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46:滅びゆく闇

「貴様は今、勇者の力を継承した」


 魔王は威厳ある声で、銀色のトングを握ったまま固まっている周作に告げた。


「貴様はそれを使って世界を()べるのだ」


「どうやって???」


「聖なる剣を手にした者には、大いなる力が与えられる。もう一度魔力を込めてみろ。貴様の能力に合わせた超必殺技が発動するはずだ。

……いやまて、何がおきるかはこの魔王にもわからん。魔力を流し過ぎると都内全域が吹き飛ぶかもしれん」


 周作は顔をひきつらせながら、トングにほんの少しだけ魔力を流しこんだ。その瞬間、先端に唐揚げが出現した。


「ふぁっ!?」


 魔王がトングにはさまれた唐揚げを「なんでも鑑定眼」で鑑定する。


「これは……近所のコンビニで売ってる唐揚げだな。ブラジル産の冷凍鶏を酵素処理して柔らかくした、あのコンビニチェーンの商品そのものだ」


「コンビニの? ……えっと、魔王様、これはどういう……」


 魔王は難しい顔をして考えこむと、少し置いて説明を始めた。


「……今、我々がいるこの部屋はダンジョンの一部だ。外部とは空間的に切り離されていて、『ダンジョン脱出』のような特殊な空間魔法を使わない限り、外部と内部で物質的なやりとりはできない」


「え、じゃあこの唐揚げは?」


「特殊召喚だ。外部から自由にお取り寄せできる能力があるなら、この宝具はダンジョン攻略のありかたを根本的に変えてしまう」


「カップラーメンとかポテチとかも召喚できるっスか?」


「良い質問だ。試してみよう」


******************


「というわけで検証結果だ。

 町内の居酒屋の唐揚げ、そうざい屋の唐揚げ、どこかの家の手作り唐揚げ、スーパーで売ってる唐揚げ、デパ地下の唐揚げ、チキン南蛮、チェーン店のフライドチキンなど、100回試して100回とも違う唐揚げが召喚された。『ポテチ召喚』などと念じても、出現したのはすべて唐揚げだった」


「唐揚げ専用っぽいっスね」


「一方で『名古屋の元祖・手羽先唐揚げ』などと指定すれば、その商品を取り寄せられた。手羽先餃子のように、中に何かが詰めてあるものも唐揚げであれば召喚が可能だった。

この能力で海外から特別な唐揚げをお取り寄せすれば、面白い事ができる」


「面白い事?」


「唐揚げの中に、税関を通せない物品を埋め込んで取り寄せられる」


「やべぇ用途だった」


「国外で奴隷少女を買って、巨大な唐揚げの中に入れて呼び寄せたり」


「何を食べたら、そういう発想が出てくるんっスか?」


「この聖具なら持ち歩いても逮捕されない。日常的にいろいろ試して、検証を進めていこう」


「トングを日常的に持ち歩くんっスか?」


「半透明のビニール手提げ袋と一緒なら、ゴミ拾いボランティアだと言っておけば怪しまれない。これは貴様が世界を統べるための第一歩だ」


「ういっス」


「さてと、キッチンカーのほうを放置してしまった。通常空間に戻るぞ」


 魔王は、ダンジョン空間からキッチンカーへ出現する合図を送った。店番をしていたスマホがラップ音を聞いてシャッターを下ろし、外部から見えないようにしたあと、魔王と周作とチワキチが壁の中から出てきた。


「ずいぶん時間かかったね!」


「あー、奥で勇者になってたっス」


「勇者ごっこしてたの?」


「そーじゃなくて、本物の聖剣を使えるようにしてたっス」


「ゴールデンスプラッシュが使えるやつ?」


 お願いだから使わないで。描写するほうの身になってほしい。


「いや、唐揚げを召喚できる聖剣っス。これなんスけど」


「……お兄ちゃん?」


 スマホがものすごく心配そうな表情をした。


「いや正気だから! これはトングに見えるけど、聖剣なんっス!」


 スマホは訴えかけるような目で魔王を見た。


「大丈夫だ、狂ってはいない。本当だ」


「おじいちゃんが言うなら、本当なんだ!」


「信用無いっスね!?」


「スマホよ、そのトングの先端に指先を近づけてみるがいい。危ないから、直接は触れないように注意しろ」


 スマホがゆっくり人差し指をトングに近づけていくと、パチっと小さな火花が散った。


「きゃっ!!」


「スマちゃん!!?」


 魔王はスマホの手を調べながら、痛くはないかと聞いた。静電気が走ったようなもので、特に怪我はしていないようである。


「お前は闇魔法で作られたゴーレムだから、聖なる剣に触れると浄化されてしまう。あとで絶縁処理を施すから、それまではトングに触ってはならんぞ」


「え、触ったら駄目なの?」


「触れても大丈夫なように改造してやるから、心配せずともよい」


「なら安心だけど、で、もdddお文字化ã‘」


 スマホの言葉が急に意味不明になり、そのまま動きが止まった。目の焦点が合っていない。口が半開きになっている。


「スッ、ススス、スマちゃんん!!!!!!???」


 スマホが崩れ落ちるように倒れこむ。周作が抱き留めようとして一緒になって転んだ。床にぶつからないよう守ったが、力の抜けた彼女の頭がガクンと大きく揺さぶられた。横でチワキチがキャンキャンと吠える。


「ふぁあああああ!!! スマちゃんんん~~~!!! どうしたっスか! うええええ、魔王しゃまぁぁ~~!!! 大変っス!! スマちゃんがあああぁぁぁっ~~~!!!!」


 魔王が近寄って調べ、むぅ、と眉をひそめる。


 スマホは呼吸が止まり、心臓が動いていなかった。


(続く)


<次回予告>


 ヒロインが死ねばストーリーが盛り上がる。主人公の叫びは効果音、読者の悲鳴は作者の滋養。そういう展開、あなたはお好きですか?(意味深)


次回「スマホの寿命」

更新は朝05時10分。


機種変更時はデータ引き継ぎをお忘れなく。

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