Episode 6
健康診断を終え、一同はアジトの中にそれぞれ集まっていた。
そんな中、放送で鈴音の声が響き渡った。
「一同、集まれー!作戦会議するから会議室に集まってね!」
彰仁はもう準備出来たのか、早いな…とぼやきながら会議室に向かった。
他の面々はそれぞれ廊下を歩いて向かった。
会議室の扉を開けると、何やら得意気な顔をしている鈴音が待っていた。
それを見て彰仁はやれやれ、と言いつつ口を開いた。
「自信満々な顔しやがって…まずは何の話すんだ?」
「私が見つけた有力情報のコーナーだよ!聞きたいよね?」
「番組の収録じゃねぇんだよ。そんで、どうなんだ?」
彰仁がいつものぶっきら棒な調子で聞くと、鈴音は答えた。
「まずは龍神ファミリー構成員の数、そもそも正式なメンバーは…
ファミリーのボスである深淵なる闇だけなの。
どういう事か説明するとね、半グレとか野良のマフィアが居るでしょ?
それらを従えて悪事を働いてるって事。恐らく…薬で釣って、従わせてるんだと思う。」
「鉄砲玉って事だな。」
「そうそう、人件費も安く済むからって事でね。」
鈴音と彰仁が会話していると、乃蒼が納得したかの様な表情で言った。
「だから、ファミリーの情報がその深淵なる闇と言う男しか出てこなかったのね。」
「ああ…そもそも、随分と悪趣味な名前だけどよ。俺だったらもっと格好良い名前にするぜ。」
「例えば何かしら?」
「ルシフェルとか。」
彰仁がそう言うと、真尋が堪えきれなくなったのか噴き出してしまった。
それを見て不満気な様子である。
「おい…何がおかしいんだ?」
「いくら何でもそれはないだろう、君。堕天使を名乗るとかなかなかヤバい奴じゃないか。」
「うるせぇよ、アザゼルの方が良かったか?」
「変わらないだろ。」
「話、戻した方が良いわよ。」
乃蒼が見かねて彰仁に言った。
真尋が相変わらず笑っていると、彰仁は溜息をつきつつ話を続けた。
「だけどよ、たった1人でそこら辺のチンピラ共を従えたってのか?
一体どんな力を使ったんだか見当が付かねぇぜ。」
「ねぇ、私って何代目か分かる?あっちゃん…。」
「あ?いきなりだな、…2代目だろ?」
「せいかーい。まぁ、私はそれが言いたい訳じゃ無いんだけどさ。
両親の代に在籍してたって言ったの、覚えてる?
実績も名前もその時に上げるだけ上げて…裏切った流れになるよ。」
鈴音が話している中、怒りと悲しみで手が震えているのを彰仁は見逃さなかった。
「それなら納得が行く。」
「でしょー?徹夜して調べたんだからね。」
「流石はボス…って寝ろよ。真尋から言われてるだろ、薬を飲んで寝ないと安定しないって。」
「だって、私達の夢を実現させるためだもん…ボスの私が頑張らないとね。」
鈴音がそう言うと、彰仁から何やってんだか…と言う声が聞こえたが、当の本人は気にしていない様子。
真尋は全くだよ、と彰仁に同意した。
「頑張るのは結構だが、心配してるウチらの立場ってのを少しは考えて貰いたいねぇ…ボス。」
「あはは…善処しまーす…。」
頼むよ、と真尋が言うと、鈴音がはーい、と返事した。
彰仁は話の続きが気になる様子で、怪訝な顔をしつつ訊ねた。
「そんで…龍神ファミリーの正式なメンバーは深淵なる闇って野郎だって事は解ったぜ。
他のスナイパーとかそう言うのは、集めた鉄砲玉で賄ってるってこった。
で、龍神ファミリーの他に凶悪な敵がいる…ってどういう事だ?」
「それはね、花園ファミリーって言うの。龍神ファミリーに忠誠を誓ってる、
もしくは同盟を組んでるファミリーの中で一番最強だって言われてるんだよ。」
「ほう…まさか、龍神ファミリーみたくワンマンでやってんのか?」
「流石に違うよ。アジトに行った事あるんだけど…普通に皆同じ様に制服着てたからね。」
サラッと恐ろしい事を言った気がする、彰仁はそう思った。
「行ったことあるって、どうやって行ったんだよ。」
「車で行ったよ。キミの車の横にあったでしょ、私のが。」
「そう言えばあったな…ってお前、いつの間に出掛けてたんだよ!?」
「健康診断してる時?」
鈴音がそう答えると、彰仁は嘘だろ…と呟いた。
いつの間に行って帰って来たのか…瞬間移動でもしたのかと思うくらいの早さだった。
「で、どんなアジトだったんだ?」
「凄く質素だった。普通の民家と変わらない見た目だったね。」
彰仁は気になるのか、更に質問をした。
「見張りとか居なかったのか?」
「居たけど、居眠りしてたね。舐め腐ってたんじゃないかな?」
「へぇ…そりゃ随分余裕ぶちかましてんな。で…場所は?すぐに帰って来れた位だから、近いんだろ?」
「車で5分くらいかな。近くにコンビニがあるよ。」
そりゃ近いな…と彰仁がつぶやいた。
鈴音は更に言った。
「つまり、私達に奇襲を仕掛けようと思えばいつでも仕掛けられる様な所にいるの。
模擬戦とかした方が良いかもしれないね。」
「そうだな…スズとのエキシビションマッチにでもするか?」
「それじゃ勝てないよ!」
香恋が反対の声を挙げた。彰仁は流石に冗談だ、と訂正した。
鈴音が苦笑していた。
そして、彰仁が会議室を見回すと、寝ている金髪の頭が見えている。
呆れた様な顔をして寝ている彼の頭を小突いた。
「いたっ…おはよう、アッキー。」
寝ていたのは理央だった。会議中はよくサボっている常習犯である。
「もう何回起こしたか数えてないんだけどよ…お前さ、やる気あんの?
無いんだったら出てってくんねぇか?こうやって起こすのも時間の無駄なんだよ。
「でも、参加しなかったら勝手に俺の役割とか決められるかもしれないじゃん。」
「はぁ…寝てばっかり遊んでばっかりのお前が言う事じゃねぇだろ。
そこは心配すんな、なるべく配慮はしてやるからよ。スズの優しさに感謝しやがれ。」
彰仁が皮肉を交えてそう言うと、理央は軽い調子でごめんと謝っていた。
その様子を見ながら乃蒼は冷ややかな目をして言った。
「私がボスだったら容赦なくクビよ。全く…呆れるわね。」
「相変わらずああなんだよ。能力は確かだから切るにも切れねぇんだ。」
彰仁は溜息を尽きながら言うと、乃蒼が鈴音に聞いた。
「そう言えば、花園ファミリーの情報、他にも有力な情報は無かったかしら?」
「えーっと…ボスの名前がね…ヴォルフガングとか言ったかな。」
「横文字なのね…それ、何処で見つけたの?」
「何か、近くで歩いてる人が言ってたねぇ。多分、あれは…花園ファミリーの構成員、だっただろうなぁ。」
鈴音がそう答えると、航も口を開いた。
「花園ファミリーも警戒対象だね。調べなきゃいけない事が増えたな…ああ、忙しい。」
航もそう言うと、鈴音が作戦の事話しても良いよね、と聞いた。
彰仁は続けてくれ、と言った。
「それで…花園ファミリーも強敵になりそうだから、戦闘面を強化しなきゃいけないんだけど…
まず、外で戦うのが香恋ちゃん、テツくん、友介くんと映子ちゃん、元太くんの5人。
建物の中があっちゃん、理央くん、千夜ちゃん、遥香ちゃんの4人で行こうと思うんだけど、どうかな?」
鈴音がそう内容を説明すると、哲弥が言った。
「良いんだけど、香恋が迎撃しきれない時もあるだろ?逆もあるし。そうなったら俺達で動いて良いか?
助っ人は多い方が良いし。」
哲弥の提案に対して鈴音は確かにそれはそうだよね、と言った。
そんな中、航が口を挟んで来た。
「待ってくれ、哲弥。ボスが何処を担当するかによって変わるんじゃないのかい?
僕と乃蒼は司令室から動けないし、真尋はサポート専門だから人数も限られる。」
「それはそうだな…スズ、体調は大丈夫か?」
「うん、ここ最近は絶好調だよ!」
鈴音は眩しい笑顔でそう答えた。
彰仁はお前のそういう顔、久しぶりに見たな…とぼやいていた。
「それなら何とかなりそうだ。無理だったらその時は航にでも相談しような。」
「ああ、いつでも大丈夫だよ。」
航は穏やかな表情を崩さずにそう言った。
それを見て鈴音が安心した様子だった。
そして彰仁に確認を求めた。
「あっちゃん、大まかだけどこれで良いかな?」
「良いんじゃねぇの…?ただ、更に言うと担当する領域も決めた方が良いぜ。
俺が建物の中で敵を殲滅って事なら、香恋と一緒に迎撃の方に行ったら良いかもな。」
「アタシからもそうさせて貰えると助かるなぁ。この前みたいに多かったらヤバいじゃん?」
香恋がね、お願いと言う風に頼み込むと、鈴音は苦笑しながら快諾した。
「良いよー。私もイマイチ暴れられてなかったしねぇ。
紅蓮の舞姫なんて大層な二つ名付けられちゃってるから、実力を見せつけてやりたいし。」
「助かるよホント…当日は一緒に頑張ろ、ボス。」
「香恋ちゃん、よろしくねー。」
彰仁が辺りを見回して言った。
「誰か決まってねぇ奴はいないか?」
一同は大丈夫と返事した。
すると、鈴音が会議の締めで挨拶をした。
「それじゃあ終わるね。…各自、来る戦いに備えるように!」
「仰せのままに!」
こうして作戦会議は終わりを告げたのである。
来るべき戦いの為に、各自準備を進めていくのであった。