16:史上最大の侵略
「ただいまー。おじいちゃーん、唐揚げ買ってきたよー」
「ふえぇぇ、疲れたっス」
スマホと周作が戻ってきたのは、2時間ほど経ってからである。
「わんわんわんわん!!!!!!」
「どーしたっスかチワキチ、そんなに興奮して」
「帰ったか。貴様らが出かけているうちに事件があってな」
「事件って何スか?」
「宇宙人が攻めてきた」
「ふぁっ!???????」
「だがもう終わった。その話は忘れていい」
「それは忘れていい話じゃねーと思うんっスけど! 何があったのか教えて欲しいっス!」
「唐揚げは……おお、タコザンギではないか。あの店の商品はランダム出現で、これはめったに買えない。 この魔王の好物だ」
「ビールも買ってきた!」
「スマホはなかなか気が利くな。ハスカップビールか、これはわが世界では」
「宇宙人は!?」
「あーうるさいな。宇宙船ごと宇宙空間に転移させて爆破した」
「ふぁっ!?」
「転移魔法の妨害術式を組まずに敵地に乗り込んでくるなど、対空兵器の無い地上部隊が大平原を進軍してくるようなものだぞ?
『時空優勢の確保』は、わが世界の軍事教範なら初歩で習う。前時代の大艦巨砲主義につきあっているほど、この魔王は暇ではない」
「えっと、なんかよく判んないんっスけど、宇宙人と魔王様が戦ったんスか?」
「影響圏外に飛ばした後、反物質塊を錬成して宇宙船の中心部に転送した。あれは戦いなどという上等なものではない、侵略的外来種の駆除作業だ。慈悲は無い。以上終わり」
「ふえええええ」
「で、そっちは唐揚げを買ってくる間に問題は無かったのか。ずいぶん時間がかかったようだが」
「あのね、スマホがナビして、お兄ちゃんが ちょうちょ追っかけてったりしないよう手を引いてたから、道には迷わなかったんだけど」
「敵にエンカウントしたか」
「変なひとが出たの! パンツはいてなかった!!」
「心当たりが多すぎるな。男か女か」
「えーとね、40歳くらいの男のひと!! ち〇ち〇がおっきくなってた!」
女の子が「〇ん〇ん」とか言ったら問題描写だが、スマホは機械なので特に問題は無い。電子機器に卑猥な単語を発音させてハァハァしてたら、ただのやべぇ奴である。
「それは『変質者』だな。魔物にとりつかれて体質が変化した者だ」
「スマホ、あんなのはじめてみた!!」
「面白かったか」
「面白くない!! 大きすぎて怖かった! 長さが1メートルくらいあって、変な色してて、ビクンビクン動いてた!」
「スマちゃんをかかえて、走って逃げたっス」
「逃げて正解だ。あいつにとどめをさすと、とりついていた魔物が倒した者に乗り移る」
「そうしたら、お兄ちゃんのがあんなふうにおっきくなって、アライグマさんの尻尾みたいに縞々になって、七色に光りながら動くようになっちゃうの!?」
「ここではチュートリアルだから大丈夫だが、わが世界の本物を相手にすればそうなる」
「あれって実在してるんスか!?」
「ヒューマンを中間宿主にして、あの独特の動きと模様でドラゴンの捕食を誘う生物だ。こちらの世界で言うとロイコクロリディウムという寄生虫に似ている」
あ、動画検索はしないほうが良いです。グロ耐性が無い方が見ると死にます。
「えっと、それからね、半ズボンをはいた黒い男の子が迷子になってニャーニャー泣いてたの」
「特殊イベントに遭遇したか」
「お母さんを探してその子を連れてったら、お礼だって言われて『ふくびきけん』をもらったの。それを商店街で使ったら、『おんせんごしょうたいけん』が当たった!」
「特賞だな。いろいろと運がいい。ではそれを使って温泉階層に行くとしよう」
「何スかそれ」
「ダンジョンの0.5階層、運営スタッフ用の『大魔王温泉物語』という保養施設だ」
「何スかそれ」
「そう言えば教えていなかったな。浄化魔法で事足りるので忘れていた。スマホや血わキ知も一緒に入れるぞ」
「わーい!」
「わんわん!」
「何スかそれ」
「魔物や従魔も一緒に入れる露天風呂がある」
ダンジョンの中なのに「露天」風呂とはこれいかに。魔法空間は謎である。
「いやちょっと待ってほしいっス。スマちゃんと一緒に入るんっスか?」
「何か問題でもあるのか」
問題しか無い。
「いやさすがに駄目っス!」
「兄妹だろう」
「血がつながってないのは駄目っス!!」
「つながっていれば良いのか」
それはそれで駄目である。
「裸は駄目っス!!!」
「それも宗教上の戒律か? ならばやむをえん」
諦めたか?
「水着を着れば良い」
宇宙戦争が始まると思ったら、いつのまにか温泉水着回になっていた。何を言ってるのかわからねーと思うが(略)
(続く)
<次回予告>
温泉回で水着を着る。許されない暴挙に男性読者の怒りが炸裂し、一部マニアの歓びの声が上がる。
次回「温泉に棲む巨大魔獣」
更新は明日23時10分。