6:魔改造スマートフォン
全裸である。すっぽんぽんである。金髪の美少女が。
自分が何を見ているか理解した瞬間、周作は目を閉じて床に伏し、ダンゴムシのように体を丸めて防御態勢をとった。
「おい貴様」
「見てない見てない見てない、オレっちは何も見てない無罪っス無関係っスううぅぅぅ!!!!」
「せっかく創ったのに、早く手をつけないと冷めてしまうぞ」
魔王の腕の中でお姫様だっこされている少女 ―― いや、少女の姿をした何か ―― の体からは、まだ湯気が立ちのぼっていた。ほっかほかの釜揚げロリである。
「怖い怖い怖い怖い、女の子怖いこわいコワイ」
周作はがたがたと震え、いまにも失禁しそうな恐れっぷりである。
「そして一戦交えて、濃いお茶が一杯怖い」
「古典落語の『饅頭怖い』じゃねーっス!!!」
ネットミームなので、今回は周作でもツッコミが入れられた。
「隠さなくても良い。貴様は好きなのだろう、金髪ロリが」
「!!! な、ななな何を根拠にっ!!!」
「『鑑定』をした時に、ステータス画面の特記欄に書いてあった」
「うわあああああああ、いっそころせぇぇぇ!!!!」
「知らなかったのか? 魔王に隠し事はできない。今ここで貴様の欲望を存分に解き放つがよい」
「嫌っス! 空想と現実は違うっス! サメ映画が好きでもサメと一緒に泳ぎたいとは思わないっス!」
「こいつは貴様を襲ったりしない」
「嘘っス!! うっかり話しかけると汚物を見る目で距離を取られて、翌日に教室の黒板に『勘違い野郎キモい』って書かれるんス! 頭が三つ生えてきて、竜巻に乗って空を飛んだり分裂したり地面の中から襲ってきたりするんっス!」
後半はB級モンスター・サメ映画で見かける描写である。
「安心しろ。そのような能力は、この魔王が許可を与えなければ解放されない」
「ぎゃあああああああ!!!!! 怖いっ! 死ぬほど怖いっス! イエス二次元、ノーリアル! 生ロリ様おねげーでごぜーますご退散くだせーませっス!」
魔王は、やれやれ、という様子で金髪ロリをソファーの上に下ろした。
「貴様がいらぬと言うのであれば、こいつは処分するしかない」
その言葉を聞いて周作は思わず顔をあげ、ロリの裸身が目にとびこんできてあわててまた目をつぶった。
「いやっ! そのっ! 前にっ! 何かっ! その子に着せてほしいっス!」
魔王は亜空間から取り出したバスローブを、少女的な何かにかぶせて話を続けた。
「こいつを分解し、二次元に作り替えよう」
「二次元?」
「Tシャツの胸に張り付いた、平面娘ならば問題あるまい」
せめてスマホ画面に出てくるバーチャルガールにしてほしい。
「とりあえずこの体を解体し、有機素材に戻す」
丸鶏を解体する的な。フライドチキン用なら9ピースぐらいに分けるのが標準である。
「ふぁっ!! ちょちょちょ、ちょっと待ってほしいっス。そんな事したらその子が死んじゃうっス!!!」
「死にはせぬ。壊すだけだ」
そう言って、魔王は少女っぽい何かの首に手をかけた。またこのパターンか。演出用語で天丼と言う奴だ。同じネタが複数乗っている的な。
「わわわ、判ったっス! オレっちが責任持って世話するっス! だからまず、ちゃんとした服を着せてほしいっス!!!」
そう言われた魔王は手を止めた。そして魔法で金髪ロリの体を浄化し、空間から子供サイズのメイド服を取り出して着せた。服が短くてミニスカメイドっぽい感じになっている。どうしてそんなものを持っているんだ魔王。
「……この服は、100年ほど前に この魔王に仕えていた小人族の侍女のものだ」
魔王は櫛と鋏を取り出し、長い金髪を手早く整えた。調髪は魔王の数多いスキルの一つである。
「かつて異世界にあった わが本城に、勇者が攻め込んでくるという報せがあった。
あの娘は『勇者は私が止めます! 私が戻るまで制服を預かっておいてください!』と言って、止めるのも聞かず女忍者装束に着替え、幹部共と一緒に城を飛び出していった。その時は、それが最後の別れになるとは思っていなかった」
どうやら魔王は勇者と戦った事があるようだ。勇者とは何かって? ほら勇者だよ勇者。どこの世界にもいる、ごく普通の勇者だ。
「この魔王が勇者の封印から目覚めた時、あの娘の消息を調べて回ったが、その後どうなったか記録は残っていなかった。愚かな娘だ。……貴様はそのような別れ方をせぬようにしろ」
少女っぽい何かの身支度を整えた魔王は、周作にソファーに腰掛けるよう指示した。
周作が恐る恐るソファーに戻ると、魔王はその膝の上に金髪ロリを すとん、と乗せた。
「うぎゃあああああああああああ!!!!!!!!」
「だからうるさいと言っている。こいつを充電するのだ」
「じゅっ、じゅうでん????」
「正確に言えば生体エネルギーの補充だ。これを稼働させるには、ユーザー登録された者から生命力を分け与える必要がある」
つまり周作は、いわば彼女の充電スタンドである。膝の上に乗せておけば自動的に充電される。
「ユーザー登録なんかした覚えは無いっスようぅぅ!!!」
「スマホの登録者は貴様だ。生体認証が貴様に紐付けられている。3時間ぐらいでフル充電になる。それまで抱いていろ」
「な、なんでっ、こんなエッチなっ、なにかっ、ほ、他に方法はっ!!」
「粘膜接触すれば、もっと充電が早まる」
「ねん、まく」
「この口に、貴様の体の一部をくわえさせるのだ」
「かっ、体の、い、一部と言うと、その、つまり」
たとえば指である。
「接続充電もできる」
「そ、それは、どういう」
「本体の下端に穴が空いている。そこに充電プラグを挿入する」
なお、充電用端子にプラグインする描写は規約で禁止されている。
「ああ、それと」
「まだ何かあるんっスか!!!」
「下着は手持ちが無かった。そのうち用意する」
つまり今は穿いていない。このまま接続充電が可能である。
そういう状態のものが膝上に乗っている事を理解した時、精神的に限界に達した周作はゆっくりと意識を失った。
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部屋を模様替えし、ダブルベッドを生成させた魔王は周作とロリを並べて寝かせた。添い寝でも時間をかければ充電は可能である。
二人にそっと毛布をかぶせて部屋の照明を落としてから、魔王はチワキチに話しかけた。
「わが言葉を理解できるか、眷属よ」
<理解してございます、偉大なる魔王様>
チワキチから念話で返答が返ってきた。イヌの声帯では人語を話すことはできない。しかし知能を持つ魔物は言葉を解する。念話のできない周作はまだそれに気付いていない。
<拙犬は、魔王様の命ずるままに働く所存にございます>
「やってもらいたい仕事がある」
<仰せのままに>
「あの男を目覚めさせる役割を、お前に与える。……たとえ本人が拒もうとも許してはならぬ。この魔王の計画には、それが必要になるのだから」
(続く)
<次回予告>
周作が得た新たなる従魔。周作は、その忠実なるしもべに何と呼ばれるのか。ご主人様、あるじ殿、ユーザーさん、わが所有者、あるいはマイロード。
次回「お兄ちゃんと呼ばないで」
更新は明日の昼、13時10分。
これで下僕は出揃った。魔王配下の一人と一匹と一台が、アラホラサッサーと活躍を開始する。