聖女を召喚したら幼馴染で元恋人が来た
ふわっとした設定で書いています
「王女殿下、第二王子殿下が地下の魔法陣を起動させ用としているようです」
侍従の報告に私は顔が青ざめるのを感じた。
「国王陛下はご存知か?」
「いえ、陛下はご存じないかと。側妃殿下はご存知のようです」
なるほど、母上がそそのかしたか。
私はこの国の王女エリザベス。弟で第二王子のリチャードと同じく側妃が母だ。
母は正妃殿下の子の第一王子ヘンリー殿下のことを目の敵としており、事あるごとにリチャードを焚きつけている。それに乗っかるリチャードもリチャードだが。
「あぁぁ、魔法陣が発動してしまったようです」
私達が地下の部屋に飛び込むと、魔法陣の真ん中に女性が一人座りこんでいた。異世界から来たようで、パンツスートを着てローファーとメガネが足元に転がっている。
そして、濃いめの化粧で隠しきれないくらいやつれている。年のころは三十くらいか。
「ちっ、ババアか。貴女は聖女か?」
リチャードの問いに彼女は答えられず黙っている。
そりゃそうだ。異世界から召喚され、聖女か? と聞かれても答えられないだろう。
「答えぬか、おい、何を黙っている」
あぁ、もう、見てられない。
「リチャード、何をしている!」
「姉上、見てください。聖女の召喚に成功し……」
「この方が聖女かどうかは誰が判断する?」
「えっ、この魔法陣で召喚したから聖女だと……」
「もういい、こいつを連れていけ。いいと言うまで部屋から出すな」
「姉上、誰の許可で俺を閉じ込めようと」
「父上、国王陛下に許可を頂いている、さっさと連れていけ」
リチャードは暴れようとしたが国王陛下の近衛の騎士たちの力にはかなわない。そのまま連れていかれた。
「異世界からいらした方、失礼いたしました。私はこの国の王女エリザベスと申します。お名前をお聞きしても?」
しばらく黙っていた彼女は、小さな声で名前を言った。
「キミシママリア……です」
「マリアさまとおっしゃるのですね」
「あっ、名前がマリアで名字がキミシマです」
少し落ち着いたのか私の言葉に補足してくれた。
「貴女は王家のお客人としておもてなしさせていただきます」
「あのぉ、帰ることは……」
必殺、王家の微笑み……はあまりに失礼だね。
「申し訳ございません、帰る方法は」
「そう、疲れたから寝かせてくれないかな。もう、2日も寝てないからくたくたで。家に帰って玄関閉めたらこんなだし」
意外と落ち着いているというより眠くて仕方ないのだろう。この辺りはやっぱり真理愛、変わらないね。
「承知いたしました。少し歩いていただきますが、お客様のお部屋にご案内いたします」
私は前世を覚えている。私は真理愛がいた世界で生まれ若くして死んだ。そしてこの世界に転生した。
私と真理愛は幼馴染でそして恋人だった。お互いに、女同士での恋人なんておかしいって思っていて、そして高校を卒業するときに思い切って告白して、お互いに同じ思いだってわかって。
あのときは幸せだった。なのに、私はすぐに死んでしまった。
真理愛のあの姿は自死を選ばなかったということだろう。それはうれしいけど。
数日後、真理愛が落ち着いたと聞いて私は彼女の部屋を訪ねた。
「お加減はいかがでしょうか?マリア様」
私がそう言うと、微笑んだ真理愛のことばに驚かされた。
「ありがとう、お陰様でゆっくり休めたわ、中野絵里さん」
えっ、私、転生者ってこと言ってないよね。
「失礼いたしました、エリザベス王女殿下。いろいろご配慮いただきありがとうございました。こちらでの礼儀を知らないので失礼に当たるかと思いますが、どうかご容赦を」
「はい、大丈夫ですよ。マリア様、また参りますわ。今度はお庭でお茶をいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。喜んで」
数日後、庭園で二人と、信頼できる侍女一人でお茶会をした。
「はぁ、イロイロ大変ねぇ、お姫様って」
砕けた口調の真理愛。
「仕方ないわ、王女に転生しちゃったんだから」
「そうかぁ。あのね、謝る。貴女以外と結婚しないって言ってたけど、男と結婚しちゃってね。子供まで産んじゃったけど、旦那がマザコンくそ野郎でさ、こっちに召喚されなかったら死んでたわ」
「じゃぁ、お子さんがいるんなら、元の世界に……」
「あぁ、子供もね、姑にとられて私のことをくそばばあって呼ぶような小学生だからね。まぁかわいそうだけど姑が何とかするでしょ。もうたくさん」
どうやら真理愛の結婚生活は散々みたいだ。
「こちらの世界で絵里のそばにずっといたいけど、難しいだろうねぇ。この年だと今から侍女になるのも難しいだろうし」
「あら、それなら大丈夫よ。話し相手とか、相談相手とか。そのくらいは何とかなるわ」
真理愛の目に涙があふれてくる。
「こ、こんどは、ずっと一緒にいられるのね」
「ええ、一緒にいましょ、そばにいてね」
結局、リチャードは勝手に地下の魔法陣を起動させ関係ない人を召喚したということが重く見られて王家から出されることになった。
お母様は病気療養に入られ、その後、薬石効なく亡くなった。我が母ながらあまりに短慮で自分勝手だったから仕方ない。
私は男児を二人産み育て上げ、代替わりしたあとは真理愛と領地に引っ込み二人で暮らした。