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100日後に死ぬ男の薄倖な冒険記  作者: 藤井瑠堪
1章:勇者の仲間
2/4

あと95日

「だーかーらー、何度も言わせないでください。」

冒険者ギルド内に受付嬢の甲高い声が響き渡る。そこに居た者達は自然と受付嬢とその前に居る三人の男女に注目した。

「そこをなんとかならないか?そのために、遥々この国まで足を運んだんだが…。」

真ん中の男が目の前で両手をこすり合わせながら受付嬢の顔色を伺う。男の腰には、スラっと長い剣が刺さっていた。

「そんなもの関係ありません。それが例え初級ダンジョン[コーリ洞窟]の探索だとしても、冒険者登録のない、ましてやこの国、パルクロー国の国民でもない人に依頼はできません。」

男の懇願とは裏腹に、受付嬢はきっぱりと断る。

「ほらーいった僕の言った通りだろ、リベル。意外とダンジョン関係は厳しく取り締まる国が多いんだよ。特に冒険者登録が無い無法者には厳しいんだから。」

短髪の女は、リベルの肩にポンっと手を置いた。女の両腰には膝までくらいの短剣が2本、1本ずつ両腰に刺さっていた。

「冒険者登録か…、ルードは持ってるか?」

ルードはその短い髪を左右に揺らしながら首を横に振った。

「だったら、ここで冒険者登録をすれば問題ないか?」

リベルは目を輝かせながら、受付嬢に尋ねる。

「まぁそうしていただけるなら結構ですけど…。でも、すぐに洞窟探索の依頼は出せませんよ。冒険者登録には少なくとも三日はかかりますし…。」

「三日⁈そんなに?」

リベルが驚いて聞き返すと、受付嬢は「はい。」と表情を変えずに答える。

「それに、三日経って登録をされても、初心者冒険者にこの洞窟探索の依頼は出せません。」

「え、なんで?初級ダンジョンなんだろ?」

ルードは鼻で笑いながら受付嬢の顔を覗きこむ。

「最近、レートが上がったんですよ。というのも、その洞窟から…。」

「『初級ダンジョンとは思えない魔物が出てきた』でしょ?」

受付嬢はリベルの発言に驚いた。

「なぜそのことをご存じなんですか?王都から内密にと言われたことなのですが…。」

受付嬢は声のトーンを落として、目を細くしながらリベルのことを見た。

「知ってるもなにも、そのことで俺たちはこの国に来たんだ。だから、ね?いいでしょ?」

リベルは受付嬢の真似をするように声のトーンを落として、また目の前で手を擦り合わせる。

「ご存じなら尚更です。素性も実力も分からない人に、不安定な状態のダンジョンに立ち入れるわけには行きません。」

受付嬢は声のトーンを戻すと、またきっぱりと断った。

「冒険者登録をされるなら右手へ、そうでないなら出口は後ろですので。」

リベルが「でも…」と居座ろうとする中、受付嬢は目を閉じ右手を指さした。ずっと二人の後ろで黙ってその様子を見ていた黒髪の長髪の女が、しびれを切らしてグイッと二人の前に立ち受付の台を強く叩きつける。鈍い打音がギルド内に響き、三人は更に周りの注目を集める。

「あぁ、もう。じれったい。」

長髪の女は左手を受付嬢に向ける。

「うわー何してるんだウイラン。」

リベルは慌てて、ウイランの左手を両手で抑え込む宥める。

「離してくださいリベルさん、この女に実力を見せてやるんですよ。」

「いきなり、魔術をぶち込もうとする馬鹿があるか。ちょ、ちょっとルードも手伝って。」

ルードも遅れて、ウイランの右手を掴んだ。ウイランは二人に両手を掴まれながらも、体を右に左に揺らしながら抵抗を続ける。そんな3人の様子を近くの机に座っていた男が立ち上がり、受付に近づいてくる。

「そんなにあの洞窟に行きたいの君たち。」

男の声にリベル達は後ろを振り返る。

「何?あなた。」

ウイランは体の動きを止め、男の方を睨みつける。

「いや、怪しいものではないよ。ただ、君たちの話が聞こえてね。俺はカミロ。この国の冒険者だ。俺なら君たちの力になれるかなーと思ってね。」

男は微笑みながら、睨みつけるウイランの目をじっと見た。

「あんた、ほんとか?胡散臭いけどな~。」

ルードは目を細くしてカミロを足先から頭までゆっくり見た。カミロは「ちょっと失礼。」と三人の前に割って入り受付嬢の前に立った。

「洞窟の調査を俺達のパーティが引き受けるっていうのはどうかな?この人達を同行させて。」

「…確かに、S級冒険者であるあなたが引き受けてくださるなら申し分ないのですが、部外者をダンジョンに入れるわけには…。」

受付嬢はカミロを前にして、顔を少し赤くしながらボソボソっと答える。

「君がもし許可を出してくれたら、すごく嬉しいんだけどな。」

カミロは、受付の台に左ひじを置き、受付嬢にグッと顔を近づける。受付嬢は、さらに顔を赤くさせた。

「わ、分かりました。分かりましたから。カミロさんだから、許可するんですからね。」

受付嬢は両手で手をパタパタとさせながら、カミロにダンジョン依頼書を渡した。カミロは依頼書を手にすると、リベル達の方を向いて得意そうに依頼書を見せる。

「ありがとう。えーっと、カミロだっけ?俺はリベルだ。」

リベルは嬉しそうにカミロに左手を差し出す。

「お安い御用だよ。何だか訳アリのようだしね。」

カミロはリベルの左手をとった。

「あ、二人は俺の仲間でルードとウイランだ。」

リベルは、後ろに立つ二人に目を配った。

「よろしくな、カミロ。僕はルードだ。あんたいい奴だね。」

ルードはカミロの手を握ると、カミロの体が揺れるほど強く上下にブンブンと振った。

「…ということは、後ろに立つ君がウイランだね。」

カミロは苦笑いをしながらルードが握る手を無理やりはがすと、リベルの後ろにいるウイランに目をやった。ウイランは「どうも。」と目を細くしながら会釈をした。

「青い奇麗な目をしているね。ウイラン…ここらへんじゃ聞かない名だ。」

「反対にあなたの目は濁った泥水みたいな色ね。」

ウイランに躱されたカミロはまた苦笑いを見せる。

「あぁ、そうだ。俺のパーティメンバーを紹介するよ。といっても、今ここに居るのは一人だけなんだけどね。」

リベルは、先ほどまで居た席に向かって「ヴィーナ」と手を振る。名前を呼ばれた女は、気だるそうにゆっくりと席を立ちあがるとカミロの方へ歩いて来た。

「話は聞いてたよ。メンバー、特に私に一言の相談も無しにダンジョン依頼を受けてたのもね。」

ヴィーナはカミロを睨みつける。

「いいじゃないか別に。しばらくは新しい依頼を受けるつもりも無かったんだし。それに…。」

カミロは途中まで言いかけるが、リベル達をチラッと見るとヴィーナに顔を寄せて耳打ちをする。耳打ちをされたヴィーナは一瞬驚いた顔でウイランを見るが、慌てた様に視線を逸らしてまた不機嫌な顔に戻した。

「まぁ、いいわ。みんなには私から説明しておくから。」

ヴィーナは呆れたようにため息をつく。リベルは慌てて、ヴィーナの前に立ち左手を突き出した。

「すまない、俺達がわがままを言ったせいで。よろしくヴィーナ。」

「リベルって言ったかしら?言っとくけど、カミロの気まぐれで決まったことだからいいけど、本来ならS級パーティと同行なんて金貨1枚でも足りないくらい有難いことなんだからね。」

ヴィーナはリベルの差し出した左手に目もくれず、リベルに詰め寄る。

「別にS級のヴィーナさん(笑)には誰も頼んでないわよ。」

ウイランが鼻で笑いながらつぶやくと、ヴィーナはウイランを睨む。危険を察知したリベルはウイランの前に立った。

「あぁ感謝しているよ、ヴィーナ。よろしくね。」

屈託のない笑顔を見せるリベルにヴィーナはつまらなそうに舌打ちをすると、元の席の方に歩いて行った。

「すまないね、悪い奴では無いんだけど…。」

カミロは苦笑いしながら、ヴィーナのことを目で追った。

「カミロ、頼んでいる身で申し訳ないが、俺たち少し急いでいてね。できれば、明日にでもダンジョンに行きたいんだが。」

リベルの発言に驚いたカミロは「明日か?」と聞き返す。

「…別に問題ないが、本当に訳アリなんだな。分かった。じゃあ、俺達も今日中にメンバーを集めて明日に行けるようにしよう。」

リベルは「すまないな。」と申し訳なさそうに頭を掻いた。


カミロと別れたリベルは深く息を吐いた。

「一先ずよかったね、リベル。まぁ僕としては別に行けなくても良いかと思ってたんだけどね。」

「良い訳ないでしょ、ルード。これは私たちの責任なんだから。」

ウイランがルードを一喝する。

「それだけ重要性を理解しているなら、もう少し上手くやってくれると助かるんだけどな。」

リベルが苦笑いをしながらウイランを見る。

「何か間違ったことでも?」

とぼけるウイランに三人は顔を見合わせて笑った。

その様子を見ていたローブを被った男が周りをキョロキョロしながら、リベル達に近づく。

「な、なぁ君たち。本当にカミロ達と一緒にダンジョンに行く気かい?」

ローブの男の声は少し震えていて声もかなり潜めており、遠のいていくカミロ達を恐る恐る見ていた。

「あぁ、そのつもりだが…。」

リベルが戸惑ったように答えると、急にローブの男はリベルの両腕を強くつかんだ。

「悪いことは言わない、すぐにこの街をでるんだ。」

小刻みに揺れる手とローブの隙間から見える男の顔はひどく怯えた様子であった。


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