04 霞が関のコンビニで、深夜のバイトを始めました_04
* *
それから2週間の後、……。
ふとしたきっかけで、「私は絵を描いているんです」と、その常連さんに告げることがあった。
すると、相手はニッコリと笑顔で、「大藪さん、応援していますよ!」というのだ。
突然名字を言われて不思議に思ったら、黒スーツ姿の中年の常連さんは、自身の胸元をクイッと親指で指して笑った。
あぁ、そっか。ネームプレート見て話したのか、……。
「いやいや、こちらの店長さんが、私に教えてくれたんですよ」
「えぇっ、個人情報漏洩!? 公務員の皆さんは、その辺り、とっても厳しいんじゃないんですかぁ?」
こちらがわざとらしく、笑顔でそう訴えたところ、……。
「ふふふっ、すみません。でも、英子さんも、私が公務員だとお知りのようですが?」
「ふふっ。私も、店長さんから伺ったものでして、……」
そう言って、お互いに笑い合う。
そっか。どうやら店長が、それとなく常連さんに教えていたらしい。
でも、……さ。こちらとしても、好みドストライクのイケてるオジさんとお話ができたからさ。何だか、少し嬉しいかも。
「もし、よろしければ、……なのですが。名刺とかあれば、頂くことはできませんか?」
ここで、……。英子は少しだけ踏み込んで、その常連客に接しようと思ったんだけど。
すると、相手の男性はゆっくりと頭を左右に振って、「申しワケありませんが、……」といって、こちらに名前を伝えることはなかった。
役職上、名前をどうしても伝えることができないのだという、……。
「まぁ、……そうですよね。すみません、踏み込み過ぎました」
「……」
英子としては、これまで男性に対して、いろいろなことをこちらから伝えて、それが叶わないことはほとんどなかった。
特に、自身の美貌を誇っているつもりもない英子だけど。
こんな「否定」、「拒否」は初めての体験で、ちょっとだけその小さな自信がぐらつくのを感じた。
それからも、そのコンビニに勤め続けていると、何度もその常連客は訪ねてきて、……。
彼の穏やかな雰囲気に、こちらの胸が静かにときめくのを感じたんだけど、……。
でも、……さ。もちろん誰にも言えないよ。
英子は、明け方前にコンビニのバイトを終えて、朝陽の差す中、下宿先に戻った。
久しぶりにシャワーを浴び、コンビニの優待で買った残り物で、早めの朝食を摂る。
つなぎに着替えると、キャンバスの前に座して、ひとつ深く長い呼吸をした。
「私は、この絵と共に死ぬ覚悟だ!」
英子はそう呟くと、コンテストに向けて、再び絵筆を執った。
「魁!断筆姉さん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!
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