02 英子は数年前の春に、都内の美大を卒業していた_02
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ヒィギャァーーッ!?
マジでさ、……。助教、コイツにだけは、会いたくなかったんだよぉ、と英子は思った。
いろんな意味で、英子はこの助教が苦手だった。なんなら、コイツのせいで男性不信にすらなったと言える。
英子の許まで風の噂で伝わってきた話によると、この院生の女と助教の2人は、現在結婚を前提に交際しているらしいんだよね。
ちらりと窺うと、女の院生の左手の薬指には、銀か白銀の指輪が嵌められていて、……。
街灯の白黄色い光に触れて、鈍く生暖かく輝いていたんだ。
でもさぁ、何だかなぁ……と、英子は思う。
だって、あの助教、私にも散々甘い言葉で囁いてきてさ。何度も何度も、誘ってきやがったんだからねぇ、と。
そんな2人が、一癖も二癖もありそうな笑顔を浮かべ、大学の敷地の柵越しに、英子の前にずいと現れたのだ。
ねぇ、もう早く下宿先に帰っていいですか? と、英子は心細く思った。
気マズい。でも、私も社会人の一人として、この場から逃げ出すワケにはいかないのだよと英子は思った。
「お二人とも、お元気そうで」
やっとの思いで2人にそう挨拶すると、2人はお互いの顔を見つめ合った後で、助教が嬉しそうに、「あぁ。英子は、元気にやってるか?」と訊いてきた。
2人の左手の薬指には、お揃いの指輪が嵌められている。
院生の女の実家は富豪で金銭的に余裕があり、画材なんかも豊富に使って作画する、……。
いわゆる、豊かな絵を作る人だった。
一方で、英子の家はバブル崩壊の余波で、大変な貧乏だった。
英子は親の反対を押し切って上京し、23区内の美大に進学。卒業後も創作を続けるも、親の仕送りを期待できないため、ほぼバイト漬けの毎日だった。
だから、私は異世界ファンタジーに、のめり込んでいったんだよねぇ、……。
金欠の学生時代の英子は、半ば逃避行動で図書館に通い、蔵書を読み漁った。
特に嵌ったのが、トールキンら異世界ファンタジー。
この現実世界では、たとえ報われなくても、……。
でも、異世界に行けば、創作活動も含めて、私は幸せになれるのかもしれない、……。
絶えず現実世界に打ちのめされてきた英子は、そんな妄想にしがみ付いていたのだ。
だからといって、妄想とだけは断定できないんだよね、と英子は思う。
そもそも、日本ではまだこのジャンルはあまり流行っていなかったが、……。
もしかすると、今後の日本の経済状況次第では、このジャンルが跳ねるんじゃないかなぁと思っていたのだ。
もし私が一発流行らせたら、がっぽがっぽと一儲けできるかもしれない。
英子はそんなことを考えながら、当時から寝る時間を削って、絵筆を疾らせる創作活動に励んでいたのだが、……。
ただ、一度だけ、……。ちょっとだけ、どうしても不安が拭えなかったから、助教にアドバイスを貰うことにしたんだよ。
すると、助教はあまり興味を示すことなく、「まぁ、やるだけやってみたら?」というだけだったんだ。
その後しばらくして、英子の異世界ファンタジーの基礎アイデアを、目の前の女がそっくりそのまま使って、200号の大作を先に描いてしまってさ。
しかも、公募で東京都の賞まで取ってしまったんだよ。
そんなことを思い出していたら、……。
英子の口の中が、段々と苦い鉄の味がしてきた。
「魁!断筆姉さん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
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