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40:首無しナイスバディ

 彼女が着ているのは、俗に言う「童貞を〇すニットウェア」である。


 伸縮性のある白いニットが豊満な胸、細い胴体にぴったりと密着し、見事としか言いようのない成熟した身体を存分に見せつけている。エロい。ある意味トップレスよりもエロい。シコラビリティが突き抜けている。


「どうだ、素晴らしいと思わぬか」


「はー、えーその……イイトオモウっス」


「棒読みで答えるな。貴様はもう少し本心を隠す訓練が必要だな。……まあ貴様の性癖には合わぬだろうが、実に素晴らしい無縫製(むほうせい)ウェアだ」


「何っスかそれ」


「無縫製ニットウェア。3次元プリンター的な、立体編み機で作った服だ」


 ニットデザイナーがタッチペンとペンタブと左手デバイスを使って平面図案をコンピューター(C)支援型(A)デザイン(D)システムに書き込む。

 材料糸の情報を糸データ検索WEBサービスから、あるいは実物をスキャンして読み込むと、素材の風合いまで反映させた高精度3Dバーチャル見本に変換表示(レンダリング)される。

 それを見て修正を加え、OKを出すと自動的にプログラミング処理されて編み機に送信(コンバート)され、実体製品が自動的に編成される。


「遠方にいるデザイナーがリモートワークで参加したり、データを海外工場に送って製品化することも可能な最新式製造システムだ。

 やろうと思えばスマートグラスで実風景の中にバーチャルモデルを等身大で投影し、拡張現実ファッションショーを開くことも可能だ」


「うへぇ、なんかよく判んないっスけど、凄そうっス」


 作動させた編み機はその日の気温や湿度に合わせて糸の引っ張り加減を自動調整し、材料糸をセットしておけば勝手に服を編みあげていく。

 これによって織物工場から布を買う必要も、縫製時の縫い代・カットロスも無くなり、縫製職人も解雇できてしまう。ラッダイト運動って知ってますか的な製造技術である。


「で、この乳の膨らみを見て、貴様は何か感じないか?」


「イイトオモウッス」


「いや、そういう話ではない。巨乳の女性が服を着ると、普通であれば乳の下側に余計な空間ができて、服全体のシルエットがおかしくなってしまうのだ。この服は体のラインにぴったり沿うよう作られているだろう?」


「あー、言われてみれば」


 最初の服装描写の時点で、普通の服ではない事にお気づきになられた方はおそらく服飾関係者である。


「従来は『立体縫製』という高等技術を持った職人に、何週間もかけて体型に合った服をオーダーメイドで仕立ててもらう以外、巨乳体型にぴったり合う服は手に入らなかった。

 だが今は違う! 萌え絵の中にしか存在しなかった縫い目の無い乳袋ウェアを、現実に作りあげる技術が開発されたのだ!」


 おバカな男子の妄想だと言われていた画像が、機械技術と情報工学によって具現化されたのである。


「おっ〇いの大きい人には嬉しいっスね」


「すでに本人の2方向写真と身長・体重の情報だけで、ある程度まで体型に合ったニットウェアをセミオーダーで注文できるようになっている。

 だがこのような、完璧に乳の美しさを引き出せる服を作ってくれる店は存在していない」


「ふぁ??」


「体型を三次元計測し、そのデータに職人が手を加えてフルオーダーで服を作ることは技術的にはすでに可能になっている。

 しかし体に完全にフィットさせつつ、それでいて着心地を損ねない3次元構造を設計できるニット機能デザイナーは、世界中探しても数えるほどしかいない。

 それゆえ一般人が萌え絵レベルの服を入手するのは、現時点ではまだ無理なのだ」


「じゃあ、何でこの人はそういう服を着てるんっスか?」


「そこだ。どこでこんな服を手に入れたか聞きたい。作った職人をヘッドハントして|『生成』のスキルを与え、異世界で巨乳ファッション無双させる展開を考えている」


「魔王軍に引き込んで、専属職人に育てたいと」


「その通りだ。とは言っても、首の無い女に何か聞いても答えられるはずもない。まずは首を探し出さねばならぬ」


「どうやって探すんっスか?」


「この体の周りに探査魔法陣を描く。貴様はそこに光属性の魔力を流し込むのだ」


「なんかよくわかんないっスけど、わかったっス」


 魔王が首の無い女性の手にそっと触れると、女性は驚いたように手を引っこめた。魔王はもう一度彼女の手をとり、念話で語りかけた。


<心配はいらぬ。お前の体は安全な場所に保護している。必ず元に戻してやる。もう少しの辛抱だ>


 女性はあわてたように魔王の手を両手でつかんで、ぶんぶんと上下に振った。おそらく「お願いします」の意志表示である。頭部が無いので表情は判らない。


「魔力が無い者と念話をすると、一方通行になるのが難点だな……。

 それにしても、ヒューマンの首を生きたまま別の場所に持っていくとは、いったいどういう原理なのだ。空間魔法を使えば簡単だが、魔力を使っている形跡が無い」


「悪魔の実の能力とか、そういう奴じゃないっスか?」


「今は現実の話をしている。これは漫画ではないのだ」


「サーセン反省しますっス。にしても、首の無い女の人が部屋に座っていると、なんか落ち着かないっス」


首無し騎士(デュラハン)が遊びに来ていると思えば良かろう」


 まあ周作の場合、どんな女性でも近くにいれば落ち着かなくなる。首があっても無くてもほとんど変わりはない。


「……よし、魔法陣が描けた。ここに触って魔力を流しこめ。ゆっくりと、少しずつでいい」


「ういっス」


 周作が言われた通りにすると、魔法陣が青白く輝きはじめた。


「探査開始……分割体の反応あり。位置座標を取得……よし、行ってくる」


 魔王は女性の体をお姫様だっこすると、そのまま空間転移して消えた。


「ふえええええ……」


「おじいちゃんって、忙しいひとだね」

「わんわん」


「スマちゃんとチワキチも、そう思うっスか?」


「一度出かけると、いつ戻ってくるか判らな……」


 スマホが言いかけた時、魔王が部屋の中に出現した。


「おおすまぬ、あわてていてラップ音を出すのを忘れてしまった」


「ふぁっ!? 忘れ物っスか?」


「いや、もう済んだ。事件は解決した」


「早っ!!!」


「よもや妖怪の仕業(しわざ)であったとは、この魔王にも見抜けなんだわ」


「よ、ようかいの、しわざ????」


「こちらの世界には、この魔王の知らぬ存在がまだまだいるのだな」


「い、いるんスか!!!???」


「探していたニットデザイナーは、あの女だった」


「本人だったんスか!?」


「後始末に時間がかかるので、今日の夕食は貴様らだけで済ませて寝ろ。仕事の話はまた明日以降だ」


 そう言い残して魔王は姿を消した。


「……忙しいひとだねぇ」

「わおん」


「というか、どういう事件だったのか詳しく知りたいっス!」


 それは次回、語られたり語られなかったりする予定である。


「じゃあ晩ご飯にするね! 今日はマヒベラウィだよ!」 


「何っスかそれ」


「エチオピア料理だよ! ア〇ゾンでオフチョベットしたテフが売ってたから、インジェラを作ってみた!」


「はぇぇー、よく判らないっスけど、最近のネット通販って何でも売ってるんっスねぇ」


 ちなみに楽〇市場でも売っている。なお、オフチョベットはエチオピア語(アムハラ語)なので、商品検索する場合は該当する日本語でお願いします。


 こうして大騒ぎのうちに1日は終わった。唐揚げ売りの話に戻るのは明日の夜までお待ちいただきたい。


(続く)


<次回予告>


 首無し事件の裏に潜む人外の影。戦士たちの熱き肉体が土俵の中で絡み合う。


 次回「4メートル55センチのバトルフィールド」

 更新は明日23時50分。

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