Episode 4
屋上には変わらず、鈴音と理央の二人が居た。
理央は彰仁にしてしまった事への後悔、
鈴音は二人の仲が拗れてるという現実を知った事に悲しみを覚えていた。
「難しいよね、色々と…。」
「そうだね…。」
二人がそう短く語り合うと、空に強い輝きが現れた。
驚いて空を見上げると、どうやら流星群の様である。星の輝きに思わず心を奪われてしまったのだった。
「綺麗…昔はあっちゃんも含めた3人で一緒に空をよく見て居たよね。」
「懐かしいなぁ。オレ、いつも望遠鏡とか持ち歩いてたっけ。」
「あったよね!3人で代わりばんこしながら見たもんねぇ、あの時は凄く楽しかったよ。」
「自然の力って偉大だよなぁ。オレは凄いちっぽけな存在に感じて来るよ。
ミジンコよりは大きいけど。」
「その自信は何処から来てるの?」
すかさず冗談を言っては笑い合っていた。理央は鈴音とは仲が良いままであるのだ。
楽しく会話していると、再び彰仁が屋上に戻ってきた。
「まだ起きてたのか。」
「まぁね、丁度…流星群が見えたんだよ。凄い夜空が輝いててさ…昔の事思い出しちゃったな。
今よりもっと純粋に、何もかも楽しんでた頃。」
理央がそう言うと、彰仁が空を見上げて確かに綺麗な空だと言った。
そしてすぐに注意する様に言った。
「懐かしむのは良いけど早く寝ろよ。風邪引くぞ。」
「平気、オレは丁度オールしようかなと思ってたところだし。」
理央がそう言うと、彰仁は呆れた様な表情で更に言った。
「馬鹿言うなよ。スズも、この馬鹿に無理して付き合わなくていいんだぜ?」
「2回も馬鹿って言った、酷い!」
「うるせぇ…俺は事実を言っただけだ。とにかく早く寝ろよ、明日に響くぞ。」
「えぇ…オレ、全然眠くないんだけど…。」
理央がふて腐れていると、その様子を見ていた鈴音が思わず笑ってしまっていた。
何笑ってるのさと理央が言うと、即座に何でもないよー、と言った。
彰仁は変わらずお前なぁ…と理央に向かって苦言を呈している様子だった。
「あはは…私はもう、先に寝るね?おやすみなさい、理央くん。」
「あ、おやすみ…またゆっくり話そうね。」
理央がそういうと、鈴音は彰仁にもおやすみと言って微笑みかけていた。
彰仁は挨拶を返すだけでなく温かくしとけよと付け加えていた。
そして、屋上に居るのが理央と彰仁の二人になった。
「で、屋上に居座って何するつもりだ?ここで寝るのか?」
「空が見えるしね。」
「雨の日は駄目だろ。テントでも準備すんのか?」
「まぁ…その時はその時で。」
他愛の無い会話の後、すぐに沈黙が訪れた。
しばらく続いた後、彰仁が口を開いた。
「さっきは俺が悪かった。お前は全力で謝ってたな…受け取ってやれなくてすまねぇ。
同じこと繰り返さないんだったら、今後の付き合いは考えてやるよ。」
「本当…?俺はまたアッキーと仲良く出来るの?」
「お前次第だ、守れるんならな。」
「頑張ります。」
思わず敬語で言ってしまったが、彰仁の顔を見ると口元が緩んでいた。自分の前で久しぶりに笑っている。
理央はそう思った。
「理央、いきなり敬語はねぇぜ…。」
「何かヘンになっちゃった、あはは…。」
「元々変だろ?」
彰仁が冗談めかして言うと、理央は変わらず笑っていた。
ようやくまた、笑い合える日が来たのだ。
「スズも寝た事だ…お前が部屋に行ってくれねぇと困るんだよ。屋上の鍵が閉められないだろ?」
「それはごめん、もう眠いから寝るわ…おやすみアッキー。」
「ああ、おやすみ。」
軽快な足取りで部屋に戻る理央を見て、彰仁は鍵を閉めて後から自室に戻っていった。
夜は何も無かった。ただ静かに心地良い沈黙が訪れたのみ。
そのまま朝が来るのである。
「ファミリーの皆、今日は元気にしてるかな!?今日も張り切って、一日頑張っていきましょう!」
鈴音によるいつもの朝の放送が鳴り響くと、理央を除いた一同は寝間着から着替えて準備をしていた。
「やっぱり元気だよね、ボスって。」
香恋がそう言うと、彰仁は確かになと言って頷いた。
そして今日は買い出しをしないといけなかったので、彰仁が当番は誰かを確認しに行った。
「そう言えば理央、寝坊助だなぁ…。夜更かしでもしてたの?」
「声は聞こえてたわ、そこにボスも居た気がするけれど。」
香恋と乃蒼は昨晩の事が気になる様であった。
「何の話してたんだろうね…。」
「それは分からないわ。気になるのなら本人に聞いて来ようかしら。」
「あはは、秘密の話とかだったらマズいし…良いよ。」
「残念ね、私のスキルが役に立つ所なのに。」
乃蒼が不満気に言うと香恋はそれを見て笑っていた。
そして朝の支度を終えると、食堂へ向かった。
「遅れてごめん…寝過ごしちゃって…。」
慌てて理央がやってくると、彰仁はそれを見て特に怒りもせずに言った。
「だから言ったじゃねぇか、早く寝ろって。」
「善処します…。」
そして全員が席に着くと、一同でいつもの挨拶をして食べ始めるのであった。
しかし、理央は何処か不満気な顔をしている。
「食わねぇのか?」
「いやぁ…ちょっと、トマトはマジで嫌いなんだよね…。」
理央は朝ご飯のメニューの一つ、サラダが気に入らない様子だった。
彰仁がすかさず言った。
「ケチャップだってトマトで出来てるだろ。何がダメなんだよ。」
「ケチャップは平気…むしろ好きなんだよなぁ。」
「意味分かんねぇ…まぁ、どうしてもと言うなら残して良いぜ。後で貰うからな。」
「ありがとう、アッキーはマジで優しいね。」
「こんな時に言われたくねぇよ。」
冗談っぽく悪態を付くと、周りが笑いに包まれた。
すると、その様子を見ていた哲弥が言った。
「彰仁って結局理央に甘いよな。借金はどうなったんだ?」
「別に普通だろ。お金なら昨日返してもらったぜ、わざわざ2倍に増やして渡してきたな。」
「へぇ…そりゃ凄いな。」
二人がそういう会話をしていると、横から橙色の長髪ポンパドールが特徴の女性が話に入ってきた。
「金銭トラブルは洒落にならないわ。理央くんも困ってるのなら私に相談すればいいのに。
わざわざ彰仁くんに相談する辺り、ねぇ…。」
「折角、ファミリーの財政を管理してる人間が居るってのにな。俺の方が頼りやすかったんだろ。」
「困ったものよね…。次からはもう、断った方が良いわよ。」
そう進言する女性は事務担当の綾野遥香。ファミリーの財政を管理する重要人物である。
実は薙刀使いであり、実力もかなりのものらしい。
「そうだな…。アイツには後で言っておく。」
彰仁がそう言うと、遥香は頼んだわよとだけ言って食事に集中し始めた。
そして、時間も30分は軽く過ぎるころに玄関の扉が開く音がした。
鈴音が玄関の方に行くと、青髪のフェードカットにスーツ姿が特徴の青年が居た。
「ただいま、マジで大変やったわ。
どいつもこいつも、ワシの顔を見もせんで取材拒否なんて…流石に酷いっちゅうねん。」
「あはは、それは大変だったね…。何か良い記事は書けそう?」
「ぼちぼちやな。」
そう答えた彼は丹羽元太。広報担当でファミリーで毎月発行している豪血新聞の著者である。
ネタ探しのために飛び回っていることが多くあまり戦闘に参加しないが、実は双剣の達人である。
独特な喋り方が特徴的でネタにされる事もあるが、本人は方言を喋っているとの事。
「ところで、彰仁からのメールで知ったんやが…龍神ファミリーが襲撃して来たとな?」
「うん…そこそこの人数を連れて来てたよ。ボスも居たんだけど、厄介な力を持っててね…。」
「すまんな、しばらくはワシはアジトに留まる。必要なら協力するで。」
「忙しいのにごめんねー。居てくれると本当に助かるよ。」
鈴音と元太が会話をしていると、乃蒼が話に加わってきた。
「久しぶりね、元太。お土産は無いのかしら?」
「せやな、食べ物ではないんやけど…どうや?」
そう言って元太が袋の中身を見せると、敵ファミリーの物であろう特殊な書物が多数入っていた。
中には龍神ファミリーの物も含まれていた。
「でかしたわ。一体どうやって手に入れたの?」
「それは…ワシが知る特殊なルートや情報網ってやつやな。」
「そう…コネって本当に役に立つのね。
まぁいいわ…それだけ書物があるなら、調べられることが沢山ありそうだもの。
ありがとう。」
乃蒼がお礼を言うと、元太はどういたしましてと言った。
「しかし…乃蒼ちゃん、これ解読できるの?」
「問題ないわ、私は古文書も読めるのよ。」
「凄いなぁ…私はそういうの見てたら頭が痛くなっちゃう…。」
「そういえばボスは小説も苦手と言ってたわね…。」
鈴音は読字障害があるのか、本の中でも特に細かく文章が書いてある物が苦手なのである。
読んでるだけで具合が悪くなる模様。
「さて、これだけあると流石に重いわね…。航、運ぶの手伝ってくれないかしら?」
「ああ、良いよ。」
航がそう言うと、大量の本を通信室に運んで行った。
通信室の中に本棚があり、重要書物の棚に並べて行く。
本棚の中には乃蒼の私物である小説や漫画本が多数収められている。
中には同人誌まであるのだが、本人によると内容はかなりディープらしい。
「なぁ、スズ。全員揃ったのも久しぶりじゃねぇか?」
「そうだね!ずっと元太くんが居なかったし、1ヵ月ぶりかなぁ。
記念撮影でもする?」
「唐突だな、俺は別に良いけど。」
「屋上にみんなで集まってやろっか。」
鈴音がそう提案すると、彰仁が全員に記念撮影をする旨を伝えに行った。
皆意外にも乗り気だった様で、屋上にはファミリーの構成員全員がとうとう集合したのである。
「カメラは俺がやる。シャッターを押して撮るまでの時間も決められるんだよな?
便利になったぜ…。」
彰仁がそう言いながらセッティングを進め、とうとう撮影する準備が出来たのだった。
そして鈴音が呼びかける。
「ポーズは自由に決めていいけど、他の人に被らないようにしてね!」
一同が賛同すると、彰仁がはい、チーズと言っていよいよシャッターを押した。
すかさず彰仁は立ち位置に向かい、鈴音の横で表情を整える。
そして、撮影が終わった様だ。
「疲れたな、スズの横でどういう顔で写るのが正解だったんだか。」
彰仁がそう呟くと、理央がふざけた調子で話しかけた。
「いやぁ…相変わらずイケメンですなぁ、アッキーは。」
「そりゃどうも。」
真顔でスルーするかの様に返した。
鈴音は写真を見て表情を緩ませている。
「ねぇ、またこういうのやりたいね!」
彰仁は鈴音のその様子を見て、どこか愛おしさを覚えたのだった。