Episode 2
「準備は出来たか、お前ら!」
彰仁が通信で呼びかけると、ボス以外は一斉に返事をした。
そして、敵ファミリーの構成員が一斉に攻撃を開始する。
拳を振り上げ、華麗な動きで敵を仕留めていく哲弥…
閃光の如くスピードで切り裂いていく彰仁、真っ直ぐ槍で貫いて行く香恋を横目に
桃色髪のセンターパートと眼鏡が特徴の少年が口を開いた。
「はぁ…僕達も本気を出さないといけないなんてね。もう少し遊んで居たかったのにな。」
「後で良いだろう。私達はあくまでも姫森ファミリーに忠誠を誓った構成員…
この場所を守り抜かねばならない。」
「折角アッキーが建ててくれたアジトだもんね…勿体ないし。頑張ろう、お互い。」
拷問担当の鷲谷友介は隣に居た白髪のショートカットと褐色の肌が特徴の女性、
暗殺担当の千早映子とそんな会話をしていた。
そしてハンマーで敵を殴ったり、ナイフで突き刺していく中…5人の猛攻を交わすように集団がアジトの中へと入っていく。
それに気付いた彰仁は言った。
「10人は中に入りやがったな、アイツらに任せるか。」
「香恋、理央にでも知らせて。」
哲弥と彰仁がそう言うと、香恋が通信機で呼びかけた。
「理央、ごめん。アタシ達だけじゃ防ぎきれなかったよ。何とかしてくんない?」
「オッケー、オレに任せて。何て言ったって最強だからね、アハハ!」
ふざけた調子で理央が言うと、彰仁がキレ気味で通信機越しに注意した。
「理央てめぇ、いい加減にしろよ!」
「…はい。」
しゅんとしたのが伝わってくるほど小さく返事した理央の様子に卓弥と香恋は爆笑していた。
冷めた様子で友介が追い打ちをかける。
「あのさ、理央…アッキーにお金返してないでしょ。フィギュアか何か買ったよね、借りたお金で。」
「ギクッ…ごめんアッキー、すっかり忘れてた!」
「給料から天引きな。」
彰仁が呆れた調子で言うと理央が泣き言を言っていた様であるが、言い終わる前に通信機の電源をオフにした。
そして頭を抱えてこう呟く。
「ったく、いい加減にしろよな…。」
その様子を見ながら友介と映子が言った。
「アッキー、屋敷の3人大丈夫かな?僕達も応援に行った方が良いんじゃない?」
「いくら理央と千夜と言えども…心配だ。」
「そうだな、こっちはもう…問題ねぇだろ。良くやったな、二人とも。」
彰仁は労いの言葉を掛けた後、友介と映子が屋敷の中に入って戦闘を始めるのを見届けて電話をかけ始める。
遺体の処理をお願いしている様であった。
そんな中、理央は持ち前の正確さで敵を打ち抜いて行き、千夜は幻術で動きを止めているが、2人逃してしまった。
「しまった…千夜ちゃん、アイツらどこに向かったか分からない?」
「分かりません。ただ…ボスの部屋に向かったとなると…マズいですね。
ところで理央さん、さっき彰仁さんから通信がありました。友介さんと映子さんが応援に来てくれるそうです。」
「お、助かるね!それじゃあ二人に任せようか。」
理央がそう言うと通信であとはよろしく、と応援の二人に伝えた。
通信室に行くと、航からお疲れ様と言われ飲み物を渡された。
情報収集担当の白峰乃蒼も同じように労いの言葉を二人に掛ける。
そして友介と映子の2人が残党を探している中、書斎の扉の前にたどり着いた敵ファミリーのボスが笑みを浮かべて佇んでいた。
「さて…此処のボスは一体どんな人物なのだろう。興味が出てきたぞ…フフフ…。」
映子が見つけ出してナイフで切り裂こうとすると、不思議な力で遮られた。
「クッ…貴様…絶対、行かせぬぞ…!」
「君がボスかね?何やら美しい人じゃないか、私は美しいモノ全てが好きなのでね。」
「下らん。それに、私がファミリーのボスであろうとなかろうと関係ない…。
何が目的だ?」
映子は険しい顔つきになり、相手を睨み付ける。
何やら…気味の悪さを感じている様だ。
「何も無いさ…ただ、挨拶をしに来ただけだよ。
不在なのかね?君たちの主人とやらは。」
「教える義理は無い、帰れ。」
「釣れないねぇ…。」
そう二人がやり取りをしていると、突然扉が開いた。
目を覚ました鈴音が出てきたのだ。
「なぁに…?お客さんが来たのなら起こしてよね。
こっちはもう、書類仕事でクタクタなんだから…。」
「危ない!」
映子の鬼気迫る声の後、間もなくして銃弾が彼女の近くへ飛んできた。
何と、鈴音は服に仕込んでいた鉄扇で防いで見せたのだ。素早い動きに驚いた映子である。
彼女は余裕そうな表情で言った。
「初対面で銃ぶっ放すなんて…どうかしてるよね?」
そして、遅れて友介が書斎の前に現れる。
「遅くなってごめん…!スナイパーが残ってたから仕留めようとしたんだよ。
そしたら…最後の悪あがきで銃弾を放ってきたんだ。
悪い事にボスがそのタイミングで出てきたから…当たったらどうしようかと…。」
「友介…そいつは息絶えたのか?」
鈴音の素早い動きに驚いていた映子は聞いた。
「うん、問題なしだよ。それで…コイツは一体何者なの?」
「私から名乗らせて頂こう。私は龍神ファミリーのボス…深淵なる闇だ。」
すると、友介と映子は驚いた表情を浮かべた。
鈴音は良く分かっていない様子だったので、映子にどういうこと?と尋ねた。
そのまま映子が口を開く。
「貴様が龍神ファミリーの…そうか。通りで他の連中と違うと思った訳だ、得体の知れない気味の悪さを感じたのでな…。」
「お褒めの言葉をどうも。それで、この可愛い子ちゃんは誰だい?見たところ…随分と若い様だけど。」
そう言われると、扇を開いたままの鈴音は海の様な瞳で真っ直ぐ見据えて言った。
「ねぇ…ここの掟、知ってる?未成年を簡単に殺めちゃいけないんだって。」
「ファミリーの組員なら関係ないだろう。何が言いたい?」
「私の事、知らない?乗り込んでくる位だったら、私達の事…隅々まで調べてるはずだよね。
まさか、そんな基本的な事もしないで奇襲を仕掛けるつもりだったの?怖いなぁ…。」
煽る様にして深淵なる闇と名乗る男性に言い放つと、怒りに任せて鈴音の服の襟を掴んだ。
「貴様、馬鹿にするにも大概にしろ…!私を誰だと思っている!?」
「はいはい…龍神ファミリーのボスだよね?良いのかな、そのまま私を殺めちゃって。」
「クッ…当てて見せよう。ズバリ、君は近距離部隊の…。」
男性が手を離すと、息を整え自由の身になった鈴音が
服の中に仕込んでいた鉄扇で強く叩きのめし、素早く蹴りを入れた。
そのまま男性は速いスピードで床に倒れ込んだ。
「何て動きだ…。彰仁から聞いていたが、具合が悪いのではなかったのか?」
「心の風邪ってやつ。だから平気だよ!」
鈴音がにっこり笑って映子に語り掛けるとほっと安堵した。
そんな中、深淵なる闇は倒れ込んで動きやしない。
その様子を見て彼女は言った。
「確かに近距離は得意だけど…違うなぁ。やっぱり、おじさん…私達の事知らないでしょ?」
「今、噂になっている…領地を広げているファミリーなんだってな…。
我らの敵ならば仕留めるまでだ…。」
深淵なる闇はくたばってたまるかと息を整えるも、突然の攻撃に体が動かずにいた。
そんな中、鈴音はしゃがんでから口を開いた。
「それじゃあ良い事教えてあげる。
部隊は存在しないし、私はただの構成員じゃない。
ここのボス…姫森鈴音だよ、覚えといてね。」
そう言い捨てると、通信機の無線で彰仁に話しかけた。
「あっちゃん、どうやら乗り込んできた敵ファミリー…龍神ファミリーだったみたいだよ!」
「嘘だろ…まさか、いきなりそんな奴らが襲い掛かって来るなんてよ…。
つーか身体は大丈夫なのか?すげぇ死にそうだったけど。」
「えへへ…どうやら心の風邪だけだったみたい。ほら、早く入ってきてよ。」
鈴音が彰仁と通信で会話した後、深淵なる闇が体を起こして再び戦闘態勢になった。
友介と映子の2人は怒りに満ちた表情で武器を構えている。鈴音もそれに気付いて口を開いた。
「まだやる気なの?」
「やれやれ、まさか、ここまで強いとは…。そうか…君が姫森ファミリーの…フフフフ、フハハハハ!!」
「貴様…ここで私達のボスに傷でも付けてみろ。地の果てまで追い詰めてやるぞ…!」
「そう怖い顔するなよ…。
この私を動けなくしたぐらいだ。この子は可能性に満ちているな。
強い奴と戦えるのは至高の喜びだ…また会える日を待っているぞ、フハハ、フハハハ…!!」
深淵なる闇はそう言い残すと、自らは瞬間移動で姿を消したのだった。
鈴音は神妙な面持ちで、友介と映子に言った。
「ねぇ、今まであんなの使ってなかったよね。」
「確かに。僕も初めて見たな…。」
「厄介な敵になりそうだ。しかし…雷虎ファミリーは一体、どれほどの規模なのだ?分からんぞ…。」
3人がそれぞれ話していると、屋敷の中に彰仁が駆け込んできた。
「おい!今の赤い光、何があったんだ?」
「大丈夫、もう敵は居ないよ。」
すぐに駆けつけてくれた彰仁に対し、笑みを浮かべながら言った。
遅れて香恋と哲弥の2人も屋敷の中に駆けこんできて、ひとまず無事を確認して安堵している様子。
「どういうことだ?まさか、一瞬で消えちまったってのか…?」
「瞬間移動を使ってたの。戦闘中には全く使わなかったけどね。
こういう事も出来るって私達に示したかったんだと思う。」
「なるほどな。しかし、こりゃ面倒臭ぇ事になったな。
きっと、次戦う時は更に戦力を拡大してやってくるだろう。
そうなると俺達も対策を練らなきゃならねぇ…現場にもっと送り込まなきゃいけなくなるかもな。」
「大丈夫、みんなの事信じてるし…それに、あっちゃんが優秀だから…ね?」
鈴音がウィンクをしながら彰仁に言うと、珍しく照れながらもそう言うのはよせと言った。
本当の闘いはまだ、始まって居ないのである。
それを全員が理解するのに時間はかからなかった。
まさか自ら敵の方から出向いて来るとは思わなかったのだが。