11 トラヴィス伯爵邸にて_05
* *
「では、私は隣りの部屋におりますから。何かあったら、直ぐにノックして声をかけて下さい!」
「はい」
斎木さんは笑顔でそう言って、隣室のドアを閉じた。
さて、……と。
私(英子)も夕食までまだ時間があるから、……。
そう思いながら部屋の奥に進むと、浴室のドアを開けた。
へぇーっ。水道管がないのに、蛇口だけあるのね。
水魔石を設置された蛇口が、2つある。
左が青く、右が赤の蛇口で、……。試しに青の蛇口を捻ってみると、水が勢いよく流れ出てきた。
しかも、浴槽の排水口の先に配管がないにも拘わらず、ゴポポと音を立てながら排水されてしまうのだ。
ホンと、不思議っ!? 一体、どうなってるの!?
こういうのを見ていると、地球ではなく異世界にきちゃったんだなぁ、……と強く実感する。
今度は右の赤い蛇口を捻ったところ、入浴するのに程よい温水が流れ出てきた。
「……、凄い!」
蛇口を閉じると、客室に戻ってベッドに腰かけた。
腕時計を見ると、17時半を少し過ぎている。
先ほどの斎木さんの話だと、宿の夕飯の時刻は18時半で、まだ1時間ある。
そうだ、……。
ふと思い出したように、深緑色の作業服の袖に鼻を近づけると、くんくんと匂いを嗅いだ。
すると、昨晩ゴブリンと格闘していた時から着替えていなかったため、ほんのりと汗と獣の臭みが混ざった匂いがする。
思わず眉間に皺を寄せて顔を顰めると、堪らず袖から顔を突き離した。
「これは、……酷いっ!!」
およそ、女子のやっていい匂いではない。
とにかく、まだ時間があるから、……。
英子は窓のカーテンを閉めることも忘れ、次々と作業服のシャツとズボンを脱ぐと、再び匂いを嗅いだ。
「くわぁぁぁ~~っ!!」
思わず寒気に襲われるほどの匂いに、身体を仰け反らせると、……。
「洗濯しなくちゃっ!!」
幸い、自身の身体自体はそんなに臭くなかったので、……。
下着姿のまま、これ幸いと装備品の石鹸で汚れた作業着を洗い始めた。
「ふぃ~~っ」
大体10分くらい経って、漸く匂いが落ちたようなので、軽く絞ってからハンガーにかけてベランダに干した。
これが日本だったら、さすがにマズいだろうけど、……。
でも、まぁここは異世界だ。ベランダは表通り側ではないから、これくらいやっても叱られることはないだろう。
10数分後。浴室で湯船に浸かっていると、……。姿見に映る自身の姿を見て、ふと思った。
あれだけの戦闘を経験したのに、……。ホンと、傷ひとつ付いていないんだね。
「……」
今頃になって、どれだけ自分自身、運が良かったのかと、……。
そうしたら、思わずぶるると身体が震え出し、膝を抱えて泣いてしまった。
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