9.追放聖女と魔物たち
「エーケ様!」
エーケによって助けられた男が叫ぶ。獣がエーケの左腕を切り裂いたのだった。
エーケは呼吸を整えながら、周囲を確認する。空に魔物はいなかったが、地上では三体の獣が聖女を囲んでいた。
空の魔物は弓兵によって片付き始めた。あとは目の前の獣たちを倒しながら、一人でも多くの人を逃さなければ。
エーケは切り裂かれた左腕に力を込める。鈍い痛みと熱が広がる。
まだ動かせる。まだやれる。
獣が飛び掛かる。エーケは軸足で回転し、すれ違うように身をかわした。攻撃を外した獣が振り返り、再び飛び掛かったが、直後、回避の速度を利用したエーケの回し蹴りが獣を弾き飛ばした。
蹴り飛ばされた獣が別の獣にぶつかり、倒れ込む。エーケはそのまま残りの獣との距離を詰め、掌底を叩き込む。
その場の獣を沈めると、エーケは一呼吸して騒ぎ声の大きな方へ走り出した。
ある程度の救助が済み次第、王城へ行き、賢者の杖に祈りを捧げなければならない。シャーレはまだ勝手がわからず苦労しているに違いない。
賢者の杖へ祈りを捧げ、奇跡を起こすことができれば、防壁は復活し、中にいる魔物をある程度弱体化させることができる。
「竜が出た!」
エーケは耳が拾った情報に急停止し、そちらへ駆け出した。
二階建ての家ほどの竜が翼を広げて吠えている。幸い、炎を吐く種類ではなかったが、その巨躯を活かして暴れており、誰も手がつけられずにいた。
「エーケ様!?」
竜と対峙していた兵士たちが驚きの声を上げる。
「私が皆さんと共に戦う資格がないのはわかっています。ですが……」
そう言い掛けたエーケを兵士たちが制止する。
「第三隊長殿から伝令が出ています。エーケ様、貴女は我々の味方である、と」
「皆さん……。ありがとうございます」
「現在の状況ですが、あの竜を騎兵隊が外へ誘導しようとしたのですが、まるで岩のように動かず……盾兵が距離を取りながら被害をおさえている状況です」
「わかりました。では、まずは陣形を……」
「エーケ様!」
低く太い声が響く。エーケが振り返ると、そこには王城お抱えの鍛冶屋が手を振っていた。
エーケとは顔馴染みのその男は、大きな剣を携えている。
「おじ様!」
「探しましたぞ。さあ、こちらを!」
鍛冶屋はエーケの肩ほどの大剣を放り投げる。
エーケが右手を伸ばすと、大剣は吸い込まれるように彼女の手に収まった。
「あなたの師匠と同じ型です!」
「助かります!」
エーケは大剣を構える。特殊な宝石が埋め込まれた巨大な剣。祈りを捧げることによって、エーケの腕力でも軽々と振り回すことができる。
竜が吠える。怯む盾兵にエーケが叫ぶ。
「すみません、盾を空へ向けてください! 跳びます!」
エーケの言葉を受けた盾兵が彼女の言葉に従うと、エーケは盾に跳び乗り、空中へと駆けた。
エーケに気が付いた竜は爪を振るった。エーケは大剣を振り下ろしそれを受け止める。
「くっ」
エーケは爪を破壊するが、勢い良く吹き飛ばされてしまう。地面に叩きつけられる直前、地面に大剣を突き刺し、それにしがみつく形で勢いを流した。
力では勝てない。
その時だった。竜を青い稲妻が包み込む。
「シャーレ!」
エーケは喜びの声を上げる。あれは防壁の中に入った魔物を攻撃する賢者の雷だった。シャーレの祈りが賢者の杖に届いたのだ。
「負けていられない!」
エーケは大剣を引き抜き、滑り込むように竜の足元へ入り込んだ。そして、両足を切り付ける。
「!!!」
体制を崩した竜は顎を地面に叩きつけるように倒れ込んだ。起きあがろうとするが、稲妻に包まれ動きが鈍っていた。エーケはすぐさま回り込み、脳天から大剣を突き刺した。
「エーケ様がやったぞ!」
「防壁が戻った! 獣たちが奇跡の光に灼かれて消えていくぞ!」
「弱った魔物たちを追い詰めろ! 誰も死なせるな!」
兵士たちが大声を上げる。
エーケは大剣を引き抜くと、シャーレのいる城へ目を向けた。