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4:復讐のからあげ祭り

「貴様の兄は貴様を裏切り、実家を乗っ取って売り払った。裏切り者に死を。そして命を奪う以上、残さず食べるのが礼儀というものだ」


 まるごと全部?


「揚げ物のカロリーが気になる場合は、しゃぶしゃぶ食べ放題の刑でも良い」


 こちらの世界では、ほとんど知られていない処刑方法である。


「天井から逆さ吊りにして、死なぬよう回復魔法をかけつつ全身の肉を薄くそぎ落とし、時間無制限おかわり自由」


 古代中国史で最も残酷な処刑方法として知られる、凌遅刑(りょうちけい)の一種である。


「む、無理っス。兄貴がどこにいるか判らないっス」


「この魔王が魔法で居場所を探し出しておいた。都内のマンションに妻子と共に暮らしている」


 あとは調理に出向くだけである。


「だって、血のつながった兄弟っスよ?」


親族(しんぞく)眷属(けんぞく)であろうと、スーパーで売っている食材と命の重みに違いはない。『父母に()うては父母を〇し、親眷(しんけん)に逢うては親眷を〇せ』と臨済宗(りんざいしゅう)の開祖も言っている」


 独創的な行状や言動の数々で「語録の王」と称されている慧照(えしょう)禅師の言葉である。


「ふえぇぇ、兄貴の肉なんか食べたらアレルギーが出るっスうぅぅ~~」


「そうなのか? ならば貴様の代わりに、兄の妻子をハンバーグディナーに招待しよう」


伯邑考(はくゆうこう)……あ、調べなくていい調べなくて。


「ふぇぇぇ、そんな事しても、誰も喜ばないっスよぅぅ」


「何を言っている、ざまぁ展開は誰もが喜ぶ人気コンテンツだ。

『モンテ・クリスト伯』から婚約者を寝取った男への復讐パートを削り、鈍感系のおっさんに元奴隷の美少女がラブラブになる展開だけ残したら読者から評価1がつく」


 ちなみに「モンテ・クリスト伯」とは明治34年に「巌窟王(がんくつおう)」の邦題で翻案された、実話を題材にしてフランスで書かれた、なろう小説である。


「お願いっス、兄貴のことは忘れてほしいっス、オレっちも全部忘れたっス」


「……まあ、復讐者としての権限を持つのは貴様で、他者が指図すべきものではない。貴様がそれでかまわぬのなら、キッチンカー運営の件を先に進めよう」


 それを聞いた周作は一気に脱力して腰が抜け、魔王は ほうじ茶を一口すすって話を続けた。


「車の手配と改造はこちらで進めておく。貴様の部下と共に唐揚げ作りの練習をしておけ」


「ふぁ? 部下?」


「いるだろう、貴様の足元に」


 いきなり話を振られたチワワが、飛び起きて目を丸くしている。


「この国の伝説の勇者が、きび団子を報酬にして部下をヘッドハントした事例があるだろう。貴様はすでに、同じ事を済ませている」


 あのブロック栄養食が伏線だったとは! この地の文の描写力をもってしても(略


「その小動物、名前は決まったのか」


「あーっと、まだ決まってねっス。どーゆー名前がいいっスかね?」


 その言葉を聞いた瞬間、魔王の顔色が変わった


「……貴様、よもやこの魔王に、名前をつけさせようと思っているのか」


「ふぁっ? いやっそのっ、違うっス、駄目ならいいんっス、深く考えず聞いただけっス」


 すると魔王はくっくっく、と不気味に笑いつつ周作に言った。


「駄目ではない。今日はこの魔王は気分が良い。まずは役所に畜犬登録されていないか確認しておこう」


 チワワを見る魔王の目が、青く光る。


「……5歳オス、マイクロチップ未挿入、血統書登録なし、遺棄されて今は主人を持たぬ名無し犬、か……」


 魔王は少し考えたあと立ち上がり、チワワのほうに向かって手を伸ばした。


「ならばこの魔王が、ここに新たなる名を授けよう。

『血に餓えし獣の末裔(まつえい)にして、わが社の新入社員となりて黎明(よあけ)の大地を駆けぬけるキリングフィールドの覇者、知を置き忘れし者の従魔として盟約を結びし黒き疾風(はやて)

それを(なんじ)真名(まことな)として社員名簿に登録し、魔王軍の一員として迎え入れるものなり」


「ふぁっ!? なんかその……名前、すっげー長くないっスか?」


「当たり前だ。真名が短かかったら、敵に覚えられて戦闘中に名称魔法を唱えられてしまうではないか」


「オレっちが覚えられないんっスけど」


「普段は短縮して『血わキ知』」


「ちわきち?」


 チワキチが社員(なかま)になった!(BGM入る)


 その時、突然チワワの様子がおかしくなった。

体をぶるぶると震わせ、全身の毛を逆立て、牙をむいてうなりはじめた。


「……ふぁっ!? チワキチの様子が……!」


 全身から黒い瘴気(しょうき)が吹きあがり、目は赤く輝いて手足が伸び、筋肉が盛り上がってムキムキになっていく。みるみるうちに体がふくれあがり、子牛ほどもある黒い狼の姿になった。


 子牛と言われてもピンと来ない? 月齢6ヶ月相当で体重150キロ前後、特大犬種3頭分ぐらい。室内で飼われていたらドン引きするサイズである。


 魔王はそれを見て、ふたたび不気味に笑った。


「おめでとう! チワワはダークネス・チワワロードに進化した!」


「ふぁっ!!! ななな何スかそれ!!!」


神狼(フェンリル)に匹敵する知性と戦闘力を持つ特殊(ユニーク)モンスターだ」


「何でっ!?」


「この魔王が名を与えた者は、魔王眷属のネームド・モンスターに進化する。特殊魔獣を使役すれば、貴様は神にも悪魔にもなれる。陸上自衛隊の最新10(ヒトマル)式戦車でも、赤子の首をひねるように撃破できる」


 周作を悪魔にする気か、魔王!


「だがそれは、貴様を主人として認めさせることができれば、の話だ」


 その言葉と同時に、魔物は炎のような目を周作に向けた。周作は驚いてとびあがり、壁際まで逃げた。


 真っ黒い魔物の開いた口から、長く白い牙が見える。ハアハアと荒い呼吸をしながら、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 周作は思わず目をつぶり、そのまましゃがみこんだ。鋭い爪が床に当たる音が徐々に近づいてきた。呼吸音が耳元まで迫り、生暖かい息が顔にかかった。


「ぎゃあああああああああああ!!!!!」


 周作はべろりと顔をなめられて、思わず悲鳴をあげた。


 彼が目をあけると、そこには巨大な黒い狼がおすわりをして、舌を出して嬉しそうな顔でハッハッハッと呼吸しながら、ぶんぶんと尻尾を振っていた。


(続く)


<次回予告>


 魔王が周作に与えた2体目のお(とも)。それは人の姿に似て、人にあらざる者。命を持たぬアンデッド、生き物の姿を借りた闇の魔道具。その正視に耐えぬ姿に周作は恐怖の叫びをあげる。


次回「戦慄のバイオニック従魔」

更新は明日、午前11時40分。

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