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100日後に死ぬ男の薄倖な冒険記  作者: 藤井瑠堪
1章:勇者の仲間
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94日目②

「もっと抵抗すると思って、残りの仲間を呼んだのに拍子抜けだな、リベル。」

カミロは、サイモンや後から来たカミロの仲間達に剣を向けられるリベル達を見ながら薄ら笑いを浮かべる。リベルは、周りを見渡す。後ろから付いてきていたカミロの仲間は、体格の良い男が4人のようであった。

「いや、無駄な争いはしたくない。人間同士では争わない。それが俺達のルールだ。金なら僕のバッグの中にある。」

リベルはサイモンが手に持つバッグを指さすと、腰に下げている剣を床におろした。リベルの姿を見ると、ウイランはため息をつき、ルードもリベルを真似して両腰に下げていた短剣を床にポトっと落とした。

「馬鹿なのか、あんた?S級の私たちが今更お金欲しさにここまですると思う?」

ヴィーナはリベルの顔を覗きこんでニヤニヤと笑って見せる。

「だったら何が目的?」

ウイランはヴィーナとカルロを睨む。カルロはウイランに近づき、右手でウイランの髪と頬を撫でる。

「君だよウイラン。」

ウイランはカルロの手を払いのける。

「いやー俺達はなんて幸運なんだ。かの魔術大国の生き残りに出会えるとは。特徴的な顔立ちに、黒髪、青い瞳…見間違うはずがない。しかも、たった3人のお人よしパーティにいるとは。」

カミロは顔をそむけるウイランを見つめてニヤニヤと笑う。

「交渉だ、リベル。ウイランを俺達に譲れ。俺達ならもっと上手くこの女を使える。」

カミロは両手を広げて、三人を順番に見た。

「譲るも何も、ウイランは俺の所有物じゃない。」

「なんだよ、冷たいなリベル。」

カミロ「はんっ」と鼻で笑うとウイランに手を差し伸べるが、リベルはスッとウイランの前に立ちふさがる。

「だが、大事な仲間だ。みすみす連れてかれるのを黙って見てるわけには行かない。」

リベルの一言に、カミロや仲間たちは大笑いをする。

「おいおい、お前この状況が分かってないのか?S級の冒険者パーティ10人を前にしてるんだぞ?ここは『NO』と言える場面じゃないだろ。」

サイモンが笑い涙を手で拭いながら剣をリベルに向ける。

「ケイン。」

カミロに声を掛けられたケインは「は、はい!」と慌てて、リベル達の前に立つと両手をリベル達の足元に向ける。

「“フリージング”」

ケインの手が光りだすと同時に、リベルとルードの足の周りに氷が発生し纏わりつく。氷はあっという間に、二人の腰下まで包んだ。

「ひえー冷たー!」

ルードが大声を出して体を右に左に揺らした。

「氷魔法か…。」

リベルは足に付いた氷を撫でる。

「すごいでしょ。魔力では全然私の方が上だけど、この子は色んな魔術を使えるのよ。」

ヴィーナは自慢げにケインの肩を持つ。ケインは「すみません。」と恥ずかしそうに眼鏡をクイっと上に上げる。

すかさず、ウイランはケインに向かって左の掌を向けるが、サイモン達が動けなくなったリベルとルードに剣を向ける。ウイランはため息をつくと、ケインに向けていた手を上に上げた。

「良い判断だな、ウイラン。利口なのはいいことだ、これから俺達の仲間になって上手くやっていくにはな。」

カミロはまた高笑いをした。

「どうするカミロ?目当ての物も手に入ったことだし、さっさと洞窟を出る?」

「その前に、こいつらを始末しちゃお。ついて来られても面倒だし。」

ヴィーナとサイモンはカミロに次々と声をかける。

「いや、2人の意見はどちらも却下だ。まず、洞窟の調査依頼を受けてる以上、最奥まで行かないうちは洞窟を出るつもりはない。リベル達もとりあえずは生かしておこう。人質二人を殺しちまったらウイランが何をしでかすか分からねぇからな。」

カミロは、自分をずっと睨みつけるウイランにニヤッと笑って見せた。

「この先に行くつもりなら用心した方がいいぞ。」

リベルの一言にカミロは「はは。」と馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「そうだな、用心しておくよ。だがなリベル、お前はもっとこれからを用心していた方がいいぞ。確かに殺しはしないが、みすみすお前達をここから逃がすつもりはない。このことを口外されても、俺達のパーティの威厳に関わるからな。」

カミロはゆっくりとリベル達に歩み寄る。

「あ、そういえば、この洞窟に入ってからかなり厄介な魔物に何体も遭遇したな…。俺達が戻るまで生きてたら、その幸運に免じてこの街から出してやるよ。」

カミロはわざとらしく怖がるフリをすると、リベルとルードの剣を拾い上げるように命令する。

「ウイランを仲間にしても、レイズは帰ってこないぞ。」

リベルの言葉にカミロの足は止まり、ヴィーナの顔は強張る。

「なんであんたがレイズを知ってんのよ。だって…」

「…なんのことだかさっぱりだな。エド、マイロ。二人はここに残れ。こいつらが逃げようとしたら殺しても構わない。」

ヴィーナの発言を遮るカミロの声は先程よりずっと重い雰囲気を纏っている。

「あ、あの。私もここに残ります。私の魔法で拘束しているなら私が残った方がいいと思います、はい…。」

ケインは勢いよく手を挙げるが、カミロに睨まれ、声が尻すぼみとなる。

「…好きにしろ。」

カミロはケインを一瞥すると、クルっと前を向きなおしてウイランの腕を掴んで奥へと進んでいった。他の者達もカミロに付いて行って行く中、ヴィーナだけはチラチラと後ろを向きながらリベルのことを睨んでいた。だが、その目の奥には何かを怯えるような揺らぎがかすかに見えた。


「ちょっとカミロ?もう少しゆっくり歩いてくれる?ねぇ聞いてる。」

ヴィーナは、ウイランの腕を掴んだまま早足で前を歩くカミロに声をかける。だが、カミロの耳には入っておらず、歩く速度はどんどんと早くなっていく。

「ちょっと痛いのだけど。」

ウイランが立ち止まりカミロの腕を振りほどくと、カミロは目が覚めたのか少し早くなっていた呼吸を整えながら大きく息を吐いた。

「いやー、すまない。ちょっと混乱していたが、もう大丈夫だ。」

カミロの声は先程とは別人のように落ち着いていた。

「さっさとこの依頼を終わらせて、ウイランの歓迎会をしてやろう。楽しみにしとけよ。」

「まぁ、ここは生きて出られれば、ですけどね。」

ウイランはカミロ達に聞こえないくらい小さな声でつぶやく。ウイランの魔力探知には先程からずっと洞窟の奥から強い反応があった。

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