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41:4メートル55センチのバトルフィールド

「すまぬすまぬ、連絡もせず放置してしまった」


 魔王が周作達のところに戻ってきたのは、翌日の夜になってからである。


「どこに行ってたんスか?」


「陰で事件を操っていた妖怪の女王と、相撲(すもう)をとってきた」


「ふぁああああああ?????」


「剣も魔法も使えぬ相手であったゆえ、素手の勝負にした」


「いやだから何で相撲? それってエッチな行為してきたって意味っスか?」


「いやそうではなく、土俵(どひょう)の中で勝敗を競ってきた」


比喩(ひゆ)ではなくスモウ・レスリングである。それ以外の何者でもない。


「でも相手は女の人なんっスよね? 相撲って女子禁制じゃなかったっスか?」


「人ではないが、好みの女だった。それはそれとして、相撲を女子禁制にしているのは日本相撲協会で、日本相撲連盟はジェンダーフリーだ。本来は女子も服を脱ぎ捨ててフンドシ一丁で相撲をとる。日本書紀にもそう書かれている」


「書かれてるんっスかw」


「詳細はピ〇シブ百科事典の『女相撲』の項を参照。原文は国立公文書館デジタルアーカイブ日本書紀ZIPファイル7番、14巻の雄略天皇13年9月の記述」


「いやちょっと待って」


「妖怪女王との対戦は、互いに激しい蹴り技の応酬となったが、やがてこの魔王の蹴りが命中して女王の肋骨をへし折った。間髪を入れず奥義『魔王龍屠脚』で腰椎を蹴り砕き、とどめをさした」


「ちょ、タイプの女性にとどめをさしちゃうんっスか!? てか、それって相撲じゃないっスよね!?」


「相手が女だからと言って、手加減をする魔王はいない。それと、これは古式に従った由緒正しい相撲技だ。相撲の開祖が、速蹴りの王者と戦った試合と同じ展開だったので、観客からの評価は高かった」


「えっとその、相撲って、そういう競技だったっスか?」


「彼女が絶命する前に完全回復薬(エリクサー)で回復させて、2回戦目に挑んだ」


「ええええ、決着がついたのに、まだやるんっスか!?」


「寝室につれこんで気を失うまで責め立て、たっぷりと判らせた」


「ヤッちゃったよ魔王様」


「そういうわけで首無し問題は、背後関係まで含めて解決した。この話はもう忘れて良い。で、商店街との交渉はどうなった」


「あ、唐揚げの委託販売っスけど、お惣菜屋さんは乗り気で、居酒屋さんは興味が薄いっぽくて、パン屋さんはパンにはさめる新商品があれば欲しいらしいっス。

 スーパーとコンビニの担当者は商品仕入れに縛りがあると言ってたスけど、本音はこっちを取引先として信用してないっぽいっス」


 何度もこういう経験をしているので、会話の切り替えが早いぞ周作!


「スマホは、ホンネっていうのが何なのか、よく判らなかった!」


「ふむ、お前の思考プログラムは魔族に近いからな。定型的なヒューマンと違う部分がある」


「どこが違うの?」


「電車オタクが電車にしか興味を持たぬように、一般ヒューマンは他のヒューマンの感情や行動にしか興味を持たぬ」


 「しか」は言い過ぎのような気もするが、「他人と話す以上に楽しい事が見つけられず、一人でいるとやる事が無い」という方は珍しくはない。


「人間さんって、人間オタクなの?」


「まあそんな感じだな。ヒューマン心理をオタク的興味で掘り下げなければ、嘘と本音の違いは見分けられぬ」


「スマホには、よくわかんない……」


「興味の無いジャンルで、細かい違いなど判るわけがあるまい。ヒューマンが大好きな『他人のうわさ話』というやつも、魔族から見ればオタク談義の一種だ。ヒューマンに関係する話題にしか興味を示さないのが、定型的なヒューマンだ」


 そして魔王は周作に話を振った。


「貴様は他のヒューマンの態度を見て、相手が好意を持っているか敵意を持っているか判るか? 相手が行動擬態していないという前提で」


「ふぁっ!? えっと、そりゃまー、ある程度は判るッス。なんか話してて相手が微妙な雰囲気になってきたら、大声で一発ギャグを披露したりして雰囲気を明るくするっス」


 いや、むしろ駄目だろそれ。


「魔族は、意識的に訓練しなければ相手の感情が読み取れない。スマホよ、お前は兄以外のヒューマンが何を考えていようが、直接の利害関係が無ければどうでも良いだろう?」


「だって、スマホとは無関係な人達でしょ?」


「だから、そのへんが魔族的なのだ。わが世界では、他ヒューマンからの反応に興味が無く、自分の『好き』だけを追い求めるヒューマンは『魔族憑き』と言われ、程度によってはヒューマン社会から追放される。魔族社会であればその逆だが」


「じゃあ、魔族さんは何が好きなの?」


「それは個体によって異なる。ある者は魔法に興味を持って何百年もただ一つの魔法のみを研究し、またある者は武術に興味を持ち、それを極める事のみに生涯を捧げる」


「魔法と武術だけ?」


「それ以外もいろいろだ。中にはヒューマンや魔族が興味対象という者もいるが、相手と感情を共有したいとは思っていない。『一緒にお話しよう』と言いながら相手を切り刻んだりするが、そこには悪意も害意も無い。食べた時の味なども含めて、研究対象として興味があるだけだ」


「スマホは人間さんを食べないよ?」


「お前には食人衝動は組み込んでいないからな。だが料理に対する興味が強く、お好み焼き屋でお好み焼きのデータを集めたりする一方で、周りにいるヒューマンの視線は眼中に無い」


「あの時って、周りに誰かいた?」


「だから、そういうところだ。定型的なヒューマンならその逆だ。周囲にいる同族と感情共有する事が最優先で、食い物は一緒に楽しむための道具にすぎん。こだわった料理を食べさせても興味が無いので『あ、美味いっス』で終わりだ」


「ふぁっ!」


「良い悪いの問題ではなく、そういうふうに生まれついているのだ。定型的なヒューマンは誰かに教えてもらわなければヒューマン付き合いと無関係なモノやコトを認識できぬし、定型的な魔族はその逆だ」


 人間の場合、毎日会っている人間の感情を認識していなければ「異常」だが、毎日乗っている電車の型番を認識していないのは「普通」である。


「まあ訓練すれば認識できるようにはなるが、どこが面白いのかはさっぱり判らぬ。そういうものに、生まれつき興味が湧かぬのだ」


「スマホも人間さんの気持ち、認識できるようになる?」


「誰かに教えてもらって、訓練すればな」


 魔王は周作のほうを見て、言葉を続けた。


「現実社会では小説のように『本音』と『建前』を地の文が解説してくれたりはしない。ネットを見てもダブルスタンダードを使い分ける練習動画は存在しないので、貴様が『本音』を読み取ってこいつに教え、機械学習させろ。 

 定型的なヒューマンが求めているのは、理解ではなく共感だ。理屈で判断するのではなく、相手の感情に寄り添って、一緒に笑ったり怒ったりする事が重要視される。

 その感覚がズレていると、魔族だという事が判って討伐されてしまう。魔族社会であればその逆だが」


「わ、わかったっス」


 魔王は、やれやれ、という感じで疲れた顔をした。


「今日はつまらぬ話をしてしまった。さて、夕食は何にするかな」


「……えっと、その前に、おじいちゃんに渡したいものがあるんだけど」


 そう言って、スマホは部屋の隅に置いてあった縦長の箱を魔王の前に持ってきた。


「お兄ちゃんとスマホとチワキチで、おじいちゃんにプレゼントを買ったの!」


「プレゼント? この魔王にか?」


「このあいだのイベントでお金が入ったでしょ? おじいちゃんが『好きに使っていい』って言ったから、みんなで相談して、しょにんきゅーは おじいちゃんに贈り物をするって決めたの!」


「……開けても良いのか?」


 周作とスマホがうなずいたので、魔王は箱の包装包みを開けた。チワキチが尻尾を振りつつそれを見つめる。


 箱に入っていたのは、芋焼酎の一升瓶。予約しても入手困難でプレミアがついている銘柄である。


「酒屋の権田さんに、『魔界の魔王にプレゼントするなら何がいいかな?』って言ったら、『魔界は品切れだが、魔王は今日入荷したよ』って、そのお酒を出してきてくれた!」


 魔王は、しばらく無言だった。


「……おじいちゃん、泣いてるの?」


「な、何を言う! 魔王が泣くなどという事は無い! たまたま塩類腺から塩水が排出されただけだ!」


 魔王は自分の顔に浄化の魔法をかけ、普段通りの様子に戻った。


「その貢ぎ物、この魔王が受け取ってやろう。夕食はこの酒に合う料理を亜空間収納から出す」


「ふぁ? もう用意されてるんスか?」


「こういう事もあろうかと、47都道府県の料理は一通り収納してある」


「どんだけ歩き回ってるんスか!?」


 そしてその晩、皆は鹿児島の郷土料理をお腹一杯食べるのだが、何が食卓に並んだのかは「家族」だけの秘密である。


(続く)


<次回予告>


 商店街に現われた巨乳美女の亡霊。迷える魂を救うため、妖魔ハンターがふたたび立ち上がる。


 次回「二階奥、和室の巨乳」

 更新は明後日深夜、24時10分。


 祓い屋に免許制度は無い。すなわち自称すれば皆本物。

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