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魁!断筆姉さん!!  作者: 西洋司


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02 英子は数年前の春に、都内の美大を卒業していた_02

   *         *


 ヒィギャァーーッ!? 

 マジでさ、……。助教、コイツにだけは、会いたくなかったんだよぉ、と英子は思った。


 いろんな意味で、英子はこの助教が苦手だった。なんなら、コイツのせいで男性不信にすらなったと言える。


 英子のもとまで風の噂で伝わってきた話によると、この院生の女と助教の2人は、現在結婚を前提に交際しているらしいんだよね。


 ちらりと窺うと、女の院生の左手の薬指には、銀か白銀の指輪が嵌められていて、……。

 街灯の白黄色しろきいろい光に触れて、鈍く生暖かく輝いていたんだ。


 でもさぁ、何だかなぁ……と、英子は思う。

 だって、あの助教、私にも散々甘い言葉で囁いてきてさ。何度も何度も、誘ってきやがったんだからねぇ、と。

 

 そんな2人が、一癖も二癖もありそうな笑顔を浮かべ、大学の敷地の柵越しに、英子の前にずいと現れたのだ。

 

 ねぇ、もう早く下宿先やさに帰っていいですか? と、英子は心細く思った。 

 気マズい。でも、私も社会人の一人として、この場から逃げ出すワケにはいかないのだよと英子は思った。


「お二人とも、お元気そうで」


 やっとの思いで2人にそう挨拶すると、2人はお互いの顔を見つめ合った後で、助教が嬉しそうに、「あぁ。英子は、元気にやってるか?」と訊いてきた。

 

 2人の左手の薬指には、お揃いの指輪が嵌められている。

 

 院生の女の実家は富豪で金銭的に余裕があり、画材なんかも豊富に使って作画する、……。

 いわゆる、豊かな絵を作る人だった。

 

 一方で、英子の家はバブル崩壊の余波で、大変な貧乏だった。

 英子は親の反対を押し切って上京し、23区内の美大に進学。卒業後も創作を続けるも、親の仕送りを期待できないため、ほぼバイト漬けの毎日だった。


 だから、私は異世界ファンタジーに、のめり込んでいったんだよねぇ、……。


 金欠の学生時代の英子は、半ば逃避行動で図書館に通い、蔵書を読み漁った。

 特に嵌ったのが、トールキンら異世界ファンタジー。


 この現実世界では、たとえ報われなくても、……。

 でも、異世界に行けば、創作活動も含めて、私は幸せになれるのかもしれない、……。


 絶えず現実世界に打ちのめされてきた英子は、そんな妄想にしがみ付いていたのだ。


 だからといって、妄想とだけは断定できないんだよね、と英子は思う。


 そもそも、日本ではまだこのジャンルはあまり流行っていなかったが、……。

 もしかすると、今後の日本の経済状況次第では、このジャンルが跳ねるんじゃないかなぁと思っていたのだ。


 もし私が一発流行らせたら、がっぽがっぽと一儲けできるかもしれない。

 英子はそんなことを考えながら、当時から寝る時間を削って、絵筆を疾らせる創作活動に励んでいたのだが、……。


 ただ、一度だけ、……。ちょっとだけ、どうしても不安が拭えなかったから、助教にアドバイスを貰うことにしたんだよ。


 すると、助教はあまり興味を示すことなく、「まぁ、やるだけやってみたら?」というだけだったんだ。


 その後しばらくして、英子の異世界ファンタジーの基礎アイデアを、目の前の女がそっくりそのまま使って、200号の大作を先に描いてしまってさ。


 しかも、公募で東京都の賞まで取ってしまったんだよ。

 

 そんなことを思い出していたら、……。

 英子の口の中が、段々と苦い鉄の味がしてきた。

「魁!断筆姉さん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!

英子の作家魂や、仲間たちとの冒険を楽しんで頂けたら嬉しいです!

この物語を気に入って下さったら、☆評価やブックマークで応援して頂けると、作者の励みになります!

英子と一緒に次の展開を盛り上げるため、ぜひ力を貸してください!✨

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