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5:戦慄のバイオニック従魔

「やっぱ、これっくらいの大きさじゃねーと怖いっス」


 周作の足元では、元のチワワサイズに戻ったチワキチが尻尾を振っている。


「戦獣態は燃費が悪い。普段はその姿にさせておけ」


 魔王は魔王軍のマークが入った赤い首輪を周作に手渡し、それをチワキチの首につけさせた。


「血わキ知の専用防具だ。体の大きさが変わっても自動的にサイズが調整される。装備時の全身防御力は成形炸薬弾を防げる程度だが、隣国を攻め滅ぼすのでもなければ十分だろう」


「りんごく? 滅ぼす?」


「日本の(となり)にある大国だ。戦争が好きな国があるだろう、太平洋をはさんだ対岸に」


 日本海の間違いではない。ハワイの先にある隣国である。今は同盟国なので滅ぼさないでほしい。


「……それはそうとして、貴様は何をしている」


「SNSのタイムラインを更新してるんっス」


 要するにスマホいじりである。魔王(しゃちょう)の前でいい度胸だ。


「面白いのか」


 魔王も細かい事では怒らない。さすが魔界の王、器が大きい。


「しばらく見てないと手が震えてくるんっス。兄貴にキャリア解約されちゃったんで、ここでWifiが使えるのは嬉しいっス」


 魔王城にはコンセントに差し込むだけで5G回線対応になる機器がレンタルされている。対応エリア内なので通信状態は良好である。


「契約切れでは通信機器として使えぬではないか。機種も古すぎる」


「そうっスけど、死んだ母ちゃんが買ってくれた機種なんで、愛着があるんっス。この中には大事な思い出がつまってるんっス」


 長年かけて集めた、大量の二次元ロリ画像が内部に保存されているのはここだけの秘密である。


「で、魔王様は何してるんっスか」


「合成従魔を作る準備だ」


 魔王は巨大な錬金釜を部屋に置き、その横に据え置き型の大きな魔道具を並べた。


「ごーせい……?」


「バイオ技術と言えなくもないが、どちらかと言えばゴーレム技術に近い」


 つまりハイブリッド技術である。どちらにしても周作には違いが判らない。


「普通のゴーレムは粘土で作るが、魔力を込めればどんな素材でもゴーレムになる。石で作ればストーンゴーレム、鉄で作ればアイアンゴーレム。今回は有機素材を使う」


「ゆーきそざい?」


「判りやすく言えば、動物の死体だ。いわゆる屍肉(フレッシュ)ゴーレムという奴だ」


「ふぁっっ!!!?」


 魔王は収納空間から、血や肉がこびりついた脊椎骨や大腿骨を次々に取り出し、銀色の据え置き魔道具の中に放り込みはじめた。


「そ、それって、何の骨っスか」


「豚の骨だ」


「ブタさんの」


 とんこつゴーレムである。


「工程を早めるため、この食品用の骨破砕機で粉砕しておく。この魔王なら手でも砕けるが、面倒臭いので機械を使う」


 ばきごきぼり、と凄い音をたてて骨が破砕されていく。一般のご家庭でお作りになる場合はハンマーなどをご利用ください。


「これを錬金釜に入れて、天然水を注いで煮込む。補助材料として丸鶏(まるどり)と、鶏の足先も入れる」


 今回使用するのは採卵引退後の親鶏。肉は固いが旨みが多い。内臓を抜いた丸ごとの鶏を解体して投入する。足先は「モミジ」と呼ばれる素材でコラーゲンが豊富。


「あとは3種類の煮干し、昆布と干し椎茸(しいたけ)人参(にんじん)(ねぎ)生姜(しょうが)など」


「……何を作ってるんスか?」


「合成従魔だ。素材を見れば判るだろう」


 巨大な釜の中で白濁した液体がぐつぐつと煮えていく。そこに魔王は ずぶり、と手を差し入れた。


「ふぁあああぁ!!!!」


「あーうるさいな、この手は浄化魔法で消毒してあるから汚くない」


「そーじゃなくってっスね、熱湯っスよ熱湯」


「100度程度で火傷などせぬ。ここにわが魔力を注ぐ」


 釜の中身が暗い赤色に輝いた。蒸気を吹き上げながら激しく渦巻き、しばらく ごぼごぼと嫌な音を立てていたが、やがて静まった。


「最後に仕上げだ。スマホを貸せ」


「へ?」


「貴様のスマホだ。さっき使っていたアレを貸せ」


 周作はあわててスマホを渡す。魔王はそれを受け取り、煮えたぎる釜の上に持っていって手を離した。


 ちゃっぽーーーーん。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!」


「あーうるさい。黙って見ていろ」


「オレっちのスマホおぉぉぉぉぉぉぉ~~~!!!!!」


「合成従魔の魔導核にするだけだ。今後も機能は使えるから心配するな」


 魔王が謎の呪文を唱えると、釜の中身が奇怪な音を立てながら何かを形作っていく。骨格が、筋肉が、内臓が、最後に皮膚と金色の毛が生成され、生き物の形となって統合された。


「……完成だ」


 もうもうと湯気が立ちのぼる釜の中から、魔王は目をつぶったまま力無く体を伸ばした「それ」を引き上げた。


 「それ」を一目見た周作は、ゴブリンが引き裂かれるような悲鳴をあげた。異様な雰囲気を感じとったチワキチがキャウキャウと吠える。


 周作は魂で理解した。これは、とてつもなく危険な存在だ。近寄ってはいけない。今すぐどこかへ逃げないと手遅れになる。視線を向けただけでアウトだ。触ったりしたら逮捕されてしまう!!


「どうした? 『これ』は貴様のために創ってやったものだぞ?」


 魔王の腕の中には、小学校高学年ぐらいに見える金髪ロングヘアーの美しい少女(ロリ)が、一糸まとわぬ姿で抱きかかえられていた。


(続く)


<次回予告>


 スマートフォンの周りを包む軟質の保護素材、それを人はスマホケースと呼ぶ。それが自分の所有物であるならば、()めたり()いだり(さわ)ったりしても法律的に問題はない。


次回「魔改造スマートフォン」

更新は明日昼、12時50分。


命を持たぬ物体に、人権はない。

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