42:二階奥、和室の巨乳
「じゃあくな魔王め、せいぎのつるぎを受けてみろー!
せいけんおーぎ、ゴールデンスプラッシュー!!!」
「わんわんわわん」
「ぐわあああ、やられたあああ」
魔王の心臓に刃が突き立てられ、魔王は封印された。
「……今日もそれ、やってるんっスか?」
「魔王と勇者ごっこ」をしている魔王とスマホとチワキチに、周作が話しかけた。ちなみに魔王役は「ごっこ」ではなく本物である。
「勇者への恨みと憎しみ、忘れてはならぬ。勇者に正義などと言うものは無い」
「無いんスか?」
魔王はスマホにお茶を要求した。こまめな水分補給は高齢者には大切である。
「たとえば、目の前に気にくわない奴がいたとする」
「魔王様の場合であれば、勇者っスね」
「この魔王であれば『お前は邪魔な存在だ、消えてもらおう』と言う」
典型的な悪役のセリフである。
「ところがヒューマンの場合、『お前は存在してはいけない生き物だ』とか言う」
どこかにいたのか、そういうセリフを言った奴が。
「それは個人の感想であって、正義でも真理でもない。どこの誰であろうとも、他者の存在を否定する権限など無い。思い上がるなヒューマンごときの分際で」
魔王の表情がマジになっている。周作はちょっと引いている。
「自分の感情を『正義』と称して他者に押しつけ、同調せぬ者を滅ぼそうとするヒューマン共は、魔族から見れば異常者の集まりだ。感情が高ぶればヒロインの首を狩り、槍の先につきさして集団行進してくるぐらいは普通にやる」
いや、さすがにそこまでやる話は現実には……
「フランス革命の時、親友マリー・アントワネットへの憎悪を誓えと迫られたランバル公妃は、それを拒んだために感情の高ぶった群衆に」
わーわーわー、それ以上続けるな自重しろおおおぉ!!!
「まあ仮に異端の者がウンコだったとしても、『存在価値が無い』と言うのは間違いだ。ウンコは宝飾品にならぬが、ダイヤモンドは畑の肥料にはならん。絶対的な価値基準など存在しない」
ちなみに15世紀にダイヤモンドの研磨技術が確立されるまでは、ダイヤは使い道の無い駄石である。時代や状況が変われば評価も変わる。
「そしてウンコも炭素抽出して人工ダイヤモンドにすればスカトロマニア垂涎のアクセサリーになるし、ダイヤも燃やして二酸化炭素にすれば植物の栄養源になる」
「ウンコからダイヤモンドが作れるんスか?」
「こちらの世界で、家族やペットの遺骨からダイヤを作ってくれるサービスがあるだろう? それと同じように、わが世界にはアイドルのウンコから宝飾を作ってくれるサービスがあるのだ」
もらって嬉しいのかそれ。
「ただのウンコでも課金すればダイヤに変えられるが、何もしなければウンコのままだ。そしてウンコを宝石に変える手段があっても、それを実務に落とし込めなければ商売にはならん。重要なのは、それに必要なコストを誰にどうやって負担させるかというシステム作りなのだ」
課金させるのか、ウンコに。
「どんなものでもイメージ戦略に成功して投機対象になれば、実態価値と無関係に値段が跳ね上がる。わが世界でウンコダイヤをプロデュースした日本人転生者は、ダイヤ投機で巨万の富を築きあげたと伝えられている」
そいつを主人公にした経済小説が1本書けそうである。タイトルは「黄金のダイヤモンド」
「商売というものは、普通なら冗談でしかない『狂った発想』を営利に落とし込む『仕掛け』が重要なのだ。発想だけでも、技術だけでも、営業や販売能力だけでも儲けにはならぬ。それらの得意な者同士が組んでWIN―WINの関係を創りあげていく事で、一人で何かするよりも、はるかに大きな利益が生み出される。
……まあ、そういうパートナーが見つけられるかどうかも運要素が大きいのだが」
そう言って、魔王はスマホが淹れたコカ茶を飲んだ。
魔王が南米ボリビアでマフィア組織を壊滅させた時に、助け出した爆乳美女からもらった現地土産である。なお、日本ではコカ茶は飲用禁止だが、彼らがいる部屋はダンジョン空間の一部である。ここは日本の領有空間ではなく、運営である魔王が法律なので飲用しても問題はない。
「それはそうと、貴様、何か言いたそうな顔をしているな?」
「ふぁっ! いやあの、魔王様のお耳に入れるような話じゃねーと思うんっスけど、商店街でちょっとその」
「何だ、いいから言ってみろ」
「肉屋の隣に、古い薬屋があるっスよね」
「スッポンの黒焼きとか、オオヤモリの干物とか飾ってある店か」
「あそこの2階に幽霊が出るんで、お祓いしてほしいって頼まれたんっス」
「お祓いだと? 薬屋の爺さんから頼まれたのか」
「なんか、商店会長さんが『そういうのは、唐揚げ屋の兄ちゃんに頼むといい』って、薬屋さんに言ったらしくて」
「酒屋の親父め、余計な事を」
魔王は嫌そうな顔でコカ茶をすすった。
「くだらん。幽霊など、この世界にいるわけがなかろう」
「いないんっスか?」
「当たり前だ。残留思念を実体化させる時に、どれほど魔力が必要だと思っているのだ。魔力ゼロの世界で幽霊が出るなど、湿度ゼロの砂漠で大雨が降ると言っているようなものだ」
「幽霊って、魔力が無いと出てこないんっスか?」
「そうだ。逆に言えば魔力があれば死霊を召喚できる。試しにそこらへんにいる低級霊でも実体化させてみるか?」
「い、いるんスか、そこらへんに? いやいやいやいや、遠慮しとくっス。んじゃ、この話は断ったほうがいいっスね」
「断るのも問題がある。貴様が適当に塩でも撒いて拝んでおけ。それで相手が納得すれば話は終わりだ。この魔王が出向くような事ではない」
「うい~~っス」
「それはそれとして、どんな幽霊が出るのだ」
魔王は腹を下した死神のような顔で、ふたたび茶をすすった。
「痩せこけた顔色の悪い女が『うらめしやー』と言って出てくるのか?
どうせ屋根裏に野良猫でも入り込んで鳴いているのを、幽霊の声だと思いこんだとかいうオチだろう」
「いえ、おっぱ〇が大きい綺麗なお姉さ」
「詳しく話せ」
***********
「で、現場はここらしいっス」
その夜、魔王と周作、スマホ、チワキチの一行はふたたび祓い屋装束になって、薬屋の2階にやってきていた。
「ごく普通の和室だな。タヌキやコブラの剥製が飾ってあるのを除けば」
「薬屋の爺ちゃんと婆ちゃんは、下で待たせてるっス。丑三つ時になると出てくるって言ってたから、そろそろっスね」
つまり午前2時頃。納期ギリギリで徹夜仕事か、生活サイクルが破綻している人間以外は草木も眠る時刻である。
「魔力の痕跡は無いな。少なくとも幽霊ではない。血わキ知よ、何か変わった臭いはあるか?」
チワキチは部屋の中をくんくんと嗅ぎ回っていたが、やがて、わふん、と言って首を振った。
「住人以外の臭いは無いと。コウモリやハクビシンが住み着いたわけでもなさそうだな……いやまて、何か気配がする。明かりを消せ」
スマホが部屋を暗くすると、部屋の隅にぼんやりと青い光が見えた。
「ふぁああああ!!! で、出……ふぎゅむっ」
大声をあげかけた周作に、魔王が無詠唱で麻痺呪文をかけて黙らせた。
青い光は音もなく広がり、その中で美しい女性が椅子のようなものに座っているのが見えた。ほっそりとした姿だが、胸だけははちきれるようなボリュームである。
<地球の方、私の言葉が聞こえますか。私の名はチチハサンダルのパイズレヤ。異次元の世界からあなたがたに話しかけています>
「異次元? お前は異世界の住人なのか」
<異世界ではありません。あなたがたの世界と重ね合わさって存在する、位相の異なる世界の住人です>
魔王は女性のほうに手を伸ばしたが、その手はそのまま女性の体をすり抜けた。
「ふむ、虚空間か……空間操作魔法を使えば干渉できそうだな」
鑑定の魔眼で状況解析しながら、魔王はその場で新規の術式を組み立てはじめた。
<詳しく説明している時間がありません。接続できるのはほんの少しの間だけなのです。次元王があなたがたの世界を滅ぼそうとしています>
「じ、じげんおう?」
麻痺から回復した周作がつぶやく。状況がよくのみこめていない。安心しろ、地の文もどういう状況なのかよく判っていない。
<3日後、次元王があなたがたの世界へと侵攻し、そちらの宇宙は消滅します。あなたがたは全員、今すぐ違う世界に避難してください。それができなければ、地球人類は滅亡します」
(続く)
<次回予告>
「貴様たちはここで待て」
そう言い置いて魔王は青い空間を両手で引き裂き、巨乳美女のいる世界に侵入した。異次元に乗り込んだ魔王と、異次元宇宙の支配者との壮絶な戦いが始まる。
次回「世界を統べる者」
更新は明日深夜、01時20分。




