたけれど、この場では同じ願いを持つ共犯者になることを決めた。

 すなわち、三人で協力してこっそりとアレクトを追跡することに決めたのである。

 

 アレクトがそうまでして追い求める「簒奪の魔女」の面を拝んでやらないと気が済まなかった。年齢差があるふたりが釣り合わないようなら……願わくば「簒奪の魔女」に配偶者がいてくれると丸く収まるのだが……ともあれ、愛するアレクトの心を横から掻っ攫ってやりたい。そんな気持ちだった。


「アレクトさまは一途なんです。そういう所が素敵なんですよね……」

「そうそう、すーっごく真面目でなんでも最初は型通りなんだよねー。魔法オタクなの、『簒奪の魔女』に憧れてなのかなー? スグにもっとイイコトがあるんだって、教えてあげなきゃねー。恩人は恩人、恋人は恋人ってさー」

「とっくに流浪の魔女よりアレクトさまの方が素晴らしい魔法使いでしょうに。でも、義理堅くて恩人のために一生懸命なお姿……わたくし、いつも少し遠くを見ているアレクトさまの横顔に惹かれたのですわ」


 三人は自分に言い聞かせる言葉を繰り返しながら、既に用意してあった荷物を持ってアレクトを追いかけ始めた。

 姿を隠す魔法も、気配を消す魔法も全部教えてしまったので気づかれているとわかっていながら。

 いや、彼女たちはわざと気づかれたかったのかもしれない……自分たちの強い気持ちを。


 そうして、魔王討伐の旅と同じ面子の、しかし妙に距離の離れた旅が始まった。


 アレクトはまず、かつて勇者として訪れなかった瘴気汚染のなかった地域を巡った。

 当然、危険な地域よりも人口密度が高く発展している地域である。

 勇者アレクトの顔は危険な瘴気との境界地域の方が売れていたので正体に気づかれて騒がれることはなかった。


 後ろから追いすがる女たちはそれを見て誇らしいやら悔しいやら。

 この地域が発展し、そして今も栄華を誇っているのは愛する勇者と自分たちの尽力のおかげだというのにまるでアレクトはただの旅人のように振る舞い、そのように受け入れられる。

 これが隠れながら追いすがる旅でなければ大声で喧伝し、持てる権力やコネを活かして愛するアレクトを見せびらかすために祀り上げさせたというのに。


 言わずもがな、恩人に一途な程度には倫理観がまともで基本的に温厚なアレクトにとっては迷惑極まりない行為だったが。アレクトにとって幸運なことに、どこの地域でも三人娘は何事も起こせなかった。


 寝る間も惜しんで人を訪ね歩き、時に金で人を雇い、探し回って十日ほどで見切りをつけて次の町へ。

 魔王の残党を見るやすぐに始末をつけ、感謝の言葉や金銭的なお礼を固辞して人探しに話をすりかえる。あからさまにわざと恩を売ってでも「簒奪の魔女」を探している……。


 三人娘にとって、それまでアレクトという勇者はいっそ潔白すぎるほど聖人君子な英雄だった。聖職者であるシャルロッテでさえやりすぎと思ったことが一度や二度ではなかったほどに。


 私利私欲など以ての外、何より世界を救うことを優先し、そこにいる苦しむ人間を救うために努力する。

 結果的に感謝され、押し付けられた謝礼を受け取ることにはなっても、もともとは何の見返りも求めていなかったことなので「想定していない親切」に出会えた、という反応だった。


 ところが今はどうだろう。

 わざと困らせたり、魔物をけしかけたりしているわけではもちろんない。

 だが、凶暴な魔物が暴れている地域をわざわざ訪ね歩いたり、アレクトの魔法で解決できるような騒動が起きていることを事前に把握してから訪れ、たっぷりと恩を売ってから困ったように「尋ねる」。

 マッチポンプではないが、限りなく「わざと」の行い。

 非難されるほどの行いではない……やっていることは人助けなのだから……だけれども、彼女らの愛する勇者アレクトの人物像とはかけ離れた行い。

 

 今までのアレクトとは全く違う振る舞いに戸惑いながら、三人娘は喧嘩をまじえつつもひたすらに足取りを追っていく。


 ドロウィッチの曖昧な目撃証言、それらしい人物の情報、断片的な情報を集めてアクレトは進んでいく。


 そして。

 アレクトはとうとう辿り着く。

 実に二度目の旅が始まって更に三年が経過していた。


 彼が目指すは、目撃情報の集積地……有名な山賊のアジト。

 非力なイメージのある魔女がいると思えば意外か、それともアレクトの出身地が野盗に襲われている時に出会ったことを思えば荒っぽい地域にいるのは順当か。


 ともあれアレクトは躊躇なくアジトに乗り込み、乾涸びて倒れ伏していた山賊たちを発見すると目を輝かせて走り出した。

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