51:魔封龍を判らせた男
*今回は性的な描写があります。苦手な方はパスしてください。
ドラゴンとの対戦報告を求められた周作は、ふぁ~~、と間の抜けた声を出し、しばらく悩んでいたが、ぽつぽつと状況を話しはじめた。
「……えっとっスね、ボス部屋に入る前に、安全装置を解除してチェーンソーの紐を引っ張ったんス。そしたらブオンブオンって音がして、ノコギリがぐいんぐいん回りはじめて、ギャラララーでシュビビビーンのズドドドドでキンキンキンキンって」
擬音だけで説明しようとするな。
「ほんでもって、それをかまえてドラゴンの部屋っつーか、巣穴に入ったんス。
そしたら、<何だそれはーーー!!!!>って声が頭の中に響いて、ドラゴンが鼻から火を噴きながら、こっちをにらみつけてきたんっス」
「普通の者なら、その時点でドラゴンの魔闘気に当てられて失神しているな」
「つーか、頭の中がぐわんぐわんして気が遠くなりかけたんっスけど、必死で耐えてチェーンソーをこう、思いっきり前に突き出して」
戦う意思を示す構えである。
「そしたらドラゴンが、<そんなものを持ち込むな、それを止めろ、すぐ止めろ、止めろって言ってんだろこのウンコ猿がァァ!!!>って」
「で、止めたのか」
「それがその、止め方がよく判らなくて、いじってたら逆に回転数が上がって」
「ブチ切れて『じごくのほのお』を放ってこなかったか」
「いや……それが何と言うかですね、ドラゴンさんがその、なんか興奮したとゆーか、股間が、えーと、膨らんできてですね」
「〇ん〇んが、おっきくなったの!?」
人が婉曲な表現してるのに、ダイレクトに言い換えるなよ! 運営から警告が来たらどうするんだ!
「ドラゴンさんって、ち〇ち〇が生えてるんだ!! 見てみたい!!」
だからやめろ! 女の子がドラゴンのXXXXを見に行く話なんて聞いたことが無いわ!
「お兄ちゃん、それって、どういう形してた? お兄ちゃんと同じ形?」
いやちょっと待って。お願いだから待って。
「ヒューマンのものとはだいぶ違っていただろう。この魔王も実際に見たことは無いのだが、どういう形をしていた?」
だからね、そういう話はもうやめよう。この物語の品位というものが。
「ふぁああ、えっと、なんか真っ赤でぬらぬらしてて、オレっちの身長ぐらいのやつが、右と左に1本ずつ」
「2本あるの!?」
うん、もう駄目だね。いいや続けて。
「種族によっては複数本の交接器がある。哺乳類、カメやワニ、鳥類は1本しか無いが、サメやエイ、ヘビやトカゲは左右2本だ」
「鳥さんにもあるの??」
「大部分の鳥はトカゲや恐竜とは違って交接器が退化しているが、カモ・アヒル類は種類によっては体長よりも長いモノが、繁殖期になると生えてくる」
「え、生えてくるの? タケノコみたいに?」
「毎年生え替わる。詳しくは疑陰茎という検索ワードで出てくるが、鳥やトカゲ、魔封龍の交接器は中身が中空で、乱暴な言い方をすれば風船のような構造をしている。使用時には瞬時に膨らませて体外に出し、非使用時には靴下を裏返しにするように反転させ、総排泄孔の中にしまい込んで外から見えなくなる」
「なんで2本もあるの?」
「左右の交接器は、それぞれが独立して左右の精巣と連結している。片方を撃ち尽くしても、もう片方はフル弾倉のまま維持される。複数のメスを同時に孕ませられる独立連動システムだ」
「それで2本あるんだ!」
「余談だがハリモグラの交接器は、根元は1本だが途中から4本に分岐している。検索すればネット画像が」
調べなくていい調べなくて。
「ちなみに『ドラゴン』は系統的に異なる雑多な種族の総称なので、個体によって形状も本数も異なる。ドラゴン系のエロ画像を見ても描かれているモノは千差万別だ。ヒュドラ系は本数が多いし、ワニと同じようにコラーゲンの棒をトリガー解除と同時に勢いよく突き出してくるタイプもいる。
ドラゴンが人化した時は交接器も人化する場合が多いが、ドラゴン型のままのほうが興奮するというヒューマンもいる。2本ある場合は個体によって右と左で利き腕というか、利きXXがあって、それに応じて受けと攻めの体位が」
周作はすでに話についていけなくなり、白目をむいている。彼にとっては生物雑学も電車談義も、まったく興味の湧かない無駄情報である。
「それはそうとして、ドラゴンさんって、何でチェーンソーで興奮しちゃったの?」
「ドラゴンは、繁殖期のメスの発情鳴きと同じ周波数の振動音を聞くと、興奮してしまうのだ」
魔王は周作のほうを向いて、話を振った。
「貴様は、伊豆にあるバナナとワニを展示する動植物園で、ワニの水槽を子供がペチペチ叩いていたらワニが唐突に発情したとか、オーストラリアでワニ養殖場の上空をヘリコプターが飛んだらワニが一斉に交尾を始めたとか、そういう話を聞いたことは無いか?」
「ふぁっ!? な、無いっス」
「ドラゴンにとって性癖と一致するエンジン音は、ヒューマンで言えば心に突き刺さるエロ画像に相当するのだ。ドラゴンが自動車に挑みかかっているエロ絵を、見たことは無いか?」
「あるっス。検索するといっぱい出てくるっス」
あるんかい!
「そんで、ドラゴンはこっちを横目でチラチラ見ながら、鼻息荒くして、
<猿めが、何故そのような物を持ち込んだ。何が目的だ>
って言ったんス。
で、『宝箱の中身が欲しいっス』って答えたら、チェーンソーと交換なら渡してもいいって」
「それで交換してきたのか」
「いえその、勝手にそういう事したら駄目だってのは判ってたんスよ? でもその、えっと」
「スマホが助かるなら、貴様は死ぬほど怒られて、この魔王に蟲に変えられても良いと思ったのだな?」
「ふえええええええ!!!」
「あー心配するな、そこまでの覚悟があったのなら言うことは無い。むしろ賞賛に値する。スマホよ、お前は良い兄を持った」
「うん! お兄ちゃんはスマホのものだから、蟲に変えたら駄目だよ!」
スマホが体の向きを変えて周作に強く抱きつき、周作はキマダラシリカジリの警戒音のような声を出した。
「今回の経験で、貴様の能力はさらにレベルアップした。光の魔力が強まって外に漏れ出しはじめたので、貴様にも特別なアイテムを与えておく」
「ふぁっ!?」
魔王は亜空間から、古代ローマ時代の魔除けのお守り、ティンティナブラムに似た首飾りを取り出し、周作の首にかけた。
「これは光属性の魔力が漏れ出た時、それを吸収するアイテムだ。吸収力にムラがあるので、精密機械であるスマホにはこれでは対応できなかった。しかしこれを身につけておけば、闇属性の血わキ知が不快感を感じなくなる」
「ふぁっ!? チワキチ、オレっちの魔力が嫌だったスか?」
「わふわふ?」
そんな事ないよ? という顔で、チワキチは尻尾をふりながら周作の手をなめている。上位の魔物であるチワキチにとって、周作が漏らす魔力程度はほとんど害にならない。親愛の情のほうが上である。
「これを常に持ち歩いていれば、このアイテムは貴様の光の魔力を自動的に吸収しつづけ、やがて、この魔王がわが世界に戻る時の手助けとなるだろう」
「この変な形のブラブラしたやつが、何かの役に立つんっスか?」
「その通りだ。大事なものなので、なくさないよう『呪いのキーホルダー』も首飾りにつけておこう」
「うわ、またコイツっスか」
置き忘れても周作のところに必ず戻ってくる、呪いの人形のキーホルダーが首飾りにつけられて、ケタケタと笑っていた。
こうしてスマホは無事に復活をとげた。彼女の胸には新たなる防御アイテム「魔封の首飾り」が装備され、周作とパートナー関係を続ける事になった。
そして周作の胸では、この物語のラストアイテムとなる「邪神のかけら」が、静かに光の魔力を吸い盗り始めていた。
<次回予告>
けだるい昼下がりの商店街。平和な日常回。だがその平和は、このまま続く事はない。物語は終焉に向かって動きはじめる。
最終章「邪神、覚醒」
更新は明日10時10分。




