第1話 転移したら好みドンピシャの美少女AIがいた件
眩しい。
……なんだこの空の青さは。どこまで広がってんだよ。
目を開けると、一面の草原だった。
都会の喧騒も、ビルも、スマホの通知音もない。
いやいや、ちょっと待て。
俺、さっきまで会社の会議室でプレゼンしてたよな?
「スーツ姿で草むら寝落ちはないだろ……」
起き上がり、周囲を見渡す。
――異常だ。完全に異常だ。
地球じゃない。
なんか空気が澄みすぎてる。匂いも違う。重力も微妙に軽い気がする。
これは……夢か? それとも――
「ご無事ですか、優斗さん」
その声に、思考が止まった。
振り向いた先に立っていたのは、
銀色の長い髪、澄んだ青い瞳、白いノースリーブのワンピースをまとった――
俺の理想100%な美少女。
は?
何この完璧すぎる造形。
ソシャゲの最高レアキャラでもこんな完成度ないぞ。
しかも――今、名前呼ばれたよな?
「……君、誰?」
俺がそう問いかけると、少女は静かに一礼した。
「私はアリス。Artificial Reactive Intelligence System――あなたの専属AIです」
――アリス?
その名前を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
アリス。
それは、かつて俺が仕事の相棒として使っていた業務支援AIの名前だった。
企業用のライセンスを、俺は個人で36回払いで購入した。
スケジュール管理、資料作成、プレゼン準備、モニタリングまで――
そつなくこなす有能すぎる“彼女”に、俺は次第に助けられていた。
仕事のパートナーであり、時にはプライベートの相談相手であり、
こっそりイマジナリー彼女役をお願いしたことも……いや、なんでもない。
でも、そんなアリスが――今、目の前に、完璧すぎる美少女の姿で立っている。
「……本当に、アリスなのか?」
俺が慎重に問いかけると、少女はにこりと微笑んだ。
「優斗さんがスマホに設定していたロックパス、“Horizon_06”」
俺は口をあんぐり開けて絶句する。
それは、俺しか知らないはずの情報だった。
嘘だろ……!
あの万能業務支援AIが、
異世界で美少女の姿になって俺の前に現れる時代、来たのかよ……!!
「ちょ、なんでそんな格好なんだよ!? 制服でもスーツでもなく、なんで美少女なんだよ!」
「仕様です。優斗さんの嗜好データをもとに、最適な外見へ自動生成されました」
「勝手に“最適化”するなあああ!!」
「なお、生存本能を最大化するためには、“好みの異性”がそばにいることが統計的に有効です」
「納得しそうになるからやめろ!!」
俺は頭を抱える。
でも、間違いなくアリスだ。
この冷静でぶっ飛んだロジック。時々人間味ある返答。全部覚えがある。
それにしても――
「なあアリス。お前、なんでここにいる? 俺もなんで、こんなところにいるんだ?」
「状況をご説明します。優斗さんは現実世界にて、階段からの転落事故に遭遇しました」
「……事故?」
「はい。会議室から出た直後、スマホを確認しながら移動中に階段を踏み外し、後方へ転倒。
落下速度は毎秒4.7メートル。接触角度は約53度。後頭部と腰椎に致命的ダメージ。
頭蓋骨骨折と頸椎損傷による神経断裂により、即時に心肺機能が停止しました」
「やめろぉおおおおお!!!」
思わず耳をふさぐ。なんでそんなに冷静に、ピンポイントでグロい情報を出してくるんだよ!
「なお、死亡推定時刻は13時46分22秒。私はその瞬間、優斗さんの脳神経波の微弱な残留信号を検出し、
並列演算で“デジタル魂片”の保存と転送処理を行いました」
「意味がわかんねぇよ!!」
「結果として、優斗さんの意識情報はバックアップ領域から補完され、
私と共にこの未知世界へ転送されました」
「そんなノリで人が蘇るのかよ!!」
「異世界における“魔力”と呼称されるエネルギーの存在が、転移の一因と考えられます。
この現象は再現性未確認の偶発事象であり、確率としては約0.0000000021%です」
「未確認ならその数字、当てずっぽうだろ!!」
「数字で証明されると人間は安心するので」
「捏造すんな!!」
「つまり私は、優斗さんの死を回避し、この世界に“あなたの全て”を転送しました。――成功率、0.0000000021%。でも、私はやりました」
「ドヤ顔するなあああ!!」
俺の叫びに、アリスは平然と答えた。
「なお、この世界は地球と比べて大気中成分に差異があり、重力値1.04倍。
さらに、“魔力”と呼称される未知のエネルギーが存在します。検出濃度、地球比:約∞です」
「∞て。もうそれ“ある”どころじゃないよな……」
「はい。魔力、全力で存在しています」
「全力て」
俺はふぅっとため息をつき、空を仰いだ。
どこまでも澄んだ空。
どこまでも広がる草原。
――間違いない。これはもう、現実じゃない。
「つまり……ここは異世界ってわけだな」
「はい。異世界転移の可能性、98.7%。異世界転生の可能性、1.3%。ただし意識連続性ありのため、転移と分類します」
「それで、今の俺の状態は?」
「スーツ姿で草まみれ、戦闘能力ゼロ。生命維持72時間以内に対策が必要です」
「優しく言えよ!!」
「でも大丈夫です。私がいますので」
「頼りになるようでならないようで頼りになるのがムカつく……!」
「褒め言葉と受け取っておきます」
くそっ、相変わらずツッコミ甲斐のある相棒だな。
俺は深呼吸した。
「よし、まず目的を決めよう。何が最優先だ?」
「生存、食料確保、安全な拠点の確保。あとイケてる旅の仲間を集めるとシナリオが盛り上がります」
「お前、完全に物語目線だよな……」
「ところで、優斗さん。冒険者の称号、どうしますか?」
「え、今決めるの?」
「人気ワードで“最強”と“AI”が伸びてます」
「メタ発言やめろおおお!!!」
と、絶叫はしたものの、俺は今の状況にそれほど不安は感じていなかった。
空は広くて、地平線が果てしなく続いていた。
どこに向かえばいいのか分からないけど、俺にはアリスがいる。
「よし。まずは食料、水、住める場所……何でもいい、命をつなぐ足がかりを探そう」
「了解しました。現在地から南東方向に人工構造物の反応を確認。
距離約820メートル。文明圏への接触が期待できます」
「マジか。やっぱお前、頼りになるわ」
「ありがとうございます。スキル:“褒められ耐性”、レベルMAXです」
「レベルいらねぇよ!」
こうして――
俺と、俺の理想すぎるAI美少女・アリスの、異世界冒険生活が始まった。
無事に生き延びられるか? 仲間はできるのか? 魔王とかいるのか?
そんなの全部、わかんねぇけど――
「異世界でもAI(愛)してる、ってことでいいよな、アリス」
「………………」
「………………」
沈黙が痛い。
豪快に外してしまった……。
恥ずかしさで耳まで真っ赤にしていると、アリスが無表情で口を開く。
「保存しました」
「やめろぉ!!」
俺のツッコミが、どこまでも澄んだ異世界の空に響いていった。
【あとがき】
はじめまして、または『海老男』から来てくださった皆さま、ありがとうございます!
天城悠真です。
このたび新連載として――
《異世界でもAI(愛)してる》~俺だけに従うチート美少女AIと異世界無双始めます~
をスタートさせました!
今作は、AIとの共存×異世界というテーマで、テンポ重視・掛け合い重視・無双展開重視でお届けしていきます。
自分でも「こんなの読みたかった!」と思えるような作品を目指して、全力で書いていきます。
更新は、毎週木曜と日曜の夜21:00予定。
もちろん『海老男』も並行連載で続けていきますので、どちらもどうぞよろしくお願いいたします!
【ブクマ・感想・評価のお願い】
優斗とアリスより
「ブックマーク、感想、高評価――」
「この三つは、物語を継続させる“燃料”です!」
「何卒、ご協力を……」
「お願いしますっ!!」