6.追放聖女と魔物
町は大騒ぎだった。地上は獣のような魔物が走り回り、空には翼の生えた魔物が飛び回っていた。それらは鋭い爪で人々を襲う。衛兵たちの活躍もあり、死体は見えないが、それも時間の問題だった。
「カラーネ、カラーネはどこ!」
娘の名前を呼ぶ母親が家から飛び出す。
「お、お母さん!」
母の呼び掛けに娘は答えたが、状況は悪かった。カラーネは、魔物が壊した木製の家屋に足を挟み動けなくなっていた。
「カラーネ!」
「助けて!」
親子の叫びに気が付いた魔物がゆっくりと近寄る。
母親は一瞬たじろいだが、すぐに娘に覆い被さった。力で助けられないと悟った彼女は、一縷の望みに賭けて娘の盾になることを選んだ。
獣が吠える。それは飛び掛かる合図だった。
母親はそっと目を開ける。そこにはローブを纏った女が立っていた。女の足元には先ほどの獣が倒れている。
母親はその姿に見覚えがあった。
「エーケ、様?」
母親が声を掛けると、振り返った女がローブを外し、笑顔を見せる。
「よく頑張りましたね」
追放された聖女は穏やかな口調で言うと、声を張り上げる。
「誰か! ここに動けない方がいます!」
エーケの掛け声で人が集まり、カラーネが助け出される。
「ありがとうございます……エーケ様」
「どうしてここに」
「追放されたのに」
「これも偽物の仕業なんじゃ」
「いや、前に外に魔物が出た時にエーケ様が奇跡の力で魔物を消滅させたのを見た」
「だが、あれは賢者の杖の加護があったからだろう。国がこんな状態なら奇跡の加護はないはず」
「いまさら偽物が何の用だ! この魔物だってエーケ、あんたが呼び込んだんじゃないのか?」
口々に言葉を並べる中、一人の男が大声で悪態をつく。その大声に反応した獣が、声の主に狙いを定めた。
「しまった……」
獣が男に飛び掛かる。
エーケは素早く間に入り込むと、右の拳を獣の顎に叩き込んだ。よろめく獣に追撃の左拳が入る。獣は後ずさったのちに崩れ落ちた。
「身を隠してください!」
心無い言葉を投げた男に対してエーケは強い眼差しで声を掛けた。男は呆気に取られつつも「はい!」と返事をする。
「無理はせずに、安全を確保してください。必ず、助けが来ます!」
エーケの明るい声は周囲の人間の恐怖で凍りついた足を溶かしていく。
「み、みんな、行こう!」
先ほどの男が声を掛け走り出すと、それに続くように人々は逃げ出した。
様子のおかしさに気が付いたのか、魔物たちがエーケに集まり始める。
空を飛ぶ魔物が、翼で空気を切りながらエーケに突進する。
エーケは寸前で体を傾け攻撃をかわし、がら空きの背中に組んだ両手を打ち下ろした。
「すごい……」
「あんなに強いお方だなんて」
逃げながらエーケの姿を見た人々が声を漏らす。
エーケは深呼吸を繰り返しながら、師との修行を思い出していた。