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15:女勇者の禁じられた秘技

<警告>

今回は最初のほうに気持ち悪くなる表現が出てきます。


お食事中の方は  *****(用心終了マーク) の後までは、うっかり読まないように飛ばしてくださるようお願いいたします。




(うっかり読まないように少し改行)





「その時あの女は、唐揚げ屋の言葉をヒントに新しい必殺技を思いついた。それは『うんこストラッシュ』とでも呼ぶべき剣技だった」


「何スかそれ。小学校低学年男児が考えた技っスか?」


「後年に編纂(へんさん)された歴史書では『聖剣奥義ゴールデンスプラッシュ』とかいう名前になっていたな。

聖剣に生しぼり、素手塗りして攻撃してくる技だ」


「な ま し ぼ り」


「戦国時代に、槍に糞尿を塗って敵兵を攻撃する戦法があっただろう」


「いや知らねっス」


「傷口に大量の雑菌が入り込むと、傷が治らずに腐って死んでしまうのだ。

汚れた傷口は、きちんと浄化しなければ回復しない」


 外科系の常識である。


「聖剣でできた傷口に、汚物がダイレクトにねじこまれ治癒を(こば)む。それは魔法を反射する敵に魔法剣で攻撃するように、この魔王には効かぬはずの攻撃を効くものへと変える力があったのだ」


 えーとその何というか、伝説の武器とウンコと綺麗なお姉さん、どれも小学生男児が好きな要素ではあるが、全部は盛り込みすぎである。思いついても常識人はやらない。




(用心終了)************************




「よもや若い女が(みずか)ら手を汚し、あのような汚い手段を使ってくるとは予想しなかった。だが、予想できなかった時点でこの魔王の負けだ。

 結果を見れば、バカとしか言いようのない発想を現実の技に昇華させた、勇者の行動力の勝ちだ。

この心臓に再生阻害を付与した剣が突き立たれ、わが身は封印された」


 魔王は胸をさすりつつ、熱いお茶を飲んで厳しい目をする。


「この魔王は(おご)っていた。戦いはゲームやスポーツではない。

汚き手段、お下劣な戦い方を否定し、綺麗事だけを求めるようでは命の奪い合いに勝てぬ。支配者となるには清濁(せいだく)合わせ飲む度量が必要なのだ」


 さまざまなものを飲んだり、飲ませたりしなければ駄目なのである。


「これからは相手がどのような方法で挑んでこようとも、この魔王はそれを受け入れ、さらに上回る攻撃で相手を追い詰めるだろう」


 壮絶な戦いになりそうである。


「ああ、つまらぬ話をしてしまった。食事も済んだことだし、貴様はこれからスマホと一緒にダンジョンに戻れ」


「ふぁっ!? また行くんスか?」


 周作は魔王を正視せず、視線があちこちに泳いでいる。


「行かなければ怖い目には遭わぬが、進まなければ経験値もダンジョンのお宝も手に入らない」


 逃げたらひとつ、進めばふたつ。


「危ないと思ったら無理せず逃げていい。だが、逃げた時に逃げっぱなしにせず、失敗した原因をしっかり分析し、対応策を講じて再挑戦しろ。それが一番多くのものが手に入る」


 戻って進めば合計みっつ。


「まあゴリ押しできる力があれば、ひとつもみっつも奪えば全部だ。しかし奪うだけでは手に入らぬものもある」


「あるんスか」


「モノは奪える。それを作る技術も、この魔王ならば『スキル簒奪(さんだつ)』で奪いとれる。

しかしそれを創り出すための情熱、技術を理解してさらに発展させていく才能までは手に入らぬ。武器が欲しい時に、武器そのものを奪いに行くのは愚策。それを作れる者や、使いこなせる者を自軍に引き入れ、仲間にするほうが得策なのだ」


「オレっちのようなウンコ野郎でも、引き入れる価値があるんっスか」


 そう問われた魔王は ふむ、と言って顎髭(あごひげ)をなでた。


「実際、貴様はウンコだが」


 うわひどい、否定しないのか魔王。


「ウンコには魔王を倒す力がある」


 実際に倒された者が言っているので説得力がある。


「だがその力は、ケーキ屋の店先では何の役にもたたぬ。ウンコが臭いのはただの特徴であってウンコの罪でも悪でもないが、ケーキのショーケース内では存在しているだけで迷惑だ」


「わ、判ってるっス。ウンコがいくら頑張っても、ケーキにはなれないんっス」


「そうだ。ケーキ屋の店先にいる限り、ウンコは単なる汚物だ。だから違う場所に行かねばならぬ。

うんこミュージアムTOKYOのウンスタジェニック・エリアのように、ウンコがスポットライトを浴びて、光の中で輝く場所にいざなってやろう」


「い、いざなってもらえるんっスか」


 いや信じるな周作。ウンコ界にいざなわれるな周作。たぶん森の中にあるフンコロガシの国に連れていかれて、皆の食い物にされる運命が待っている。


「今は何も考えず、ダンジョンに入り続けろ。そうすれば貴様は必ず成功者になれる」


「わ、わかったっス。行くっス!」


 いかん駄目だ。おいスマホ、ここで止めなければ周作はまずい方向に行ってしまうぞ!


「じゃ、スマホも一緒に行く!」


 ああああああ。


「スマホよ、お前に地図情報と位置確認アプリとオートマッピング機能を入れておいた。行動管理アプリと連動させて使え」


「わかったー!」


「ふえええ、最初からそうしてほしかったっス!!」



(場面転換)############



「やっとダンジョンに行ったか。非魔法で思考誘導するのは面倒だな」


<ですが手間をおかけになられた分、思想教育も順調のようで>


 だが、チワキチの返答を聞いた魔王は難しい顔になった。


「駄目だな」


<は?>


「あの男は家族から見放され、友はおらず、社会との接点も無い。姿を消しても誰も気がつかない。そういう孤立した者を社会から隔離して洗脳していけば、すぐにこの魔王の言いなりになるだろう」


<一日も早くそうなるよう、このチワキチもお手伝いを>


「逆だ」


<逆?>


「それでは、この魔王に指示されなければ何もできない男になってしまう。スマホを自分自身で使いこなす技術を学ばせ、自分の力で社会の中に居場所を見つけ、自分で収入を得ていくよう教育せねばならん」


<自立を(うなが)すのですか>


「そうだ。だがそれを(さと)られるな。しばらくは自由に泳がせておけ。

そして奴の心の支えとなる者を増やし、心を折れにくくしろ。

この魔王の支援だけに依存させるな。スマホから愛情を与え、お前がペットとして癒やしとなり奴に寄り添え。そして」


魔王はくっくっく、と笑ってからつぶやいた。


「社会に組み込まれて、そのまま何も考えずに年老いて死んでいく人生を与えてやるのだ」


おお、なんということだ!

周作のような弱者男性に、社会の荒波の中で自力で生きていけと言うのか!

やはり魔族、人の情はない。


「……む?」


 その時、魔王は何かに気付いた様子になった。


<どうなさいました?>


「屋外に組んだ索敵魔法に、妙な気配を感じる……わが部屋よ、外界の情報を映し出せ」


 部屋の壁がぐねぐねと盛り上がり、大型テレビモニターが生成された。画面に在京テレビ局の各番組が順番に映し出される。


<こ、これは!>


「……映画では……なさそうだな」


 その時、東京ではテレビ東京も含めた、全テレビ局が緊急特番を流していた。


 東京上空に現われた黒く巨大な飛翔物体。のちに「黒船」と呼ばれることになる大型宇宙戦艦の中継映像。


 それは地球人類の想像を超える科学文明を持った異星人が、東京在住の女性達に開脚を要求してきた日であった。


(続く)


<次回予告>


 周作たちは唐揚げを迷宮から持ち帰る。それをつまみにビールで晩酌、続いていくほのぼのとした日常回。その期待が裏切られた時、強大な力の前にすべては滅ぶ。


次回「史上最大の侵略」

更新は明日22時50分。

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