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57:邪神大戦

「りょーかい! 邪神さんとたたかうことに決定しました!」


「ふぁっ!?」


 スマホの返答にとまどう周作である。


「いやちょっと待ってほしいっス。『たたかう』以外の選択肢は無いっスか?」


 邪神を倒すと言ったのはお前だろう。ここに来てビビるんじゃない周作。


「ん~~、じゃあ『どうぐをつかう』でも試してみる? 『復元の杖』で再封印できるかな?」


「なんかよく判らないけど、ご安全にお願いしたいっス」


「『さくせん』は『いのちだいじに』。うん理解した! チワキチも手伝ってくれる?」

「ヴォン!!」


 黒い狼は、おまかせあれ、と返事して力強く尾を振った。


「魔法の効果圏内まで接近して一撃離脱。狙撃ポイントまでの移動ルートはスマホが指示する! 魔法攻撃は魔封ネックレスで防げるから、大質量攻撃だけチワキチの判断で回避して!」

「ヴォウ!!」


「お、オレっちは何をすれば?」


「チワキチから落っこちないように、収納袋からロープを出して鞍に体を縛り付ける!」


「こ、こうっスか」ぐるぐるぐる。


「杖に魔力をこめて、しっかり握ってそのままホールド!」


「ういっス」しっかりがっちりホールドホールド。


「行くよ! チワキチ!! 2時の方向、大通り直進!!」

「ヴォオオオン!!」


 黒い魔獣が音も無く走り出す。瓦礫を飛び越え、壊れた自動車に飛び乗って踏み越しながら、黒き疾風(はやて)となって死の街と化した東京を駆け抜けていく。


 通り道に無数に転がっている死体も、血を流しながらうごめいている重傷者も、半裸になって胸をもみしだいている発情中のお姉さんも、すべて無視して邪神を目指す。今はまず、一秒でも早く邪神の活動を止めなければならない!


「30m先を左折! 邪神が目視できたら攻撃に注意しつつ接近!」


 今、邪神はふたたび勃ちあがっている。時々びくんびくん、と痙攣するように脈動して周囲に呪いや邪神ビームを撒き散らしている。それは近づく者をすべて即死させる、死の黒柱だった。


 だが周作達に状態異常攻撃や魔法攻撃は無効である。接近中に何度も攻撃が当たったが、ダメージはゼロである。というか不可視の攻撃なので、当たっていることに本人や本機や本犬は気付いてすらいない。


 不気味にそそり勃つ邪神の根元に到達するまで、それほど時間はかからなかった。


「お兄ちゃん、『復元の杖』!」


「ま、魔王の名において、周作が命ずる! 邪神よ、元の姿に!!」


 周作が杖を邪神に向け、呪文を詠唱する。七色の光が邪神に向かって放たれた。


 輝く光は邪神の胴体、中央部付近に命中し、当たった部分が一瞬だけ輝いた。


 その直後、邪神は激烈な反応を見せた。熱いものが体に触れたイモムシのように横転してのたうち回り、周囲にある自動車や建物を、どっかんばっしんぼかばかばちこーん、とかたっぱしから跳ね飛ばした。


 砕け散るビル。飛び散る粉塵と窓ガラス。巨大なコンクリート塊や、ぐしゃぐしゃに潰された自動車が周作達のほうに飛んできて、近くの住宅を次々に破壊した。


 さまざまな破片に混じって人間だったものも周囲に降り注ぎ、べちゃりべちゃりと生々しい色の染みが、あちこちに作られていく。


「チワキチ!」


 スマホの声に反応して、チワキチは上から降ってきた3階建てアパートだったものを避けて高速移動した。チワキチの防具は通常の物理攻撃をダメージゼロにする効果があるが、巨大な瓦礫の下敷きになってしまえば身動きがとれなくなる。生き埋め衰弱死は即死よりも悲惨である。


「ふぁああああ!!! なっ、なんで効かないっスかああああ!!!!」


 周作は半泣きである。杖の最大レベルまで魔力をこめた一撃なのに、期待していたような効果は無かった。邪神には封印される気配がまったく感じられず、ただ激しく暴れ続けている。


「んー、たぶんそうだろうなーとは思ったんだけど」


「ふぁっ!???」


「この杖、復元対象にできる大きさが7メートルぐらいまでだから」


「サイズ制限があったんスか!?」


「600メートル以上ある邪神さんを封印するのは、たぶん難しいだろうなって!」


「そういう事は早く言ってほしゅっ!!!! ぐみゃっ!!!」


 チワキチが降ってきた瓦礫を避けて高速移動したため、周作は加速がかかった拍子に舌を噛んだ。


「プランBに移行だよ!!」


「ぷ、ぷらんびー」


 もしかしてあれかな、プランBはこれから考えるよ、っていうオチ?


「お兄ちゃんが『唐揚げショット』を全力でぶちかます!」


「ふぁあああ!!!!???」


 いや違ったよ。ただの力業(ちからわざ)だった。


「じゃじゃじゃ、邪神さんをこっぱミジンコに吹き飛ばすんっすか?」


 正しくは木っ端微塵である。周作が間違って覚えているだけなので、修正連絡は不要である。


「だって邪神さんは、スマホに即死呪文をかけてきたひとだよ? 即死呪文をかけていいのは、オーバーキル攻撃を返される覚悟のあるひとだけだって、おじいちゃんが言ってた!」


「……そ、そうだったっス……許すまじ邪神。スマちゃんにちょっかい出したウンコ野郎はオレっちが、全身全霊をこめた一撃で骨も残さず消滅させてやるっスうウゥゥゥゥッ!!!」


「ヴォウン」


 いきなり言動が豹変した周作に、チワキチがちょっと引いている。どうでもいいが邪神に骨ってあるの?


 などと話をしているうちに、邪神の行動に変化が現われた。動きを止めた邪神が、ゆっくりと地面から頭をもたげた。頭部が今までよりも一回り大きく膨れ上がっている。


 胴体には血管のような盛り上がった筋が何本も浮かび上がり、ドクドクと脈動している。見たところ、興奮が極まっているっぽい感じである。


 そしてゆっくりと方向を変え、頭部先端を周作達のほうに向けてピタリと止まった。


「ふぁっ!?」


 次の瞬間、邪神の先端から白い毒液がほとばしった。

噴出する大量の白濁液は、遠くから見ると霧をまとわせた滝のようだった。太陽の光が当たって小さな虹がかかっている。


 それが何なのか知らぬ者にとっては、幻想的な光景にすら見えただろう。しかしその正体は、ドラゴンの命すら奪う複合毒の濃縮エキスの奔流(ほんりゅう)であった。


 しぶきが飛んできて肌にかかっただけで体内に吸収され、呼吸筋が麻痺して毛細血管が破裂、激烈な生理障害をひきおこして多臓器不全で悶絶しながら息絶える。邪神自身はどうして平気なのだ。フグがフグ毒で死なないのと同じ原理であろうか。


 毒液は魔法ではなく化学攻撃なので、魔封ペンダントは無効である。チワキチの防具も化学防御には対応していない。一滴でも飛沫がかかればアウトである。


「うわ、何か吹き出したっス!」


「チワキチ!」


 スマホの指示をうけるよりも早く、チワキチは回避行動に移った。だが邪神は魔力を使って音よりも早く体を動かし、大気の一部に強烈な圧力をかけた。


 猛毒の混じった、秒速300メートルを超える衝撃波(ソニックブーム)が周作達に襲いかかった。風よりも早いチワキチでも、衝撃波ほどには早くない。

 魔力を帯びた衝撃波、高速で飛来してきた破片などは魔法防具で防がれたが、毒はそのまま素通しである。彼らは「死の霧」を浴びてしまった!


「うわ、何かベトベトしたものが。うっぷ、口にも入ったっス!」


「何これ、気持ち悪い!」


「ヴォウウウウウ!」


 即効性の毒が彼らの体をむしばみはじめた。死亡カウントダウン開始である。もし彼らの頭上にタイマーがあったなら、残り60秒という数字が出ているはずである。


「あ、なんか苦しい! 体がおかしいっス!」


「じゃ、これ飲んで!」


 スマホが収納袋から完全回復薬(エリクサー)をとりだして周作に渡し、自分とチワキチも飲む。すべてを回復させる神薬をバカスカ使ってゲームを進めるのは反則である。攻撃した邪神の立場が無い。


「お兄ちゃん、邪神さんから離れるよ!」


「ふぁっ!?」


「全力の唐揚げショットが当たると、邪神さんが大爆発するかもしれない! 少し離れた場所から狙撃して、撃ったらすぐに身を隠す! スマホが狙撃場所を探して誘導するから!」


「わわわ、わかったっス!」


 そしてスマホが狙撃場所に選んだのは、地下鉄の入り口である。


 都内の地下鉄は場所によっては核シェルター並みの深度と強度があり、2024年度からは北の某国のミサイルが着弾した場合にそなえて地下避難設備の整備が始まっている。一時的に逃げ込むには適した場所である。


 邪神の姿がよく見える場所を選んで、スマホと周作はチワキチの背中から降りた。チワキチが不安そうにヴォウゥ、と鳴く。


「確かにそう! 射線を計算して射撃位置を固定するから、しばらくは動けない! その間に巨大瓦礫が飛んできたりしたら二人ともぺっちゃんこになって、二度と復活できなくなる!」


「ヴォウルウウ!」


「だからチワキチは、攻撃の準備ができるまで邪神さんの注意を引きつけて! 今から3分……いや2分でいい!!」


「ヴォウオウ、ガゥ……?」


「大丈夫! スマホ達は狙撃したら地下鉄入り口に逃げ込む! チワキチも離脱したあと合流して!」


「ヴォウ!」


 わかった、と言ってチワキチが体に力をこめた。目が真っ赤に光って全身から黒い霧が吹き出し、体がみるみる大きくなっていく。ぼっきょんぼっきょんと筋肉が盛り上がり、陸上自衛隊の10式戦車ほどもある巨大な戦闘獣に変化した。


 全長10メートル、チワキチの最終究極形態である。この姿になると後で寝込むが、今はそんな事を気にしている場合ではない。ラストバトルで戦力の出し惜しみは無しである。


「ギュオオオオオオオオウォーーーーン!!」


「わかった! 活動限界まで5分もあるなら余裕! 2分たったら邪神さんから全速力で離れて!!」


 それを聞くと巨大魔獣は大きくうなずき、地響きを立てながら邪神を目指して走って行った。いよいよ大詰め、世界の命運をかけた戦いの行方(ゆくえ)はいかに!


<次回予告>


 すべては周作にゆだねられた。聖なるトングが宙を斬る。勇者と邪神、二つの力がぶつかる時、天は裂け大地はゆらぐ。


次回「決着」

更新は明日16時20分。


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