09 バルディ男爵邸にて_05
* *
「ウチの領ってねぇ、……。出るんですのよ!」
「!?」
えっ!? 出るって何が? と私(英子)は思いつつ、バルディ男爵の奥方様のお顔をじっと見た。
今、私達は奥方様のドレスルームにいる。光魔石を設えた天井照明が、彩り豊かな多くのドレスを静かに照らしていた。
室の窓際に、化粧台がある。その席に奥方様がお座りになって、私に化粧をさせていて、……。
周りをお嬢様やご子息様、他に若い女中数名が取り囲んでいるという状況だ。
「ほらほら、エイコ嬢、……。お手が停まっていてよ!」
「あっ、あぁそうでした!」
そう言いつつ、こちらも再び化粧筆を静かに疾らせた。
それから10数分。お嬢様や女中の皆さんは固唾を飲んで、じっと見守っていた。
そして、ひととおり作業を終えると、いったん化粧筆をトレイの上に載せた。
「まぁ、こんなものかな?」
奥方様の場合、ファンデーションを載せただけでも、十分お綺麗だと思うしね。
すると、先ほどまでじっと様子をご覧になっていた皆さんが、ワッと声を上げた。
「今回は軽めとお伝えしたとおり、これでよろしいですか?」
「えぇ、十分よぉ!」
どうやら、その仕上がり具合に皆さんご満足頂けたようで、自然と拍手が沸いた。
ふふふっ。とっても熱かったね。特に、皆様の視線が!
これではまるで日本から異世界にやってきた、「美」の伝道師みたいだねぇと英子は思った。
日本から持ってきたスーツケースを覗くと、未使用の基礎化粧品と化粧筆が、まだまだたくさん入っている。
なるほど。斎木さんからは、特に指示を受けていなかったけどさ。現地の女性をこれで味方に付けてくれってことなのかなぁ、……と英子は思った。
「では、次はお嬢様の番ですよ!」
「やたっ!」
喜色満面のお嬢様は、意気揚々と化粧席に着いた。
「それでは、始めますよ!」
再び女性陣が固唾を飲む中、英子は化粧筆を疾らせていく。
お嬢様も、素材がいいのかな? 化粧スレしていない肌が、何だかとても瑞々(みずみず)しいし、……。
こちらの筆が段々ノッてきた頃、奥方様がポツリとこう仰った。
「ウチの人、お顔に凄い傷があるでしょ? 領地で魔物に襲われてしまってね。その時の傷なの、……」
「そうでしたか、……」
英子は、奥方様の言葉に気持ちがこれ以上持っていかれないように気を付けつつ、お嬢様の目元に筆を疾らせ続けた。
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