49:その行為はプレイ内容に含まれますか
(注:一部に残酷表現があります。苦手な方は前半を飛ばしてください。)
周作は33階層のフロアボス、サキュバス・クイーンを「わからせた」。
その報告を聞いた魔王は一瞬、はぁ? という顔をしたが、すぐに冷静な表情に戻った。
「撃破したという判定になっているのだから、やってのけたのは事実だろうが……何をしたのか興味深い」
それを聞くのか魔王。具体的な内容を聞いてしまうのか。規約で直接行為の描写は禁止されているぞ!
「えっと、部屋に入ったら、スマちゃんそっくりの女の子が『お兄ちゃん!ここまで来てくれたんだね!!』って言って、嬉しそうな表情で近寄ってきたんっス」
「で、そこで貴様は」
「『それ以上近寄らないでほしいっス、近寄ったら撃つっス』って言ったんスけど、にっこり笑って近づいてきたんで、すかさず両足先を撃って吹き飛ばしたっス」
えええええ。
「いたいいたい、ひどいよ何するの、って床に倒れて大泣きしはじめたんで、いいから黙ってこの部屋から先に進ませるっス、さもなければ次は腕をふきとばすっス、って言ったんス。
それでも泣くだけだったんで、両手先を撃って吹き飛ばしたっス」
ああ駄目だ、ここからさらに残酷描写が続くぞ! 耐性の無い方は後半まで読み飛ばしたほうがいい!!
「いっぱい血をまき散らしながら、手足の残った部分をふりまわして叫んでたっスけど、降参とは言わなかったんス。
だから鼻と耳を削ぎとって、顔の皮を剥いで、お腹を割いて生きたまま内臓をひきずり出して、股間を大型カッターナイフでえぐり取って、肛門に漏斗を突っ込んでハバネロソースと生ワサビを混ぜて流し込むしかないと」
そこまでやったのか周作! 小学生の女の子の手を奪り足を奪り、そんな行為で尊厳破壊してしまったのか!
「そこまでやるしかないと思ったら相手の表情が変わって、わかったからもう降参! こんなのプレイの範疇を超えてるわよ、この気〇い野郎!って叫んだんっス。そんで部屋の奥にあったドアが開いたんで」
「そこから先に進んだのか」
「その前に女の子の頭を撃って、楽にしてあげたっス」
うわあああああ。
「そしたら部屋にあったベッドの上に、なんか黒い霧みたいな変なものが再配置されたっス。あれが女の子の正体だったっスか?」
「……その通りだが、その通りではあるが、もう少しこう何というか」
魔王はちょっと引いている。
「それはともかく、どうして最初から正体を見破れたのだ」
「オレっちみたいなウンコに笑いかけてくる女の子が、この世にいるわけ無いっス! 鳴き真似をして獲物を誘う魔物に決まってるっス!
人間だとしたらデート商法の勧誘役か、ぼったくりパブの客引きっス!」
うへぇ、という顔をしながら、魔王は周作の肩をぽんぽんと叩いた。
「うむ、状況はよく判った。とりあえず今日はこのまま寝ろ」
「いやまだ眠くは」
「『安眠』」
倒れるように眠りこんだ周作をベッドに寝かしつけて、魔王はため息をついた。今回は地の文は寝ていない。ふはははは、毎回眠ってしまうわけではない!
……だが描写する内容も特に無かった。うぐぐ、これで勝ったと思うなよ魔王!
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「ふぁ?」
丸1日眠っていた周作が目を覚ました。犬用ベッドで休んでいたチワキチがそれに気付いてワンワンと吠え、周作が寝ているベッドの上に飛び乗って周作に走り寄った。興奮状態で顔をベロベロと激しく舐める。
「うわっぷ、もう起きてるっス! 起こさなくていいっス! わーった、わかったから、うっぷ」
「起きたか」
すぐさま魔王が、空間を引き裂いて登場した。
「体調はどうだ」
「あ、なんかすげー体が軽いっス。昨日とは別人になった気分っス」
「そうだろう、頑張りすぎると能力に低下補正がかかって、通常なら普通にできるはずの作業ができなくなる。今回は魔法を使って強制回復させているが、本来なら一ヶ月くらいは休養せねばならぬ状態だ。無理はするな」
魔王は亜空間から朝粥会席の乗ったお盆を取り出した。
在来日本鶏の、小さな半熟卵が横切りで添えられている。現代人にとってはただのゆで卵だが、京都の有名料亭が江戸時代初期から提供している、歴史書マニアが大喜びする一品である。
食事を食べる周作を見ながら魔王はため息をつき、ボソっとつぶやいた。
「やりたくない事は永久に先延ばしにするが、やろうと思った事は過集中して寝食を忘れる。動かなかったり暴走したり不安定すぎて、拘束具がついていないと運用が難しい」
「ふぁ?」
「あーいや何でもない、こっちの話だ。食い終わったらダンジョンに再挑戦だ」
魔王は回復アイテムを補充した収納袋と、魔法のチェーンソーを周作の前に置いた。
「このチェーンソーの赤・白・黃色は、勇者に必要な3つの心の象徴だ。愛と勇気と力とが一つになれば、たちまち溢れる100万パワー」
「み、3つの心が、ひとつに」
「そうだ。もともと力がある奴なら愛と勇気だけが友達でも戦えるが、貴様にはまだどれも不足している。それを補うのが、この魔法のチェーンソーだ。ドラゴンの巣穴に入る前に、これを作動させるのだ」
「こ、これを? これで戦うんっスか?」
「戦うのではない。使った時にすべてが判る。すごく簡単なことだったのだと」
それって、判ってしまっても大丈夫な展開なのか?
「ではドラゴンを判らせてこい。今まで到達した階層には魔法転移で移動できる。地下98階までは直通だ」
「んじゃ今回は、巨乳の婦警さんとか、エロい服の変態シスターとか、巨大注腸器を持った女医さんとか、下半身が蛇のビジネスウーマンとか、蜘蛛のゴスロリお嬢様とか、モフモフで獣の目をしたお姐さんとか、触手が生えてる女教師とか、インキュバスの男の娘とか、そういうのと途中で戦わなくてもいいんっスか?」
「……33階層の魔物ばかりだな? フロアボスが降参した階層の魔物は、ダンジョンマスターである貴様に従うようになる。もう戦う必要は無いが、個室で一戦交えたいなら、貴様が言えば喜んで相手になってくれるはずだ」
「サーセン、どいつも趣味じゃねーっス」
「サキュバス・クイーンは?」
「スマちゃん以外の女の子はウンコっス」
言い切ったよおい。少し引いてるよ魔王。
「……まあいい、では行くが良い。目的はドラゴンが守る宝箱の中身だ。
相手の機嫌を損ねれば、貴様は一撃で即死する。
絶対に敵意を向けるな。ドラゴンの反応をよく見ながら、ラストアイテムを手に入れるための交渉をするのだ。判ったな?」
「ういっス!」
「よかろう。では行くがよい、光の勇者よ!!!」
(続く)
<次回予告>
ダンジョンの最深層、最強のドラゴンが守る最後の宝。それを手に入れられなければ、少女の命は永久に失われる。ラスボスとダンジョンマスターの再度の邂逅は、いかなる結末を迎えるのか。
次回「ラストダイブ」
更新は明日08時40分。
ラスボスの前で、若い命が真っ赤に燃える。




