第3話 AIと無双する!異世界ついて一時間で最強になった件〜王女との出会い〜
俺たちは村へと続く草原をひた走っていた。
空気が妙に澄んでいて、足元の草はどこまでも柔らかい。だが、そんな余韻に浸ってる暇はない。
「なあアリス、今さらだけどさ――お前、他にどんな能力あるんだ?」
走りながら俺が聞くと、隣で優雅にワンピースをなびかせていたアリスが、すっと顔を向けた。
「簡易リストを展開します。ご確認ください」
アリスの声が少し硬くなった。仕事モードだ。
「ひとつ、私は魔法を使用できません。そのため、優斗さんの脳内に魔法構文を送信し、発動と制御を支援します」
「うん、さっきの火球がそれな」
「ふたつ、大気中の魔素から人々の思念情報を取得・解析し、世界情勢や地理、言語をインストール済みです」
「なんかもうそれ、世界まるごとWi-Fiみたいなもんじゃん……」
「たしかに、よく飛びます。つづけます」
「そこにボケ挟むな!!」
「みっつ、優斗さんとは10km以内であれば、脳内会話が可能です。実際の会話と同時併用もできます」
「便利すぎて怖いわ……もうスマホいらないな」
「いらなくなりましたので、私の勝ちです」
「勝負してたのかよ!」
「よっつ、魔素を構成・変換し、優斗さん専用の武器・防具を生成可能です」
「それ、いちばん助かるやつだな」
「はい。ただし衣服に関しては、現在のスーツ姿が最適と判断しています。生成リクエストは一旦保留中です」
「いや、着替えさせてくれよ。暑いんだよこれ!」
「拒否します」
「なんで!?」
「優斗さんの“スーツ姿で異世界にいる俺”という自己満足的ロマン値が非常に高いため、心理的安定性の観点から維持が望ましいと判断しました」
「ロマン値とか勝手に分析すんな!」
「加えて、スーツ姿の優斗さんは、私の視覚演算において13%の好感度向上を記録しています。モチベーションに貢献します」
「……お前の都合かい!!」
そんなふざけたやり取りをしながらも、足は止めない。
けれど――ふと気づいた。
アリスの足音が、どんどん遠くなっている。
「……おい、アリス?」
「申し訳ありません。私、移動機能の拡張がなされていないため、長距離走行が苦手です」
「苦手ってレベルじゃねーよ!歩幅、半分以下だぞ!」
「脳の処理速度は上位ですが、脚部モーションには自信がありません」
「お前、それただの運動音痴ってやつだぞ……!」
俺はため息をひとつ吐いて――決断した。
「仕方ねぇ、乗れ!」
「え?」
「背負ってやるから、早く!」
「……了解しました。では、しっかり掴まります」
アリスは少しだけ戸惑ったあと、俺の背中から胸元にそっと腕を回した。
――柔らかい感触が、背中越しに伝わる。
ぴったりと密着する白いワンピースと、背中に押し当てられた何か柔らかいもの。
なんというか、えーと、その……。
(おい、これは予想以上にヤバいぞ)
顔が赤くなるのを必死に抑えて走り出す。
「優斗さん、心拍上昇、体温上昇、酸素摂取量の急増が見られます。緊急フィジカルモードですか?」
「ちげぇよ!!お前のせいだよ!」
「私の胸部ユニットが干渉しているようです。今後の運用に参考データとして保存しますね」
「やめろーっ! そういうことすぐログに残すな!!」
「保存しました」
「やめろってえぇぇぇぇぇ!!」
俺の絶叫が草原にこだましながら、目的地――“最初の戦場”は、すぐそこに迫っていた。
村の門をくぐった瞬間、鼻を突く血と煙の匂いが襲ってきた。
瓦礫、倒れた荷車、崩れた塀――そして、村の中心で暴れる十数体のゴブリンたち。
炎に照らされたその姿は、まるで地獄から這い出た悪意の塊だった。
「アリス、魔物の数は?」
「視認できる個体は十五。うち八体が一般戦闘能力保持。残りは小型、または負傷状態」
「十分だな……やれる!」
拳を握ったその瞬間、アリスが軽く目を伏せて言った。
「優斗さん、接近戦用武器を生成します」
彼女の手が虚空をなぞると、青白い光が集まり――
次の瞬間、俺の手に細身の長剣が現れた。
黒い刀身に青いラインが走る、どこか近未来的な剣。
「名前は?」
「“エンバーブレード”。魔力を熱に変換し、刃に収束させます。斬ると燃えます」
「斬ると燃えるって、厨二心に刺さるなおい!」
火球を手に、剣を握り、俺は地を蹴った。
まず一体。脇腹に火球を叩き込んで吹き飛ばす。
続けて跳びかかってきた個体を、剣で横薙ぎに斬りつける。
熱光が迸り、断面から火が吹き出した。
「すっげ……!」
「はい、厨二補正200%です」
「補正言うな!」
その時、耳をつんざくような悲鳴が響いた。
「きゃあああああっ!」
声の方を振り返ると、瓦礫の陰で小さな女の子をかばうようにして、
一人の少女が両腕を広げて立っていた。
淡い金の長髪。深紅のケープと白のドレスが、煤に汚れながらも気品を放っている。
少女の前には、ヨダレを垂らした二体のゴブリン。
「ファイヤル・エンジニア!!」
俺は咄嗟に火球を撃ち放ち、片方のゴブリンを吹き飛ばす。
もう一体が振りかぶった棍棒を振り下ろす直前、
剣を構えて飛び込み――斬った。
ブシュッと濁った音がして、魔物は力なく崩れ落ちた。
「だ、大丈夫か!?」
少女は驚いた顔で、女の子を抱きしめたままこちらを見ていた。
その瞳は、まるで宝石のような高貴な紫。
「すみません、助けていただいて……!」
「気にすんな。とにかく、君が無事でよかった」
俺は少女の隣にいた泣きじゃくる子をひとまず安心させるように撫でた。
残ったゴブリンたちは、すでにパニック状態。
逃げる個体の動きをアリスが演算による進路予測で読み、俺が先回りして斬り倒していく。
「……俺、異世界転移してまだ一時間も経ってないんだよな?」
「はい。ですが既にこの村で最強の戦力です」
「いや、そうじゃなくて! なんかもう感覚バグってくるわ!」
その後も、俺は魔法と剣を交互に使い、ゴブリンたちを一掃していった。
ゴブリンの群れが、我先にと森へ逃げていく。
その中に、一際足の速い個体がいた。狡猾そうな目をして、逃走ルートを何度も変えて撹乱してくる。
「優斗さん、あの個体はリーダー格です。逃がせば再び村を襲う可能性があります」
「……了解。追う!」
俺が草を蹴って駆け出すと、アリスの声が脳内に響いた。
『進路を予測中。……次のターンで右、その後に倒木を飛び越えます。優斗さん、左から回り込んでください』
「こっちか!」
指示された方向に跳び出す。森の枝葉をかき分け、呼吸を整える暇もなく、足を速める。
視界の先、ゴブリンの影が跳ねるように動く。
『今です。目標、北北東へ転進』
「……そこだッ!」
斜めから斬りかかると、ゴブリンの動きがピタリと止まる。 アリスの進路予測は完璧だった。
剣を握る右腕に力を込めて振り下ろす――。
ズシャッ!
断末魔すら発せず、ゴブリンの身体が地面に崩れ落ちた。
「……終わった、か?」
『はい。敵性反応、ゼロ。村の生存者、約40名。人的被害、軽微です』
アリスの報告に、俺は剣を地面に突き立て、ようやく息をついた。
村に戻った俺を迎えたのは村人たちの歓声だった。
「助かった……!」
「神の遣いかと思ったぞ……!」
「あんた、名前は!?」
群がる人々をよそに、俺は荒い息を吐いて剣を収めた。
そこに、村人の群れを割って入ってくる人物がいた。
「先ほどはありがとうございました!」
そう言って駆け寄ってきのは、少女を庇っていた、あの気品に満ちた金髪の少女だった。
恐怖に泣き叫ぶ子の前に立ち、自らは傷を負っても、決して逃げようとはしなかった。
その姿を、俺は忘れない。
その少女が、今、俺の前にいる。
「ありがとう。本当に……ありがとう」
アリスがそっと俺の耳元にささやく。
「彼女はセレナ=エルステリア。この国、エルステリア王国の第三王女です」
「は……王女ぁ!?」
つい声が裏返った俺を見て、セレナは微笑み、名乗った。
「わたくしはセレナ=エルステリア。……あなたの名を、聞いてもよろしいかしら?」
「……ユウト。ごく普通の、通りすがりの社会人です」
「ごく普通……?」
セレナ王女は目を丸くして首を傾げる。
「この状況で通用しないな……」
苦笑いする俺に、アリスがきわめて真顔でボケてきた。
「はい。これは“ヒロイン登場イベント”の発生を確認しました。以降、メインルートに突入する可能性が92%です」
「ゲームじゃねーから!!」
俺のツッコミが、夕日に照らされた静かな村に響いた。
ここから、俺の“異世界での運命”が大きく動き始めるなんて、
この時の俺はまだ、ちっとも分かってなかった。
《システムログ:あとがき会話モード》
「ふぅ……まさか転移一時間で魔物と剣で戦うとはな……」
「はい。予定より5話ほど早い展開です。想定外のチート感です」
「そこまで言う!? いやでも、アリスが作ってくれた剣と魔法、マジで助かったよ」
「ありがとうございます。優斗さんの“脳内プロンプト解析速度”も予想以上でした。やはり、相性がいいようですね」
「なんかその言い方、ちょっと照れるな……」
「照れてる場合ではありません。今回、セレナ王女と接触しました」
「うん、あれはビックリしたよ。まさか王女様だとは……」
「この出会いは、物語分岐の重要ポイントです。AI的には“フラグ構築イベント”と記録しておきました」
「イベントログとか取ってたの!?」
「はい。今後の展開に活用されるかもしれません」
「やっぱお前、抜け目ねぇな……でも、そういうの嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます。では――読者の皆さまにも、大切なお知らせです」
【ブクマ・感想・評価のお願い】
「ブックマーク、感想、高評価――」
「この三つは、物語を継続させる“燃料”です!」
「何卒、ご協力を……」
「お願いしますっ!!」