14:黒き追憶
「『巨乳狩りのガーデナー』それがこの魔王に与えられた二つ名だった」
「ふたつな?」
特徴や印象を表わす呼び名のことである。「断頭台のアウラ」とか「借りぐらしのアリエッティ」とか、そういうやつである。
「東に胸が重すぎて肩がこった美しき未亡人がいれば行って全身を揉んでやり、
西に巨乳の女騎士がいれば行ってお前も愛人にならないかと誘い、
南にウブな爆乳娘がいれば行って怖がらなくてもいいと言い、
北に豊かな乳を制服の下に押し込めた美人官僚がいれば行ってプライベートビーチに拉致し悩殺ビキニに着替えさせた」
その目的を実行するために、魔王が作り上げた世界的組織が魔王軍である。
「それに逆らう者を、この魔王は許さなかった。わが求めるものを差し出さぬ国々は容赦なく滅ぼし、焼き尽くした」
勇者が討伐に来るのも当然である。
「そしてある国は、この魔王に忠誠を誓って王妃を差し出してきた」
「おうひ?」
「国王の嫁だ。当時32歳だったが、25歳ぐらいにしか見えない美女でな。この魔王にとってストライクゾーンの体型をしていた」
衝撃の人妻寝取り展開である。
「国王はショックで寝込んだが、そこにあのいまいましい勇者がやってきた」
魔王がいるところ勇者あり。「明太子あるところ白ご飯」のような組み合わせである。
「国王が実質的に不在だった隙に、奴は王女を誘惑して性的に調略した。そして王国を裏から操り、自分の一行を全面的に支援させ、わが城へと攻め入ってきたのだ」
「すいません、お話の途中なんっスけど、王女様もいたんっスか?」
「いた。国王の一人娘で、当時15歳」
「普通は王女のほうを差し出すもんじゃねーんっスか?」
「未熟な小娘は好みではなかった」
いや待て、まだ成長期だ。
目の前の乳しか見えていないとは、貴様のほうが未熟だぞ魔王!
「まあそれで、その王国を本拠地にした、あの女と戦う事になった」
「あの女?」
「だから勇者だ。女勇者エロカワ、当時22歳」
「えーと、勇者って、王女を誘惑したって言わなかったっスか?」
「言った。その理解で正しい」
つまり百合である。性的な。
「そして勇者一行は、この魔王の首を取りに来た」
特殊部隊を使って組織の指導者を殺害し交戦能力を奪う、軍事用語で言う「斬首作戦」である。
「勇者に従うのは、前世の記憶を持つ地球人転生者たちだった。元ドイツ軍の戦士、真言宗の僧侶、金賞受賞の唐揚げ屋」
「いろいろと突っ込みたい部分があるっスけど、最後のは何っスか」
「そう思うだろう。この魔王もそう思った。だが勝敗を分けたのは唐揚げ屋の存在だったのだ」
ごめん、意味がよく判らない。
「専門職は経験や専門知識があるので、極端に的はずれな戦法はとらない。ところが異業種は、当てるとかはずれるとか言う以前に、そもそも的がどういうものなのか判っていない。
まあ、専門外のド素人が考えつくようなアイデアは大抵はすでに誰かが試してみてウケなかった、あるいは技術的に不可能だった場合がほとんどなのだが」
魔王はそこで一息ついて、スマホが淹れた石鎚黒茶を飲んだ。ほのかな酸味がカップ焼きそばと相性が良い。
「ごく希に、的が見えていないからこそ、プロなら狙うはずの無い場所を射て、誰も存在に気がついていなかった的に偶然当ててしまう場合がある。それが素人発想の恐ろしさだ。
そして素人は的の中心に命中させられないが、プロは的があると気付けば狙って打ち抜ける。わずかな実力差が勝敗を決める戦いでは、ド素人のアイデアをガチな技術で具現化した者が勝ち残るのだ」
「で、それと唐揚げにどういう関係が」
「まあ焦らずに聞け。その勇者はビールと唐揚げがあれば無限に戦えた。しかし決め手となったのは唐揚げではない。唐揚げ屋の非常識な行動だ」
魔王は眉をしかめつつ話を続ける。
「わが城はゴーレム部隊と死霊兵団に守られ、玉座の間で待ち受けるのはこの魔王。それに魔王軍の四天王と呼ばれた人獣将軍クルリクラ、不可視の魔女プリキユア、不死王シュタイン」
「四天王が三人しかいないっスけど」
「予言参謀ハッケという者もいたのだが、この魔王の敗北を予言したので城から下がらせた。この魔王は『未来など、この手で変えてみせる!』とイキっていたのだが、結果は奴の予言通りになった。
敗北の後、ハッケが中心となって魔王軍を再結成し、100年の後にわが封印を解くに至った。その間、この魔王の愛人達は奴が守り抜き、迫害や生活苦に逢わせることもなく、みな無事に天寿を全うさせたと聞く」
魔王が復活に至るまでの物語はここでは語らない。最終決戦の結果だけサクサク行く。
「ゴーレム部隊は戦士の徹術魔法弾の掃射で全滅、人獣将軍が戦士と戦ったが相打ちになった」
初戦引き分け。
「死霊兵どもは、悪霊の諸罪を清めて浄土に送る光明真言の詠唱で僧侶にまとめて浄化された。
そして僧侶と死者王が対戦。死者王の体は金剛杵の連撃で物理的に破壊され、首だけになった死者王は『この儂に武術の心得さえあればぁぁ!!』と叫びながら窓の外に蹴り飛ばされていった」
南無阿弥陀仏。いやまて真言宗か、南無大師遍照金剛。魔王軍1敗1引き分け。
「だが勝利に油断した僧侶を、不可視の魔女が仕留めた」
魔王軍1勝1敗1引き分け。ここまで互角である。
「魔女は次に唐揚げ屋を襲ったが、唐揚げ屋は恐怖のあまり脱糞し汚れたズボンを脱いでいた。それを振り回した時に汚物が飛んで魔女が悲鳴をあげ、その声で居場所がバレて女勇者に倒された」
魔王軍1勝2敗1引き分け。
「そして唐揚げ屋をこの魔王が潰したが、奴は死ぬ直前にこの魔王の顔に汚物をぶつけてきた。『ウンコが焼けてヤケクソだー! 必殺ダイレクトアタァァック!!』とか言って」
今時、小学生でもそういう事は言わない。中の人はいつの時代の何歳だ。
ここで2勝2敗1引き分け。勝敗は大将戦に持ち越された。
「この魔王は顔についた汚物を浄化して『このような攻撃は、思いついても普通はやらんぞ』と言った」
魔王は油断して直撃をくらってしまった。物理ダメージは無いが精神的ダメージは大きい。
「その時に女勇者は、はっとした顔になると、下半身を覆っていたものをすべて脱ぎ捨てたのだ」
(続く)
<次回予告>
魔王が語る最終決戦の記憶。エロくて可愛い女勇者22歳は魔王の眼前で、下半身のすべてをさらけ出した! 上半身しか着ていない勇者に読者の需要はあるのか!
「女勇者の禁じられた奥義」
更新は明日21時30分。
ここからどんな戦いが待っているのか。その嫌な予感は、おそらく当たる。