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22:戻ってきたらエロ動画

「ただいまーっス」


「おじいちゃん、帰ったよー!」


「おお、戻ってきたか。保健所での相談結果はどうだった」

「きゅお~~ん?」


 キッチンカーのワンルームダンジョンで留守番していた魔王とチワキチが、帰ってきた周作とスマホを迎えた。


「大丈夫みたいっス。担当は怖い顔したおっさんだったんっスけど、魔法のお守りが効いたみたいっス」


「効いたか」


「お守りを渡したら『なんだこれは、妙なニオイがするな』とか言ってクンクン嗅いでたんスけど、だんだん顔が赤くなってトロンとした感じになって、

『むおおおお、若い方の起業ォォッ!! いい、イイ、いい、実にいいッ!! 

この私にっ!!ぜひともっ!お手伝いさせていただきたイぃぃィィィっ!!』とか言って涙をだーだー流しながら握手してくれたっス」


「魔法の鼻薬が予想以上に効いたな」


「ふぁ?」


「あーいや、フレンドリーになれるお守りの効果があったようだ」


「魔王様のおかげっス」


「効果はしばらく続くから、担当者との交渉のたびにお守りを使えば順調に話が進むだろう」


 魔王と周作が話をしている間に、スマホはテーブルの上に見慣れない箱が置いてあることに気がついた。その箱とノートパソコンが有線接続されている。


「ねえおじいちゃん、パソコンさんは誰と情交してるの?」


 説明するまでも無いが、情交とは情報交換のことである。不純異機種交友である。


「ああ、これか? これは映像クリスタルから記録を引き出す、魔法の箱だ」


「えいぞーくりすたる?」


「魔法の力で、水晶の中に動く映像を封じこめた魔道具だ」


 具体的に言うと、フェムト秒パルスレーザー光魔法を用いて透明な石英板の内部にボクセル変換した動画データを積層記録した、半永久的に劣化しない記録媒体である。


「この箱には映像のファイル形式を変換して、Windowsパソコンで再生できるようにする魔法が組み込んである。これを使って魔物の動画をここで見せようと思ったのだが」


「何か問題あったっスか」


「調べてみたら、この魔王が今持っているクリスタルに入っていたのは(かたよ)った内容の動画だけだった」


「偏った内容?」


「性教育動画だ」


「せ、性教育」


「せいきょーいくって何?」


「実際に見せたほうが早いな」


 おいまて魔王。見せるのか。見せてしまうのか。


「……何っスか、これ」


 パソコンの画面に、黒っぽい紫色のナメクジを平たくしたような魔物が2匹、ぐねぐねと体を動かしながらお互いの体を求め合い、ぬるぬるとからみあっている情景が映し出された。


「フラットワームという魔物の、貴重な交接シーンだ」


「これで何を教育するんっスか」


「昔、フラットワームに転生したヒューマン男性がいたのだ。エッチの仕方が判らないというので、この魔王が無修正の動画を見せて教育した」


「これを見て嬉しいんスか?」


「この魔王はフラットワームではないので、よく判らん」


「どっちがオスなんスか?」


「それは『ち〇ちんチャンバラ』の勝負でこれから決める」


「ちん……????」


「こっちの世界の、ヒラムシという生き物と同じだ。『ヒラムシ ペ〇スフェンシング』で動画検索してみた事はあるか?」


「無いっス」


「こいつらは両性具有で、精巣と卵巣の両方がある。2匹で戦い、負けて交接器を突き立てられたほうがメス墜ちして(はら)むのだ。勝ったオスは新たなメス役を探しに行く」


 両性体なので、この動画はBLであると同時に百合である。ふたなり種族にとって単性種族の絡みは、男女のどういう組み合わせでも変態である。


「あとはまあ、ここでは紹介しにくい動画ばかりだ。ブチハイエナ獣人娘やモグラ獣人娘と、ヒューマン男性の絡みとか」


「ケモ系っスか」


「貴様は『ブチハイエナ メス』で検索してみた事は?」


「無いっス」


「まあ知らなくても良い。モグラ娘は男性ホルモン分泌器官があって通常は筋肉モリモリの土木系男子体型、発情時のみ女性ホルモン優位になってメスの姿に変わるのだが、そういうのも異種族レビューをする者以外には必要の無いムダ知識だ」


「魔王様は、ケモ系もイケるんっスか」


「好みのタイプであればどのような種族でも歓迎するが、カンガルー娘とかコアラ娘とか、有袋類系はちょっといただけない」


「ゆーたいるい?」


「お腹のポケットで子育てをする種族のことだ。授乳器官がポケット内にあるので、胸は完全につるぺたで乳首すら無い。下半身のむっちり感は捨てがたいのだが」


「巨乳のカンガルーなど存在しねぇと」


「乳首が股間にあるイルカや、脇の下に乳首があるジュゴン、そもそも乳首の無い爬虫類・昆虫系にはなぜか巨乳娘が普通にいるので、そのあたりが生物学的に謎なのだが……ああ脱線した、こういう話は終わりにしよう」


 そう言って魔王は動画機器を収納し、代わりに卓上コンロと鉄鍋をテーブルの上に出した。


「スマホよ、指示通り近在のスーパーの食材を調査してきたか」


「うん、保健所の帰りに3軒マッピングしてきた! おじいちゃんに言われたとおり野菜も買ってきたよ!」


「すっごく歩き回って、疲れ果てて死にそうっス」


「ダンジョンに入るための体力作りを兼ねている。今晩はスキヤキだ。腹一杯食ってゆっくり休め」


 魔王は卓上コンロの表面に描かれた魔法陣に魔力を流しこんだ。内部の金属触媒に吸蔵されている軽水素を量子力学的に核種変換する魔法が発動し、質量・エネルギー変換熱が発生して上に乗せている鍋が熱くなった。


「まず鉄鍋にオリーブオイルとニンニクを入れる」


「ふぁ? オレっちが知ってる作り方と違うっス」


「まあ作り方には地域差があるからな。こちらの世界にはスキヤキ警察はいないから、好き勝手に作っても逮捕されない」


「そっちの世界には、そういうのがいるんスか」


「ヒューマンの国には、検閲を利権にして公金を吸い取っている団体がいる」


 初代勇者の好物であったスキヤキのレシピは、勇者原理主義者に神聖にして侵さざるべきものとされている。関西風に焼いた肉の上へ砂糖を直接ふりかけて味付けした者は死刑である。


「用意しておいた肉を入れ、焼き目がついたら()(した)を入れて煮る」


 ちなみに割り下とは、下地(醤油のこと)を味醂(みりん)などと混ぜて、だし汁で割った、国家錬金術士だけが調合を許されている調味料である。


「あとはトマト、玉葱、バジルなどを追加で入れて煮ながら食べる」


 詳しくは「イタリアンすき焼き」で検索。


「あ、美味いっス……でも、これ牛肉じゃないっスよね? 食感は鶏肉っぽいスけど、味はラム肉っぽいような」


「アライグマだ」


「 あ ら い ぐ ま 」


「アライさんのお肉なの?」


「猟期であれば野生肉(ジビエ)の通販で普通に買える。ただし悪食な動物なので、変なものを食べていた個体だと脂肪から濡れた犬のような臭いがする。

これは果樹園でリンゴを爆喰いしていた個体なので、脂肪層がとろけるように甘く香りも良い」


 ちなみにアライグマは「重症熱性血小板減少症候群ウイルス」とか「エキノコックス」とか、人間に致命的な病気を引き起こす病原体や寄生虫を持っている場合がある。一般人は非汚染地域から信頼できる業者を通じて購入したもの以外、食べてはいけない。


「料理人は、さまざまなものを食べて感性を豊かにしていくのだ」


「ふぁ~、食い物についての感覚がだんだんマヒしてきたっス」


 周作は、魔王に感性を浸食されつつある。すべては魔王の計画通りであった。


(続く)


<次回予告>


 午前中の修行が終わった後、周作はついにダンジョンの奥へと踏み込む。だがその前にまずは腹ごしらえ。スマホの手作り料理が食卓を飾る。その料理の名は誰も知らない。


次回「機械の少女が作りし何か」

更新は明日朝、05時20分。

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