02 英子は数年前の春に、都内の美大を卒業していた_03
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「ねぇーっ、英子。私たちね、今度の秋にトリノで開かれるビエンナーレに、ウチの学校から代表して出展することが決まっているの」
「そうだな。ウチの研究室から、2人で合作でな。もう既に海外のメディアにも取り上げられてさ。バイヤーとも、そのウチの何点かは、話がもう付いているんだよ」
「そうそ」
「……」
聞きたくもない。全く面白くもない助教と女の院生の夫婦漫才を、いつまで聞かせてくれるんだろうなぁと、英子は思った。
「それじゃぁ、私、……」
タイミングを見計らって、そろそろお暇しようと思ったんだけど。
「ねぇ、英子、もうちょっと付き合ってよ。私たちの仲じゃん!」
「えっ!?」
女の院生は、そう言って英子の塞がっている右手首をむんずと掴むと、……。ニシシと、白い歯を見せて笑った。
どうやら、英子のことを全く逃がす気がないらしい。
英子はそのまま2人と気マズい会話を続けることになり、……。結局、軽く近況報告をお互いにし合う羽目にあった。
英子は現在フリーターをしていることを正直に告げると、「そのウチ、チャンスがあるわ」といって、女の院生が窘めるように笑うと、助教も表情を作ってうんうんと頷いた。
一方、女の院生は自身が成功していることをことさらアピールし、近々海外の美大に2人で留学する話を振ってきた。
英子は、そのことをどうしてもこちらに伝えたかったんだろうなぁと、理解した。
それに比べて、英子の立場の如何に危ういことか。
大学院には進学できず、就職活動も失敗。金銭的にもカツカツで、23区にこれ以上住み続けるのは、もはや限界を迎えていた。
「英子ってさ。もうとっくに『断筆』しているんじゃないかって、研究室で噂になっていたんだよ」
女の院生は、笑顔でそう嫌みを言ってきた。ライバル心剝き出しなのは、相変わらずだなぁと英子は思った。
ホンとさ。今の私なんて、アンタたちから見たら足元にも及ばないのにね、と英子は思う。
でも、英子にも矜持がある。負け犬にも、五分の魂があるんだからね。
「そだね。私も早く仕事を見つけないと。バイトだけじゃ、ホンと直ぐに干上がって、ダメになっちゃうよ」
「なら、差し詰め、英子は『断筆』姉さんか?」
英子は怒ったりせず、笑顔で否定も肯定もしなかった。
「魁!断筆姉さん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
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