48:サキュバス・クイーンの、わからせるまで出られない部屋
周作がダンジョンに入って消息を絶ってから、今日で3日目である。
キッチンカーには臨時休業の札が下がり、魔王は留守番をしているチワキチに手作りのドッグフードを食べさせに来ていた。
「あの男は、まだ戻ってこないのか」
<深層で命を落としたのでは>
チワキチは心配で、美味しい食事も喉を通らない状態である。
「モンスターに負けたり、罠にかかったり、飢え死にしたりすれば、死亡した時点でこの部屋に再配置される。あの男はダンジョンマスターなので、この迷宮の中であれば死亡消滅する事は無い」
<ですが、一度も戻ってきてはおりませぬ>
「寝ないで活動できる時間には限界があるはずだが……サキュバス部屋のベッドで、回復薬を飲みながら何日も連戦しているのか?」
魔王が首をかしげていると、ぽぽぽぽ~~ん!! という音と共に、周作がベッドの上に出現した。
「わんわんわわん!!!!」
「おお、ようやく戻った……か?」
周作の様子がおかしい。わぁわぁと大声で泣きながら、ベッドに頭をボスボスと叩きつけている。
「駄目っスぅぅ!!! あんな巨大怪獣、絶対に勝てねぇっス!!! 無理っス!!! 怖くて動けなかったっスうぅぅ!!!!!!」
「怪獣???」
「み、見逃してやるから、お前の部屋に、も、戻れって!!!!
真っ黒いドラゴンが! 鼻で笑って! 頭の中に声が響いて!!!」
「ドラゴン??? 落ち着いて話せ。何があった?」
興奮して時々意味のわからない叫びをあげる周作に、魔王は精神安定ポーションを飲ませ、時間をかけて話を聞き取った。
「うーむ、その『黒いドラゴン』は『唐揚げの迷宮』の最強モンスター、最下層にいるはずのラスボス『魔封龍』の特徴と一致する。どこで奴に遭ったのだ?」
「一番最後のボス部屋っス!」
「最後?……何階の???」
「地下99階っス!」
「いやまて、99階?……それは最深層だぞ???」
「だから最後まで行ったんっス!!! 寝ないで頑張ったんス!」
「はあぁ?? 3日3晩、不眠不休で地下99階まで? 一度も死なずに?
それはさすがに嘘……ではなさそうだな、その顔は」
周作は言葉にならないうめき声をあげて、血走った目で救いを求めるように魔王を見つめた。飲食せず回復ポーションでむりやり体を動かしているので、顔がやつれて覚醒剤の常習者のような人相になっている。無精髭が伸びて髪が乱れ、道で遭ったら相手が逃げだす目つきである。
「面白い! 貴様はこの魔王が予想した以上の男だ! 安心するがいい、スマホは必ず助かる! この魔王が、あのドラゴンと戦う術を授けてやろう!」
「ほ、本当っスか!!!」
魔王は亜空間から、赤・白・黄の三色に彩られた奇妙な形の道具を取り出した。
「……何っスか、これ」
「アルティメット・コズミック・チェーンソーだ」
「チェーンソー???」
19世紀前半にドイツで開発された、狭い術野で道具本体を動かさずに骨を切断するための手術道具である。ちなみに初号機はクランクを使った手動回転で、ガソリンエンジンで動かして魔獣をぶったぎる武器になったのは最近である。
「大宇宙の深淵から飛来する、生命の進化を促す性質を持った宇宙線を動力源に使う魔法の武器だ。これを使えば」
周作は魔王が言い終わるのを待たず、チェーンソーに手を伸ばした。しかし魔王は周作にそれを渡さずに取り上げた。
「あせるな。貴様はまず精神力を回復させねばならん。
『頑張る』というのは気力の前借りだ。頑張りつづければ、どこかで返済できなくなって倒れてしまう。
休むべき時に休めないという判断をしてしまう事が、そもそも判断力に低下がかかっている状態だ」
魔王は亜空間から、鰹ダシの効いた葛餡を、とろりと掛けた白粥を取り出し、周作に食べさせた。京都の料亭で、朝まで騒いで二日酔いになった旦那衆に提供する、体に優しいメニューである。
「ヒューマンの能力には限界がある。上限を上げるための修行は必要だが、貴様がいくら頑張っても、音速先制攻撃を回避できるようにはなれぬ。いくら鍛えても、ドラゴンの全力覇気に耐えられる精神耐性は得られぬ。
自分の潜在的な能力上限を正しく見極め、できる&訓練すればできるようになる事なら努力するほうが良い。だが、できないと判断したら『できなくても目的に到達できる手段』を探すべきなのだ」
「で、できなくても……目的に……」
「そうだ。貴様がどれほど修行しても、東京から名古屋まで走って2時間以内に到着することはできぬ。 ならば貴様が、今から2時間後に名古屋駅まで行く事は不可能か?」
「そ、それはその、新幹線とか使えば」
「そうだ。貴様が死ぬほど頑張って体を鍛えても、魔法走行できるチートな奴と同じ速度で走り続けるのは不可能だ。だから走る努力をするのではなく、切符代1万2000円を手にする努力をせねばならぬ」
自由席ならもうちょっと安いし、グリーン席だともっと高い。
「生まれた時の親ガチャ、能力ガチャ、容姿ガチャ、環境ガチャで『はずれ』を引いた者は、貴族のSSレアスキル持ちのような、恵まれた生まれの者と同じように人生を進めていく事は難しい。
ならば弱者は幸せな生活にはたどり着けぬのか? 断じて否だ!」
魔王は周作に、言い聞かせるように言葉を続けた。
「だが貴様は、貴様が目指すべき目的地はどこなのか、そこからして判っていない。そこに行くために何をする必要があり、どこをどう進んでいけば良いか、それを判断する知識や能力も無い。いくら頑張っても進む方向が間違っていれば、一億年走り続けても目的地には到達できぬのだ」
周作は、困惑した表情で魔王を見た。
「じゃ、じゃあ、オレっちは、ど、どうすれば」
「今回の例で言うと、貴様にドラゴンは倒せぬ。無駄な努力はするな」
「えええええ!!!」
話が違うぞ魔王!
「そういう反応をするから、貴様はウンコなのだ。貴様の目的は何だ?
それはスマホを助けるアイテムを手に入れる事だ。すなわち、ドラゴンを倒さなくとも目的のアイテムがゲットできれば、それでミッションはコンプリートなのだ」
英語混じりだと、なんかセリフが魔王っぽくない。お笑い芸人的である。
「ふぇえええ、な、なんかその、よ、よく判らないっス」
「すぐに判らなくてもよい。今の時点で貴様がやるべきことは、飯を食って一晩ゆっくり寝て、魔法力と体力と精神力をフル回復させることだ。スマホの体は安全な場所で保管してある。心配せずともこの魔王の指示に従えば、貴様は必ず成功者になれる」
精神安定ポーションの効果もあって、周作は少しずつ落ち着きを取り戻した。
魔王は周作にリラックス効果と自白効果のあるダウナー系の熱い薬草茶を飲ませながら、ダンジョン内での状況を詳しく聞いた。
「ふむ……つまり、聖なるトングから唐揚げを乱射して、出てくるモンスターを皆〇しにしながら進んだ、と」
「フルオートにして、こうかまえて、魔力を流しながら、かかかかかか、と」
唐揚げマシンガンである。手数で圧倒するタイプである。
「そのうちでっかいモンスターが出てくるようになったんで、それに合わせて、でっかい唐揚げを発射して倒していったっス。不意打ちくらって腕がもげたり体が溶けたり内臓がはみでたり、宝箱にかじられたり爆発したり罠で串刺しになったり姿をオニギリに変えられたり、なんかもう死ぬかと思ったっス」
というか、それでよく死ななかったな周作!
「途中で、いい女が出てこなかったか?」
「いい女?」
そう言えば、サキュバス・クイーンはどうなったのだ。理想の相手の姿になって、性的に誘惑してくる女魔物が途中階層にいるという話だった。
「33階層のフロアボスだ。貴様好みの女ではなかったか?」
「えっと、アレっすかね、スマちゃんそっくりの女の子」
「たぶんそれだ。ボス部屋に入ったら、相手をわからせるまで出られないはずだが」
「わかったって言われたんで、部屋の奥のドアから次の階に進んだっス」
(続く)
密室の中での秘められた出来事。ウブな金髪美少女の手をとり足をとり、あんな事やこんな事をしでかしてしまった報告が周作の口から語られる。
次回「その行為はプレイ内容に含まれますか」
更新は明日07時30分。




