11 トラヴィス伯爵邸にて_11
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トラヴィス伯爵邸に馬車が到着するや、月明りのみで暗い庭先まで、その家の当主と思しき中年の男性が、わざわざ出迎えてくれた。
「英子さん、彼がこの地域を治める領主、フォルト・トラヴィス伯爵です。後は打ち合わせどおりに!」
「了解です!」
斎木さんと私(英子)はお互いに頷き合うと、先ほどとは打って変わって、満面の営業スマイルを作った。
「おぉ、サイキ殿。夜分にお呼び立てして申しワケない!」
どうやら、こちらの到着を待ち切れなかったのだろう。トラヴィス伯爵自ら馬車のドアをノックしてきた。
「おぉ、トラヴィス伯爵! ご当主自ら出迎えて頂き、誠に恐縮です。本来なら、こちらから伯爵邸に伺うべきであったのに、大変ご足労をおかけしました!」
斎木さんは明るい声でそう言って、出迎えた伯爵とお互いに抱き合って挨拶する。
えっ!? えぇーっ!? 2人って、一応対立関係にあるんじゃなかったの?
とは思ったものの、こちらも斎木さんに見習って、スマイル、スマイル。
「サイキ殿、……。そちらのお連れの方は?」
「えぇ。私が本国より招聘しました絵師ですな!」
「ほぅ。女性の方ですか、……。大変珍しいですな!」
さて、ここで私も名乗った方がよろしいのかなぁと英子は思った。
「大藪英子でございます。どうぞ、よろしくお願い致します!」
「おぉ、ヤムント語をお使いになる。誠に以て、素晴らしい限りだ! さぁどうぞ、お手を取って下され!」
「ありがとうございます!」
伯爵の手を借りて暗い車内から外に降りた際、月明りが私の全身を照らした。
「おぉっ!」
「……」
えっ!? 何、今の感嘆の言葉、……。
「これは、……。大変、お美しい、……」
あぁ、そう言う意味か。大丈夫、日本にいる頃から散々聞かされてきた言葉だ。
「ありがとうございます、伯爵!」
使い慣れたスマイルでひとつ頷くと、相手は漸く手を放してくれた。
「では、お二方。狭い屋敷ですが、ご案内致しますぞ!」
伯爵はそう仰ると、母屋の方に案内してくれた。
玄関先には大きな篝火が左右に2つ設置されていたが、建物に入ると有力貴族らしく、ふんだんに光魔石の天井照明が部屋の隅々まで照らし出していた。
とりあえず、私は斎木さんから商売道具の新品の基礎化粧品のセットを預かっている。
これまで斎木さんは国内の貴族達と仲良くするため、こういった日本からの手土産、最新の商品を持参しては、周囲には内緒で渡していたのだという。
「トラヴィス伯爵、私からはこちらになります!」
斎木さんが伯爵に日本産のウイスキーを渡すと、伯爵は満面の笑顔で「忝い!」といって、その手土産を大事そうに受け取った。
廊下を3人で渡って客間に通されるのだと思ったら、食堂まで案内された。
しかも、伯爵のご家族総出で席をお立ちになると、「ようこそ、伯爵邸へ!」と挨拶された。
こちらも、斎木さんに倣って挨拶をした後に、席に着く。
「お二人は、夕餐はまだでしょう。本日は程度のいいほろほろ鳥を用意しましたので、……。よろしかったら召し上がって下さい!」
「お気遣い、誠に恐れ入ります」
斎木さんはスマイルでひとつ頷いた。
ほろほろ鳥かぁ、……。これで、漸くありつけるみたい。
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