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天外の観測者  作者: 神竜王
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9話

 まず始めに九重が行ったのは西日本防衛隊の作戦本部への連絡だった。

 戦線へ帰還する為、南東の方角に向けて移動を開始しつつ九重は手元の端末が作戦本部に繋がるのを待つ。

 戦時というだけあって、3コールも待たぬ内に通信が繋がった。


 『こちら西日本防衛隊作戦本部です』

 「こちら西日本防衛隊特務機関隊長九重。至急報告したい事項がある。総司令官に通信を繋いで戴きたい」

 『九重隊長!? ──了解致しました、直ぐに通信を繋ぎます!』


 オペレーターに手短に要件を伝えると即座に返答があった。

 それから約十秒ほどで総司令官に通信が切り換わる。レスポンスが早い。九重の通信を最優先に対応してくれているのだろう。


 『こちら西日本防衛隊総司令官御堂。九重だな? そちらからも状況は見えていたはずだ。今どうなっている?』

 「状況は把握出来ております。今は戦線に帰還している最中です。光の柱が何であったのかも、それらしい存在を発見出来ました」

 『発見にまで至っていたのか……まさかとは思うが、先程の異界への攻撃は』

 「調査目標の手に依るものです。その存在──仮称アンノウンは助力を申し出てきました。本来であれば総司令の判断を仰ぐべきでしたが、こちらからも戦況の悪化が確認出来ましたので戦時特権を行使致しました」


 少しの沈黙の後、反応が返ってきた。


 『九重が戦時特権を行使してまで助力を得る存在か……いや、まず確認させてほしい。アンノウンの助力を得た、という認識で間違いないな?』

 「はい」

 『そのアンノウンとは何だった? 人か、或いは物か。まさかモンスターだったりするのか?』

 「分かりません」

 『分からない、とは……どういう風にだ? 話を聞く限り、アンノウンと接触を果たしているように思えるが』

 「見た目は人間の女性です。ですがその力は次元が違うとしか言えず、僅かに交わした言葉からは人外だと想定出来る物言いがありました」

 『そうか。そのアンノウンは今は何処に?』

 「今も目標地点の上空……私でも最上級の肉体強化剤を使用しなければ視認不可能な高度に滞在しています。

 おそらくは成層圏には届いているかと」

 『分かった。直ぐに情報軍に衛星から映像データを回収させよう。だが九重、既に帰還を開始していると言っていたな?

 アンノウンをマークしていないのか?』

 「アンノウンの言葉を復唱します。『これでまつろわぬ者共の増援は現れまい。後は汝らの力で戦うのだな』……との事です。

 今はアンノウンをマークするよりも地上に残された敵の残存戦力を一掃するのが得策ではないかと」


 端末越しに難しげな唸り声が聴こえてきた。


 『……九重よ、少しアンノウンに忖度し過ぎではないか?』

 「理解しております」

 『お前の事を疑っているわけではない。ただ、アンノウンに気を遣い過ぎてはいないかと思っているのだ。

 お前ほどの男が何故そうまでしてアンノウンに気を遣う?』


 当然といえば当然の疑問だった。

 御堂が九重の人間性を知るように、九重も御堂という男の人間性を知っていた。

 予期していた問い掛けに、九重もまた実直な意見を返す。


 「アンノウンの力の評価として先程次元が違うと表現しましたが、あれは文字通りの意味です。

 アンノウンは人類の敵う相手ではありません。仮に人類が総出で戦ったとしても勝つのはアンノウンでしょう。

 それも傷一つ負わせる事も出来ずに、です。戦いにすらなりますまい」

 『待て九重。正気か?』

 「私は正気でそう判断しております」

 『確かに異界を消滅させたあの攻撃は凄まじい。他国の軍からも既に一報が知らされている、恐ろしい規模の攻撃だ。

 だが完全無欠の存在など居るはずがない。攻撃能力は埒外に高くとも防御能力はそうでもないかもしれん。

 九重のような強者が隙を見て攻勢を掛ければ──』

 「お言葉ですが総司令……もう、そういった領域の存在ではないのです」

 『そんな馬鹿……な……──これは』


 通信の向こう側、急に御堂は言葉を切って黙り込んだ。


 「総司令?」

 『……九重。お前の言葉の意味が漸く私にも理解出来たよ。今、情報軍から衛星の映像データが送られてきた。

 この存在──仮称アンノウンは、新たな強力なスキルの力に目覚めた人間などではない。そうだな?』

 「は。私はそう認識しております」

 『九重のような強者は力というものに敏感だ。お前からこうして報告を受けた私は何処かで、アンノウンとは未知の強力なスキルに目覚めた人間だと考えていた。

 お前が人間ではないと感じたのも、お前の戦士としての感覚が未知の強大なスキルの力を感じ取りそうと錯覚したものだと』

 「似たような事例は私も聞いた事があります」

 『そうだな。しかしそれを踏まえた上で、お前はアンノウンを人間ではないと報告し、配慮を見せている。

 今なら私にもその意味が理解出来る。九重、お前の感覚はおそらく正しい。アンノウンは、人間ではないだろう』

 「総司令……」


 九重は御堂の言葉の裏に隠された狂熱を感じ取っていた。

 それに対して苦言を呈するべきか逡巡し、今は言及するのを控えておく事に決める。

 御堂自身は軍属だが、御堂の実家は神道に携わる仕事をしている。アンノウンに対してもおそらく悪いようにはならないはずだ、と。


 『念の為確認しておくが、アンノウンに人類への敵意は見られないのだな? 今回も純粋に力添えしただけだと』

 「その通りです。今も動きらしい動きは見せていません。これであればアンノウンの言葉通り残存戦力の殲滅に集中すべきかと」

 『いいだろう。戦線に復帰せよ、九重。アンノウンは衛星で監視しておく、心置き無く戦ってくれ』

 「了解」


 現時点で報告すべき事を話し終えた九重は通信を切って端末を懐に仕舞うと、脚の回転を早めてぐんと加速した。

 帰還するのだ、あの混沌とした戦線へ。





 ────────────────


 兵士、探索者、民間人。

 職種、人種を問わず死者・行方不明者・重軽傷者が多数発生した、西暦3000年1月1日に起きた世界的な異界陥落現象は、正体不明の攻撃により上空に現れた異界が一掃されても尚、数日に渡って世界各地で戦闘は続いた。


 発生源が絶たれたとしても、それ以前に異界から溢れ返っていたモンスター達までもが一掃されたわけではなかったからだ。

 事態が終息したのは六日後の1月7日と一週間もの間続いた戦いは忌むべき歴史として新たに記録され、同時に人類は未知なる遭遇を果たす事となる。


 『千年紀』。

 そう名付けられた歴史的事変の第二世代の開幕を告げた世界的な異界陥落現象。人類を襲った大災害。



 それは現代に神代の再来をも齎したのだと。

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