09 バルディ男爵邸にて_01
「夜分に忝い。以前話したとおり、私とこの女性を、一晩そちらの屋敷に泊まらせて頂きたいのだが、……」
バルディ男爵邸の玄関先にて、斎木がこちらの訪問に応対する女中に声をかけた。
「はい、しばらくお待ち下さい」
相手はそう言って、奥座敷に下がっていくと、……。ほどなくして、屋敷の奥から男爵自ら現れた。
「おぉ、サイキ殿。こちらの女性の方が、以前お話しになられていた方ですな?」
「えぇそうです。オオヤブ・エイコさん。職業は絵師をされています」
英子はその紹介に、すかさずひとつ、無難に笑顔でお辞儀を返した。
実際の話、たとえ田舎の男爵とはいえ、これまでの人生で「貴族」という身分の者とは接したことがなかったからね。
見たところ、バルディ男爵の服装は、中世のヨーロッパ辺りの貴族服とよく似たものを着ていた。ブラウスもズボンも、明るい染料で丁寧に着色されたもので、おそらく現地では高額なものなのだろう。
一方、斎木さんも私も全身自衛隊の深緑色の作業服に身を包み、私はごく最小限の化粧しかしていない。
たとえ斎木さんがヤムント国で有力者であったとしても、この服装では相手に舐められてしまいかねないのでは、と英子は思った。
大体どんな人達かは、事前に行った研修で、ある程度は把握していたんだけどさ。
まぁ、とりあえずは笑顔を崩さず、明るくしていれば問題ないかなぁ。
「おぉ、サイキ殿。こちらの女性も、苗字をお持ちなのですかな? さぞや、名のある絵師でいらっしゃいますかな?」
「えぇ、技術は折り紙付きですよ」
「そうですか、そうですか」
え~っと、……。斎木さん、そんな紹介で大丈夫なんだ、と英子は思った。
「いささか狭い田舎の我が家ですが、エイコ殿もどうぞごゆるりとお過ごし下さい!」
母屋に通されると、屋敷内は様々な魔石を使用することによって、生活レベルが格段に高くなっていることがワカった。
例えば光魔石とか、炎魔石、水魔石があって、それぞれ照明、コンロ、蛇口と、現代日本風の文明の利器が随所に配置されているんだよ。
洗面室にて、石鹸で手を洗いながら、さすがは貴族様だなぁと、……。
英子は思わず感心した。
「我々は、晩餐の席に招待を受けています。では、英子さん、……。事前に話したとおり、こちらに着替えて待機して頂けますか?」
英子は日本から持ち込んだスーツケースを受け取ると、別室で昼間着ていた作業服を脱ぐ。
バルディ家の若い女中の手を借りながら、斎木の用意したイブニングドレスに、さっそく着替えた。
それから、姿見の前でさっと軽く化粧を直していると、……。
若い女中が目を見張って、じぃっとこちらの様子を窺っていた。
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