第六話 魔王マリーンズ
「ここが、ネフレ湖ね」
「はい、勇者様!」
あの後、私は、ロザリザさんと別れた。定期的に連絡をする約束をした。
ロザリザさんの帝国に行くと、冒険者さんたちと別れることになる。
一緒に暮らすためにも
確固たる収入が必要だ。
ハンスさんと、ベッキーちゃんの三人で薬草の産地と名高いネフレ湖に行くことになった。
この湖には、主がいて、訪問者を拒むと言う。
お話し合いをして、薬草採取の許可をもらおう。
ブクブクブク~~~~
「湖の中から人が・・・」
「「勇者様!」」
湖の中から人が出てきたわ。
髪は水色、服も水色、長髪が、たなびいている。
「人族よ。何をしにきた?」
「あの、お話し合いを・・・」
「ええい。去れ!」
ビョン!
ウォターカッターで、斬られた?
ドサ!
近くの木が倒れた。目で追えなかったわ。
【私は、アキと申します。薬草が必要なのです!採らせて下さい。決して、ご迷惑をかけませんから。話し合いをいたしましょう!】
「我はネフレ湖の主、ネフレ夫人じゃ。ほお、誰か身内で病人でもおるのか?」
「いえ、生活のために、必要なのです」
「はあ?なら、我に、力を見せよ。我は湖底にいる。我を引きつり出してみせよ。黙って採ったら、今度は斬るぞ?」
ブクブクブク~~~~
消えてしまった。
この魔物さんはいい人だ。いきなり、斬らない。
こんな場合は・・・
「装備召喚!」
私は、この前、緑のお兄さんか教わった爆破をすることを思いついた。
確か。「さんそ」というものが練り込まれていて、水中でも爆破が可能だとか言っていた。
殺すのはフェアーではない。
TNT爆破薬を半分に折って、雷管を装着し、導火線を・・・調節して、湖底に付く前に爆破するように設定する・・・
ドカーーーーン!!バシャバシャ!
小さな水柱がたったわ。
これで、
バシャーーーーーーン!
【何をさらすんじゃ!ボケ!耳が!】
「ヒィ」
「アクアドラゴン・・?」
今度は、アクアドラゴンが浮かび上がって来た。
「はあ、はあ、無茶するなや。ボケ!」
「勇者様、さあ、避難を!」
「勇者様!」
「いえ、この魔物さん。悪い人ではない。私を試そうとしただけ・・・多分」
バシャ!バシャ!とヒレで湖面を叩いて、怒っている。
おひげが可愛く見える。
その時、
振動が聞こえた。魂に響く声だったわ。
[カーカカッ、ネフレ夫人よ。負けだぞ]
「魔王陛下!」
・・・やっぱり、このアクアドラゴンがさっきの水色のお姉さん?
「魔王!牛角のマリーンズ!」
「勇者様!」
空から、羽で飛んできた。
私の前で、スゥと降りる。音がない。黒い翼が綺麗。牙が生えて、湾曲した角が側頭から生えている。
「妾はマリーンズじゃ。今世の魔王ぞ!」
「初めまして、私はニッタ・アキ、今世の勇者かもしれません」
ガシッ!
と抱き合った。
何故だか分からない。お父様とお母様が、マリーンズさんのお父さんを殺したはずなのに、
涙が流れてきた。
「よく来たな。ケンジとサユリは、我が父の遺体を素材としてとらなんだ。それだけで十分じゃ」
父様と母様の優しさを認めてくれた。
父様と母様の死後も、優しさで守られていると実感した。
「グスン、グスン、私は・・・」
その後、凡人召喚をした。
漁業組合の吉田さんだ。
「あん?素人はすぐに、鮭は?となる。川が長い。下流で捕られるぜ。トラウトにしなよ」
「あの、でも、生態系的に・・・どうなのでしょう」
「さっき、水色の姉ちゃんに魚を見せてもらったら、こりゃ、イワナじゃないか?」
「なぬ、水色の姉ちゃんだと・・・」
「イワナ、食いたいよな。もっと、沢山、食いたいよな!」
「うぬ・・・・」
「じゃあ、マスター、誰か適当な人を連れてきてくれよ」
「はい」
イワナは召喚できない。私の能力は、凡人とそれに付随する物質だからだ。
魔力を対価にする。
冒険者さんの中から、選抜をしてもらった。
結局、やり方だけを教わって、湖の一角に縄をはり。養殖場にすることになった。
魔族も農業、牧畜は知っているが、魚の養殖は想定外だったみたいだわ。
そして、対価として、ネフレ湖の付近に自生している薬草を採る許可をもらった。
「じゃが、人が大勢来ると、俗気が混じり。育たなくなる。だから、出入り出来るものは、期間を分けて、数人ぞ」
「はい、あの・・」
だから、人を拒むのね。
「何じゃ。質問はあるのか?」
「あのネフレ夫人ってことは、旦那様はいらっしゃるのですか?」
「いないわ!称号ぞえ!」
「フフフ、アキよ。強いて言えば、湖と結婚しているのじゃ。魔族の将の一人じゃ」
「まあ、マリーンズ様。そうなのですね」
「マリーンズで良い」
「マリーンズ・・・ちゃん?」
「ちゃん?ワシはおぬしよりも年上じゃぞ!背は低いが!」
「ごめんなさい」
「謝らないのじゃ!」
フフフ、楽しい。友達ってこんな感じかな。
冒険者たちは、薬草の交易を通じて、情報収集をしてくれることになった。
彼らの生活も安定する。
・・・・
危ういのう。アキはずっと、独りじゃったと聞いた。
イエスマンだらけの集団じゃ。
ワシは父上の葬儀を行い。きちんとお別れが出来た。
骸骨や、筋肉ダルマのオーガや、モフモフの獣魔人に囲まれて、我ながら健やかに成長できたのじゃが、
少し、探りを入れるか。
「これ、ハンスとやらよ。貴様はアキに何を望む」
「・・・魔王殿、全ては勇者様のお望みのままに」
「アキが、世界を滅ぼすと言っても?人族は見たくない。お前らも死ねと言ったらどうする?」
「自裁いたします」
即答しやがった。
じゃが、こやつを殺すことは出来ん。まだ、魔族は先の大戦で戦力が乏しい・・・・ゲロドス王国を攻めれば、他国が援軍を出すであろう。
ワシはアキの友であるが、魔王でもあるのじゃ。
人族の業は深い。
アキが絶望しなければいいが・・
やがて、アキは、魔族領で、魔王の庇護の元、暮らすことになる。
最後までお読み頂き有難うございました。