第五話 気弱な令嬢
「私は気弱な令嬢よ。安心して、一緒に私の帝国に行きましょう」
うさんくさい。
森に、ロザリザと名乗るお姉さんが来た。
お付きの者たちが、
「どうか、我国にいらして下さい」
「勇者殿として、きちんと教育を受けられます」
「あのような扱いは決していたしません」
と説得してくる。
「でも、私、メイドは出来ない。何にも出来ない。食事だって、冒険者さんたちが作ってくれているのを頂いているだけだし、申し訳ないのです」
「「「お労しい」」」
「そんなこと、心配する必要はないのですよ」
「ええ、何でも命じて下さい。その気持ちだけで十分です」
冒険者さんたちは、そう慰めてくれる。
ヒヒーーーーン
馬のいななきが聞こえてきた。
見張りについていた冒険者さんの報告だと、
「やつらが来ました。紋章から、ゲロドス王国の騎士です!騎馬10人に、馬車1!まるで、囚人馬車のようです・・・奴らあの馬車に勇者様を閉じ込める気です」
隊列は組まず。だらしなく見える。ダラダラ歩いて来た。
「あら、あら、ゲロドス王国の騎士様、こちらが、先約ですわ」
「どけ!」
ロザリザさんを押しのけるように、私の前に来る。
皆、臨戦体制を取る。
こちらは、冒険者さん100人はいるが、男たちは数十人で、ほとんどが、ポーター職、
お姉さんの伴は、軽武装の3名にメイドさんが1名、不利だ。凡人召喚を行うか?
「おい、そこにいたか?」
「王宮に帰れば、ドレス、着られるぞ!」
「さっさと、帰って来いよ」
「ほら、あの馬車に乗れ、出ないと、また、討伐しちゃうぞ!親父と母ちゃんみたいになりたくないだろう」
「!!!」
怒りが込み上がるが、我慢だ。
プルプル震えて来た。
あの屋敷では、いつも騎士に恫喝されていた。
婚約者に乱暴されそうになった。粗暴な男は怖い。
「いいえ。断ります。あの国だけは絶対に戻りません!グスン」
涙が出てきた。やはり、能力はあっても、怖いものは怖い。
「ヒヒヒヒヒ、泣いてやんの」
「無理矢理・・・」
【無礼者!】
お姉さんが叫ぶと同時に首が飛んだ。
シュン!コロン
お姉さん。いつのまに、刀を抜いたの?目で追えなかった。
「「「ヒエ!」」」
他の騎士様達も、剣を抜く。
メイドさんもかぎ爪のようなものを瞬時に出して戦っている。
あっという間に、10人が斬殺された。
「良く。言えました。嫌なものを嫌と言える胆力さすがでございますわ」
「あの、有難うございました」
「いえ、勇者様、お役に立てて、光栄でございます」
カーテシーで礼をする姿は、美しい。
「フフフ、ゲロドス王国はろくな騎士は残っていないようですね。貴方の意思は尊重しますが、ここから、避難した方が宜しいと思いますよ。実は・・・」
お姉さんはあの後、ゲロドス王国に何があったか教えてくれた。
「あの傷面男、ゴホン、ロイド卿がガツンと言ってくれたのよ」
☆☆☆回想・ゲロドス王国
『王よ。勇者殿が、貴国を去りました。よって、勇者養育分担金の支払いを停止いたします。
これは、仮決定ですが、本決定になるでしょう。何故なら、勇者殿は貴国の掌握下を離れたのですからな!』
『何だと』
『それから、今まで支払った金額の返還もお願いしたいものですな』
ロイド卿は、ゲロドス王に立ったまま宣言をする。
他国の貴族に過ぎないが、女神圏公会議の全権委任である。
言うならば、明治維新で、下級藩士が明治政府の役人に抜擢され、藩主よりも上になってしまったのに等しいであろう。
更に強力、王子の鼻を切られても、ゲロドス王は何も言えない。
『なら、勇者が戻ってくるのなら、問題ないのであろう』
いや、また、召喚をすればいい。召喚したもの勝ちだ。
『魔道士師団を呼べ。新たに勇者を召喚するのだ』
・・・・・
『召喚失敗です!』
『な、何だと!魔石もただではないのだぞ!国費の10分の1だぞ』
『だから、失敗すると言ったのですよ』
『理由は、分かりませんが、文献だと、召喚勇者は、今世で一人だけだと』
『おそらく、アキ殿が勇者だから、死なない限りは、それも、分かりません』
『当たり前です。魔石を消費すれば、大勢の召喚勇者を呼ぶことが出来て、勇者軍を編成して、とっくに、魔族を殲滅していますって』
『なら、連れてこい』
・・・・・・・・・・・・・
「・・・なるほど、私は、お金のために」
「ええ、馬車の御者は捕らえてあります。何か、手紙でも送りますか?こんな時は、腹に貯めない方がいいですわ」
「うん。少し、待って、緑のお兄さんを呼ぶ。凡人召喚!・・・」
私はお兄さんに、ある物を作ってもらった。
「まあ、勇者様、素晴らしいですわ。良いこと、これをアンドリュース王子に送るのよ。でなければ、家族を殺しますわ」
「ヒェ、分かりました・・」
この贈り物は、王城に届けられる事になった。
厳重に封がされている木箱、受取人は、アンドリュース王子、送り先は、アキの名が記されている。
王は、もしや、戻ってくる?と期待する。
「アンドリュース!開けて見せよ。あやつ、まだ、お前に、気があるやもしれない」
「ヒィ、嫌だよ。あんな怖い子!」
「開けたら、欠損部位を復元できる聖女様に治療してもらう早くしろ!」
王子は、イヤイヤながらも木箱を開けた。
その瞬間、
カチ、シュシュシューーーーと音がなる。
火が走る音だ。
数秒後、
バチバチバチ!と爆裂をした。
「ウギャアアアアアーーーーーー」
爆発したのは雷管数本、強いて言えば、金属製の爆竹、金属片がアンドリュースの顔に飛び込んで来た。通常、ダイナマイトの起爆に使うものだ。
顔はズタズタになる。顔は更に見られないようになった。
箱を開けると、発火具の栓が抜かれ、発火し、数秒後に到達する長さの導火線を通して、起爆する仕掛けだ。
細かい金属片が顔に刺さり。治療困難であろう。
これが、アキの元婚約者への決別の意思表示である。
最後までお読み頂き有難うございました。