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苦手な方はご注意ください。

人気ジャンル:異世界[恋愛]

聖女が愛の答えを探していますが、どうしても愛されてしまいます。

作者: 神離人

「"愛は腕力によって成就する"

 これは、諸国の人類学者たちが辿り着く結論です。

 恐ろしいことに……ひとつの例外もなく、

 人を研究して、愛を調べ尽くすほど、なぜかこの答えに辿り着く。

 "愛は腕力によって成就する"という答えに。


 総勢10万人にも及ぶ研究者たちが、

 みんな間違えています。

 偶然……、そう偶然にも、

 10万人の研究者達がうっかり勘違いしたのでしょう。

 愛は、真心で成就するのですから」


 威厳ある声で、ローブの女性が愛を解いていた。

 彼女の前に立つのは、

 とある貧しい国の聖女である。


「で、俺にどうしろと?」


 聖女が問いかけると、女性は金貨を取り出す。

 聖女は金貨を受け取ると、

 ローブの女性に背を向ける。

 

「聖女のあなたが証明しなさい。

 腕力で男共を制して、

 腕力では、愛など生まれないと証明しなさい。


 ……誤った答えは要りません。

 1つ、腕力で愛は成就しなかった。

 1つ、学者達の答えは正しくなかった。

 1つ、真心で愛は成就した。


 "これらの結果だけ"を持ち帰り、

 聖女として、"正しい答えを証言"するのです」


 用件を伝え終わると、

 ローブの女性は姿を消してしまう。

 

 聖女と呼ばれた女は、

 静かにその場を立ち去った。

 金貨をぎゅっと握りしめ、

 聖女は、正しい答えを探すために街中へ向かった。



----------



「喰らいやがれ!

 これが聖女様のありがたい"おてて"だあああぁっ!」


 街中の路上で、聖女は必殺の拳を

 大男に叩きこんだ!

 聖女は、大男との勝負に勝利したのだ。


 聖女に敗れた大男は、

 尊敬のまなざしを聖女に向けていた。

 横暴で喧嘩腰だった男が、

 大きな力を持つ聖女に恋い焦がれたのだ。


「俺の負けです聖女様。

 どうか、俺の女になってくれ!」


 大男は、聖女と初対面であったが、

 眼前の女性が清らかな心を持つことを

 戦いの中で感じ取っていた。


 大男のような戦う人類にとって、

 腕力とは、真面目さの象徴であった。

 一夜漬けで補強できる学力とは違い、

 一夜漬けで腕力を誤魔化すことはできない。

 常に鍛えなければ、喧嘩では勝てないのだ。


 だからこそ大男は、聖女が常日頃から

 誠実に修行をしていると考えた。


 事実、聖女は誠実な女性であったし、

 金貨を持ち逃げせずに、愛の答えを探している。

 腕力がきっかけとなり、聖女の人間性を、

 大男は正しく把握できたのだ。


「不釣り合いだ。俺の求める答えじゃない」


 大男の告白を聞き入れることなく、

 聖女は街中に消える。


 強く誠実で、安易に頼みを聞き入れない聖女を前に、

 大男は聖女をより深く愛した。

 今は手が届かないが、いつかは手に入れたい存在。

 愛を受け入れないからこそ、

 大男の中で聖女はより尊い存在となったのだ。

 


----------



 聖女は、街の男達を倒し続けたが、

 誰もが聖女を愛するようになっていく。

 誰もが聖女の腕力に誠実さを感じ、

 誰もが聖女にフラれていき、

 そして、聖女を愛してしまうのだ。


 聖女は決して優しくはなかった。

 戦いでも告白でも、

 一貫して厳しい姿勢を貫いた。


 男達が聖女に対して抱いた印象は、

 "安い女じゃない"だとか"高貴なお方だ"であった。

 これらの印象は少し、

 聖女の実態からはかけ離れている。


 聖女の街での活動は、金貨がきっかけである。

 聖女自身は貧乏であり、貴族の出ではない。

 それでも男達が聖女に憧れたのは、

 やはり"誠実な腕力"と"高潔な厳しさ"によるものであった。


 厳しさこそが、男たちの評価を狂わせたのだ。

 聖女を実態以上に、気品ある存在だと信じさせる力があった。


 聖女は、腕力を発揮すれば愛され、

 厳しく告白を断れば更に愛された。

 男達は、聖女を遥か格上の麗人であると認めて、

 愛の告白が届くことを祈るしかなかった。


 しかし聖女は、男達に愛されながらも、

 望む結果を得ることができないのであった。



----------

 

 

 聖女の戦いに終止符を打ったのは、

 魔法使いの男であった。

 誤って大ケガを負わせた聖女は

 魔法使いの男を手当てしようとしたのだが……。


「うるせぇ! 気安く触るなっ!」


 魔法使いは聖女の手を払ったのだ。

 聖女は気が付いた。

 目の前の傷つき倒れている男が、

 自分を"安く見ている"という事実に。


「痛々しいな。治してやるって」


 聖女が手当てをしようとするが、

 魔法使いは拒み続けた。

 理由を聞くと「もっといい女に手当されたい」と、

 魔法使いは答えた。


 魔法使いに恋愛感情がないと知り、、

 聖女は、魔法使いに愛の告白をした。

 魔法使いの答えは"No"だった。

 それは、聖女の求める答えであった。

 腕力に敗れた魔法使いへの愛は、ついに成就することはなかった。


 目的を果たした聖女が背を向けると、

 魔法使いの男が呼び止めた。

 

「おい! 俺を放っておく気か!」


 何と、聖女を拒んでいた魔法使いが、

 聖女に手当てを求めたのである。


 聖女は、男の豹変ぶりに困惑していた。

 手当てを望んでいるのであれば、なぜさっき断ったのか。

 聖女には理解ができなかった。


 魔法使いが手当てを断った理由は、

 "余裕があったから"である。

 聖女が、彼に優しく接したため、

 魔法使いは"もっといい待遇"を求めてしまったのだ。


 例えば、ケガをした人を助けた場合、

 余裕があるときに助ければ"良い人"になり、

 死に掛けのときに助ければ"命の恩人"になる。、

 余裕がなく、助かりにくい状況であるほど、

 人は助けられたときに感謝しやすい傾向があるのだ。


 今回の魔法使いの場合、

 聖女が自分を放置しそうにないため、

 "助けられることへの感謝"よりも、

 "ケガをしたことによる不満"が上回り、

 贅沢な看病を求めてしまった、という訳である。


 更に、聖女との勝負でケガを負ったことも、

 魔法使いが過剰要求を行う一因になっていた。


 しかし魔法使いの予想に反して、

 聖女は、立ち去るという厳しさを見せた。

 だからこそ追い詰められた魔法使いは、

 態度を急変させたのである。


 魔法使いが行ったのは、

 いわば待遇改善のための"賭け"であった。

 心優しい聖女を前に、

 高確率で"手当て"か"贅沢な手当て"を

 勝ち取れると信じていたのだ。


 しかし魔法使いは不遇にも

 低確率の"本当に見捨てられる"を引き当ててしまった。

 このまま聖女が帰ってしまえば、

 "大ケガ"や"後遺症"や"死"という

 リスクしかない賭けを、彼は行わなくてはならない。


 聖女が厳しい態度を取ることで、

 このような状況に魔法使いは追い込まれていた。

 危機的状況に陥り、余裕がないからこそ、

 魔法使いは聖女を呼び止めたのだ。


「…………」


 聖女は立ち止まらなかった。

 今まで誰からも愛されてきた中、

 ようやく自分を愛さない人と出会えたのである。

 もしも魔法使いを助けて愛されてしまえば、

 彼女の今までの苦労は全て水の泡になる。


 聖女は、魔法使いの命を犠牲にしてでも、

 愛の"正しい答え"を持ち帰らなければならなかった。



----------



 誰からも愛される聖女は、かつて誠実に浪費を重ね、

 故郷を貧困に導いてしまった。

 借金の額は膨大、国にも指名手配されてしまい、

 もはや借金の返済なしには、誠実な浪費を行えなくなっていた。


 そんな聖女に手を差し伸べたのが、

 愛を説くフードの女性であった。

 女性は莫大な借金の返済を約束する代わりに、

 聖女に依頼を出したのだ。

 前金として僅かな金貨を渡していた。


 聖女が話を信じたのは、

 追い詰められていたからに他ならなかった。

 借金返済などとても不可能な状況であり、

 渡された前金もごく僅か。

 聖女はずっと追い詰められていたのだ。


 フードの女性が手厳しい対応をしたことで、

 聖女は"貧民嫌いの高貴な富豪"という印象を

 彼女に抱いていた。、

 素性の知れない女性を"格上の富豪"と誤認して、

 根拠のない憧れを抱いてしまったのだ。


 この厳しい対応で錯覚させるやり口は、

 聖女が利用するSNS上でも、頻繁に使われる手法であった。

 豪邸を映した画像とアカウントを用意し、

 富豪のアカウントに厳しい態度で絡み、大富豪だと誤認させるのである。


 魔法使いのリア友である賢者なども、

 医療魔法魔術大学のアカウントから、とある裏垢を発見し、

 厳しい態度で絡むことで成功を収めていた。

 過程で、あらぬ誤解を招きつつも、

 大学の出資者と親交を得ることに成功している。


 厳しい態度での誤認というものは、

 いかなる相手にも通じる。

 いわば人類共通の弱点なのだ。


 聖女のように意図せず愛されることに貢献したり、

 賢者のように異質な繋がりを生み出したり、

 誤認の形は様々である。

 恩恵を掴みとるかどうかは当人次第である。


 自らは厳しい態度で誤認し、

 男達を厳しい態度で誤認させて、

 聖女は、目的を果たすことに成功した。

 後は借金を返してもらうだけである。


 聖女が誤認している相手は、

 果たして本当に借金を返してくれるのだろうか。

 愛の答えを探す物語は、

 いよいよ結末を迎えようとしていた。



----------



「やりましたね聖女。

 これで"愛は真心によって成り立つ"ことを

 世間は認めることでしょう」


 街を出た聖女の前に、

 ローブ姿の女性が現れた。

 救世主の登場に、聖女は心が躍る。


「金を出せっ。俺の借金と

 指名手配を帳消しにしやがれ」


 ローブの女性は頷くと、

 何枚もの書類を取り出した。

 指名手配書と借用書である。

 紙には全て、同一人物の名前が書かれている。


「造作もありません。

 指名手配の依頼は私が出したもの。

 指名手配を取り消しましょう」


「へえ。借金はどうする?

 俺が故郷で借りまくった金だ」


「そのお金の出所は私です。

 あなたの故郷の方々は、私から借りたお金を

 あなたに貢いでいたのです。

 聖女。あなたは街に住みなさい」


「おいおい。物価の高い街じゃ

 生活できないだろ。

 借金の取り立てもあるしな」


「いいえ。あなたの故郷は封鎖されるので、

 借金の取り立てはありません。

 あなたは街で愛の生活を送りなさい。

 これまでのように」


「ふーん。ならいいか。

 俺を愛する連中に金でも借りよう」


「そう、それでいいのです。

 頑張りなさい聖女。

 ふふふふふふふふっ」


 こうして聖女は、

 愛情をお金という形で受け取りながら、

 街での生活を送るようになった。


 聖女は誠実に浪費し続け、

 誠実に体を鍛え、

 誠実に借金という形の愛を育んだ。

 街の借金は膨れ上がっていき、

 数ヶ月後には貧困の街となった。


 聖女の消費するお金は、

 誠実をモットーとしたお店ばかりに流れていた。

 ローブの女性が運営している

 高額商品ばかりを扱う店である。

 聖女割引セールを常時実施することで

 聖女だけに誠実さをアピールする店であった。


 時は流れ……、数年後。

 莫大な借金を負った聖女は、

 再び国に指名手配されていた。

 生活に困り果てた聖女の前に、

 ローブ姿の女性が姿を現すのであった。


「お困りでしたら、

 愛の答えを探しませんか?」


 聖女の"愛の答え探し"は、

 いつまでも続くのであった。

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