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3.追放聖女と町の守り

 エーケの処遇が決まり、その晩、「偽聖女追放」は城下町を中心に、国中に伝えられた。


 城下町と、周辺の小さな村だけしかない小さな国。そんな国が魔物の襲撃を受けずに平和を手に入れていたのは聖女のおかげ。


 国の者なら誰でも知っているその事実が偽物だという報せは、瞬く間に広がっていった。



 前聖女派は反発し、抵抗したが敵わず、エーケと共に国を出ていくことになった。国を追放されたエーケには日が三つ落ちるまでの猶予が与えられたが、城からは追い出され、季節が一巡りするほども越えられない金貨だけが渡された。


 町中は「偽聖女」の話題で持ちきりだった。


「そんなはずはない。自分は聖女様に怪我を治してもらったことがある」

「信じられない。あの方を追い出したら、街の平和は消えてしまう」

「いや、そんな気はしていた」

「ずっと怪しかった」

「祈りの力なんてあるわけがない」

「騙されていたんだ」


 国民たちは思い思いの言葉を並べて、偽聖女の話題を盛り上げていた。



 エーケは顔を隠すローブを纏い、中央広場の隅で、噴水を眺めていた。


 彼女はこの風景が好きだった。

 朝になれば子供達が水遊びをし、それを遠くから老夫婦が微笑みながら眺めている。昼になれば多くの若者たちの憩いの場となり、夜には食事を終えた家族たちや、業務を終えた兵士たちの安らぎの場所となっている。


 ささやかな平和と幸せの風が、この広場には吹き込んでいた。


「エーケ様」


 エーケが振り向くと、子供の頃から面倒を見てくれていた使用人、ギズが頭を下げている。


「ギズ。ごめんなさい、ちゃんとした挨拶もできなくて」


「そんな。むしろ我々こそ、あなた様を守ることができなかった。あれは管理委員会の阿呆が、権力を得るためにエーケ様を陥れたのです。エーケ様の力が本物なのは誰もが知っているはずなのに……」


「それだけこの世界が平和になったのね。先生も仰っていたわ。『平和のために戦ったとしても、争いは平和の中から現れる』と」


「ユン様ですね。あの方は強い方でした。今も、遠くの果ての地で魔族との戦いに身を置いていると聞きます」


「はい。先生に教わったのは護身術だけではありません。強さ、そのものを教えてもらいました」

 エーケは微笑む。


「それに私、少し楽しみなんです。外の世界へ飛び出して色んなものに触れてみたい!」


「……きっと、楽しいですよ。そう、そのことで、我ら国を出ることになった者たち皆、エーケ様の旅にお供したいのです。よろしいですか?」

 ギズは笑顔を見せる。


「まあ、本当? それはとても楽しい旅になりそうね! でも良いのかしら、追放された身で楽しい旅なんて」


「良いに決まっています。それに、我々もある意味、追放されたも同然。追放者みんなで思い切り楽しんでやりましょう!」


「……そうね! そうしましょう! まずは……」

 笑顔を見せていたエーケだが、目線を噴水にやり顔をしかめた。


「エーケ様?」

「水が弱まってる。そろそろ祈りを捧げないと」

 エーケは言った。


 賢者の杖の奇跡の防壁は町の水路に張り巡らされており、防壁の強度は噴水の出力で確認できる。それは日常から確認できる、平和の境界線だった。


「やはり、祈りの力が?」


「ええ。ただ、おかしいわ。こんなに早く……」


「あ、エーケ様。噴水が……」

 ギズの言葉にエーケが噴水に目をやると、水が完全に止まっていた。


「大変。でもどうして、昨日も祈りは捧げたのに」


「エーケ様を追放するために祈りを阻害して危険をわざと作っていたのかもしれません」


「そんな……」

 エーケの嘆きと同時に、町からは悲鳴が聞こえる。


 同時にエーケは走り出す。


「エーケ様!?」


「避難誘導をお願いします! 私たちに今できることをしましょう!」


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