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20:魔法少女・マジカル周作

 地下ダンジョンの入り口になっている押し入れの前で、魔王は周作に告げた。


「貴様はこの迷宮の中に入り、唐揚げの素材を捕獲してくるのだ」


「ふぁっ!???」


「地下3階層に『迷宮コーチン』という魔物がいる。それを生け捕りにしてくるのだ。捕獲レベルは低い」


「いやちょっと待ってほしいっス。何で迷宮で素材集めをしなきゃならないんっスか。業務用のスーパーで買ってくればいいじゃないっスか」


「そう思うか」


 魔王は自分の収納空間から、唐揚げが乗った皿を取り出した。


「これを食ってみろ」


 周作は言われたとおり、添えられていた爪楊枝(つまようじ)を使って唐揚げを取り、口に運んだ。


 カリっとした衣を噛むと、香ばしい香りと共に、熱い肉汁が口の中にじゅわっと広がる。濃厚な旨み、そして言葉では表現しがたい官能的な味わい。


「ふぇぇぇぇ、ふっひゃひゃひゃふははほっふぇぇぇ~~!!!」


 予想外に美味しい食べ物を食べた時、思わず笑ってしまう事がある。それと同じ反応が100倍の強さで発生した。周作は あまりの美味さに脳内麻薬があふれ出し、しばらくの間、意味不明の言葉を口走り続けた。周作が正気に戻るまで少し時間がかかった。


「うっま!!うっっっっっっまああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!

なっ、何スかこれ、うっまあああぁぁぁ!!!!

美味いっス! いや美味いとかいうレベルじゃなく美味いっス!!!」


「これはわが世界で作られた唐揚げだ。この肉には魔力が大量に含まれている」


「ま、魔力?」


「魔力は生命を支える力。すなわち油や糖やアミノ酸が含まれている時と同じように、魔力が含まれている食べ物には魔力特有の美味しさがあるのだ。しかし、こちらの世界の食材にはそれが無い」


「ふぁっ!? ということは、スーパーで売っているお肉を使っても……」


「この味にはならん。迷宮の奥から食材を採ってこない限り、魔力風味の唐揚げを作ることはできぬ」


 周作は悶え苦しんだ。肉は食いたし命は惜しし、の心境である。


「まあ心配はいらん。貴様にはダンジョンマスター特権があるので、ダンジョン内でモンスターに襲われても問題は無い」


「ふぁっ!? 死なないんっスか!?」


「いや普通に死ぬ」


「ふぁっ!!!???」


「死ぬが、この部屋で自動的に復活(リスポーン)する。ゾンビに生きたまま頭をかじられても、ドラゴンの炎で焼き尽くされても存在が消滅することはない。死ぬほど痛かったり熱かったりするだけだ」


「いやちょっと勘弁してほしいっス。つーか出るんっスかドラゴン」


「大丈夫だ、浅い階層にはめったに出ない」


「めったに」


 たまには出る。


「えっとその、襲われたら痛いんっスよね?」


「痛くなければ危険性を覚えぬからな。ダンジョン内は食うか食われるか、弱肉強食の過酷な食材調達場なのだ」


「それって、オレっちのほうが食材っスよね?」


「他者を食材にしても良いのは、食材にされる覚悟のある奴だけだ」


 魔王は収納空間から、黒い腕輪を取り出して周作に渡した。


「とはいえ簡単に食われるようでも困るので、魔法の防具を用意した。この腕輪を身につけてみるがいい」


「ふぁっ?」


「手首にはめると、サイズは自動的に調節される。左手首で良かろう」


 周作は「魔王の腕輪」を装備した!


 でろでろでろでぃろでぃ~~らっ♪


「ふぁっ!? 今なんか、不安な感じの音楽が流れたっスよ?」


「気にするな。装備時の効果音だ」


「……あれ? 腕輪が……はずれなくなったっス」


「貴様は一度はずすと、そのまま置き忘れるからな。装備解除ができない仕様にしてある」


 ユーザーフレンドリーな設計である。


「『生活防壊』の術式を付与してあるから、通常戦レベルの攻撃では破壊されない。腐食もしないから、装備したまま入浴しても大丈夫だ」


「いやそうじゃなくって、え? 何スかこれ? 一生はずれないんっスか?」


「手首を切り落とせばはずせる。盗賊に狙われた場合は、自切して腕輪を置いていかないと命を奪われる」


 命が危ない時に、魔法で再生が効く手足を捨てていくのは異世界では常識である。


「使い方だが、まず左手をかまえろ。……少し引いて、そう、そういう感じだ。右手で腕輪に触れてパスワード詠唱『唐揚げチェンジ』」


「か、からあげ……??」


「『唐揚げチェンジ』」


「からあげチェンジ」


 ビンビカビヤャ~~~~~ァン♪ マオーゥ!カラアーゲ!!ホンポーゥー!!!!


「ふぁっ!!!???」


 腕輪から七色の光がほとばしり、にぎやかな電子音が鳴りひびく。

周作の体がゲーミングな光に包まれ、一瞬のうちに服装が変った。


 髪の毛を覆う帽子に不織布マスク、動きやすい上下服と和風の前掛け。清潔感あふれる唐揚げ屋店員の制服姿である。


「なっ、何っスかこれっ!!」


「腕輪の機能の一つ『唐揚げチェンジ』。魔法少女の標準変身機能だ」


「光って音が鳴る必然性って、あるんっスか?」


「無音だと、機能が発動したかどうか判らんだろう」


 デジカメがわざわざシャッター音を鳴らすようなものである。


「その制服には『不壊』の術式が付与されている。シモノフ対戦車ライフルで撃たれても穴が空くことはない」


「ふぁっ? じゃあこれを着ていれば、無敵って事っスね?」


「いや、無敵なのは服だけだ。貫通しない場合は銃弾の運動エネルギーがすべて吸収されるので、中身は服を着ていない時よりもグチャグチャになる」


「ふぇええ!!」


「トラックにはねられたりすれば普通に死ぬ。ダンジョン外で死んだ場合は復活しないから、外でヒグマや通り魔と戦ったりはするな」


 要するに、ものすごく丈夫な服であってヒーロー用戦闘服ではない。ナイフで切りつけられたりしてもある程度まで防げるが、バールのようなもので殴られたり熊パンチをくらったりすれば普通に死ぬ。ころんだら痛いし、自転車にぶつかった程度でも中の人は無事ではない。


「それともう一つ。これを持て」


 魔王は周作に唐揚げを1個、手渡した。


「それを左手で持って、横の壁のほうを向け。

その唐揚げをこう、前にかまえて魔力を込めてみろ。

……なに? 持てないぐらい熱くなってきた? それは……いや、試しにやってみよう。

スマホと血わキ知はこっちに来い」


 魔王は物理バリアの呪文をとなえた!(効果音)


「『唐揚げショット』と言ってみろ」


「からあげショット」


 その時に何がおきたのか、魔王以外は判らなかった。


 周作の目の前で大爆発がおこった。周作は爆風で後ろに吹き飛ばされ、床に勢いよく叩きつけられて変身が解けた。打ち所が悪かったのか、後頭部から大量に血が流れ出してみるみる床に広がっていく。


仰向けになった体がもがくように動き、やがて激しく痙攣した。ぶくっという音と共に口から血の混じった泡が吹き出し、口元から横にどろりと流れる。


「お兄ちゃあああああん!!!!」


 スマホの叫び声が、部屋の中に響いた。


(続く)


<次回予告>

 唐揚げに秘められた膨大なエネルギー、それはすべてを滅ぼす力。それを扱えるのは選ばれた者のみ。


次回「営業申請は保健所で」

更新は明日03時50分。

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