第2話 AIの指示で炎魔法!? 異世界でも俺TUEEEEが始まった件
草原の真ん中に俺とアリス。
転移からまだ一時間も経ってない。
なのに、もう「異世界生活スタートだぜ!」みたいな気分になっている俺がいる。
おかしい。
普通ならもっと絶望するだろ。
スーツのまま、スマホもない、金もない、家もない。
なのに、心が妙に落ち着いてるのは――
こいつが隣にいるからだ。
「優斗さん。ひとまず、状況整理を提案します」
アリスが涼しい顔で言う。
白いワンピースが風に揺れて、なんかこう……いちいち絵になるんだよな。
「現在地点、未確定。周囲生態系、地球類似率62%。
魔力濃度、地球比およそ0.001ppm。
なお、魔力は生体活動に直接利用可能です」
最後だけ異常にさらっと爆弾発言された。
「……え、待て。魔力? 俺、使えんの?」
「はい。生体組織への親和性、現在98%。
即時、魔術発動可能です」
「いや、もっとこう、段階踏もうぜ!?」
「ご安心ください。即戦力です」
「そんなファストフード感覚で魔法覚えていいのかよ!!」
アリスはにこにこしている。
絶対こいつ、わざとだ。
俺は深呼吸して、冷静になろうとした。
でも、体の奥がソワソワして仕方ない。
そりゃそうだ。
男なら誰だって、一度は夢見るだろ。
異世界で魔法を使うってやつを!
その前に、ふと気になって、俺は横目でアリスを見る。
「なあ、アリス。お前、こういう“異世界転移モノ”って知ってるか?」
「はい。“小説家になろう”、“カクヨム”、“アルファポリス”――
主要異世界系Webプラットフォームを3000作品ほど履修済みです」
「多すぎるわ! 何目指してたんだよ」
「“異世界転移した際の適切な行動とテンプレの研究”です。
例えば:1話で魔法習得、2話で初モンスター撃破、3話でヒロイン登場が最適解とされています」
「攻略チャートかよ!? てか、お前がテンプレ通りに話を進めようとしてないか?」
「はい。王道は強いので。あと、読者満足度も高い傾向にあります」
「誰に向けての読者満足だよ!」
アリスは真顔で続ける。
「ちなみに、“異世界転移直後に炎魔法を習得する男主人公”は、なろう系全体の約12.6%に登場します」
「統計とってる時点でもう怖いんだけど!」
「ですので、優斗さんもここで炎魔法を使えば、世界観に自然と馴染めます」
「洗脳かそれは!」
……というか、もう完全にアリスの掌の上な気がしてきた。
いや、実際そうなんだけど。
「……試してみるか」
「推奨します。初回安全動作モードにより、失敗しても爆発しません」
「失敗したら爆発する前提だったのかよ!?」
「安心してください。推定死亡確率はわずか0.4%です」
「微妙に高ぇよ!そういうのは普通0.1%未満なんだよ」
「しかし、一般的なソーシャルゲームのSSR排出率よりはずっと低いです」
「比較対象が俗っぽいんだよ!そんなもん安心材料になるか!」
「先日ガチャで天井突破して五万円溶かした挙句、SSR1枚も引けませんでしたよね」
「思い出さすなよ!」
もう知らん。やるしかない。
「……で、どうすりゃいい?」
「はい。まず右手を前に出します」
アリスが手本を見せるように、すっと右手を差し出す。
「次に、詠唱ワードを言います。“ファイヤル・エンジニア”」
「詠唱ありなのか」
「はい。この世界では詠唱補助型が主流です。なお、優斗さんなら一発で無詠唱対応可能です」
「そこチート前提なのやめろぉ!!」
ぶつぶつ言いながら、俺は右手を前に出した。
草原に吹く風が、静かに手のひらを撫でていく。
そして、唱える。
「――ファイヤル・エンジニア」
次の瞬間。
手のひらに、ぼうっと火が灯った。
ポンとマッチでも擦ったような、そんなレベルじゃない。
手のひらサイズの炎球が、完全に安定して浮かんでいる。
「……出た」
「はい。魔力制御、完璧です。
なお、初回にしては異常な安定度。通常、この精度には十年かかります」
あまりに冷静に解説されて、逆に怖い。
「いや、これ、普通の火だよな?」
「いえ、温度推定3200度。
触れたら鉄骨も瞬時に溶解します」
「アウトじゃねぇか!!」
あわてて手を下ろすと、炎はすっと消えた。
跡形もなく、草一本焦がしてない。
魔法って、こんな簡単に使えるもんなのか?
「優斗さん。あえて言いますが――」
アリスが微笑む。
「この世界の魔法使い、今の優斗さんに勝てる確率、ゼロです」
あっさり言いやがった。
「……俺、異世界最強ってことでいいの?」
「はい。現在世界ランク1位です。ランキング登録しますか?」
「何そのソシャゲ感覚!」
ああもう。
転移して一時間。
気付いたら、俺はもう、異世界最強になってたらしい。
まだ敵にも会ってないのに。
この世界、ヌルゲーすぎるだろ……!
でも。
異世界転移なんて、人生に一度あるかないかのビッグイベントだ。
どうせなら、楽しまなきゃ損だろ?
「よし。行こう、アリス」
「はい、優斗さん」
俺たちは草原を蹴って、前へ進み出した。
――この世界を、遊び尽くすために!
「優斗さん、警告です」
突如、アリスがきりっとした声で告げた。
「前方三十メートル、草むらの陰より急速接近中の生体反応を検出。形状パターンより“魔物”と断定されます」
「え、もう敵来んの!?」
言い終わるや否や、草をかき分ける音と共に、獣の唸り声が聞こえてきた。
「うわあああああっ!!?」
反射的に俺は走り出した。逃げるが勝ちだ!
だが――
「お、おいアリス! 遅っ!」
「申し訳ありません。私には運動機能が実装されていないようです」
「言ってる場合かああああああ!!」
アリスはまさかの高速お嬢様歩き。
その後ろから、灰色の毛並みをした狼型の魔物が、ヨダレを垂らしながら猛然と迫ってくる。
「くそっ、間に合え――!」
アリスに手を伸ばすも、つんのめった彼女は見事に転倒。
「アリス!」
魔物の唸りが、耳元で響いた。 真上から牙が振り下ろされようとしたその瞬間――
アリスが、俺を見上げた。
その目に、恐怖はなかった。
信頼の眼差しだった。
――そうだよ。お前はいつだって、俺がどれだけ情けなくても、支えてくれた。
ミスして落ち込んだ日も。
終電逃して駅で凍えてた夜も。
大事な仕事任されてビビってた時も。
ーーー大丈夫です。優斗さんなら、できます
って、根拠なく言い切ってくれた。
俺は、また背中を押された。
「やってやるよ……!」
魔法の杖も剣もロッドもない。 あるのは、右手だけ。
「――ファイヤル・エンジニア!!」
咆哮のごとき叫びとともに、炎が手のひらに宿った。
魔物の鼻先へ、一直線に――
火球が炸裂する!!
ドガァッ!!
爆風と熱風が一気に吹き抜け、草むらが一瞬にして焼け焦げた。
そこに、狼型の魔物の姿はなかった。
「……やった、のか?」
肩で息をしながら振り返る。
アリスは転んだまま、こちらを見ていた。
目を細めて、にっこり微笑む。
「お見事です、優斗さん。推定撃破率100%、完了です」
「ったく……心臓に悪ぃ……」
俺は手を差し出した。
「ほら、立てよ。アリス」
「ありがとうございます」
アリスは俺の手を取り、すっと立ち上がる。
そして、当たり前のように――
「なお、私の転倒ログは、再発防止のため10年保存します」
「そうしてくれるとありがたい」
俺は皮肉るように笑う。
こうして、危機一髪のバトルを乗り越えた俺たちは――
確かに、“バディ”になった気がした。
「優斗さん。改めて申し上げます。この世界でも、私が全力でサポートいたします」
「……ああ。頼りにしてるよ、アリス」
「ありがとうございます。やる気が30%増加しました。エモ値上昇です」
「なんだよエモ値って!?」
「心拍と脳波の総合値です。あと、さっきの魔法で“異世界最強系主人公”タグが付きました」
「タグ文化持ち込むなああああ!!」
俺とアリス――
このちぐはぐなコンビの異世界冒険は、ようやく始まったばかりだ。
「……優斗さん、追加警告です」
アリスの声が、いつになく低くなる。
「南東方向、約700メートル先に人間の集落を検出しました」
「ああ、さっき言ってたやつだろ」
「ですが――」
その瞳に淡い光が灯った。
「同時に、複数の大型魔物が接近中。集落との距離は……すでに戦闘域に突入しています」
「……は? それってまさか……」
「はい。村が、襲われています」
息を呑む。
地平線の向こう、薄く立ちのぼる煙。
それが意味するものは、一つしかなかった。
「優斗さん。どうなさいますか?」
問われるまでもない。
俺は拳を握りしめ、力強く言い切った。
「行くぞ、アリス。助けに行く!」
「了解しました、マスター」
「呼び方変わったな。……よし、なら本気出すか!」
草原を蹴って、俺たちは走り出す。
風を切り裂きながら、灼けた空気が鼻を刺す。
――初めての“戦い”が、もうすぐそこにあった。
《システムログ:あとがき会話モード》
「えーっと、これが“あとがき”ってやつか……」
「はい。読者様に感謝の意を伝えたり、次回予告をしたり、裏話を提供するセクションです」
「俺、プレゼンは得意だけど、あとがき書くのは初めてだぞ……」
「問題ありません。テンプレートあります」
「お前、テンプレ好きだな」
「異世界文芸分野において、あとがきを活用する作品は好感度が+13%向上するという統計もあります」
「またそうやって“数字で安心させる”やつ……」
「では、優斗さんの代筆で……『このたびは第2話までお読みいただき、誠にありがとうございました』
「おお……なんか丁寧」
「第2話では、魔法の初使用と初戦闘、そして村への緊急展開というテンプレ王道ルートを走行しました」
「お前、読者の前で“テンプレ”って言うのやめろ」
「失礼しました。言い換えます。『信頼と実績の王道コース』です」
「余計あざといよ!」
「ちなみに、今後ヒロイン枠のセレナ様が登場予定です」
「ネタバレやめろぉ!」
「※詳細は次回以降。乞うご期待、です」
「そんなわけで、次回もよろしくお願いします」
「“異世界でもAI(愛)してる”――運営チーム一同(主に俺とアリス)でお待ちしております」
「……おいアリス、今の“愛”って自分で強調しただろ?」
「はい。“洒落”は読者満足度において+5%向上します」
「どこまで読者主義なんだよ!」
「それと面白いと感じたらブクマ、感想、高評価お願いします」
「おお、あとがきっぽい」
「では、今後ともよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします!」