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天外の観測者  作者: 神竜王
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1話

 ──『観測者』とは何を意味するのだろうか。


 それは私が初めてスキルを使用した後に思ったことであり……私が己のスキルを自覚した時にはもう遅かった。

 『スキル』。その存在が世界で初めて発見されたのは西暦2000年を迎えた直後のことだった。人間というのは何かの節目を迎えることに敏感な生命だ。世間が予言だの何だのと賑わう中、その時代を生きていた全人類にスキルは芽生えた。

 私にも覚えはある。発現したスキルによって起きる作用は様々だが、私の場合はある日突然に『目が良くなった』。この場合の目が良くなるとは単純に視力が上昇しただけの話ではない。観察力、動体視力といった『何かを見る』ことに関する能力が飛躍的に上昇したのだ。


 当然の如く全世界に衝撃が走った。何せ、当然身体能力が上がったり外見が変化したりした者も居るのだ。科学が発展し神秘の薄れた現代に於いて、非科学的な事象が起これば騒ぐなという方が無理だろう。

 日頃からトレーニングしていたわけでもないにも関わらず筋力が高まり剣を扱う技術が身に付いた者──『剣術』のスキルを持つ者、髪の色が変色し身に宿したエネルギーを消費して発火などの現象を引き起こす者──『火魔法』のスキルを持つ者。例を挙げればそういった存在に全人類は変化した。


 原因は今をして不明である。何故人間がそのような力を得たのか、他の動植物などにはスキルが発現しなかったのか。どのような基準があるのか定かではない。しかし人が超常的な力を手にすればその力を奮いたくなるのが世の常であり──また、都合よく力を奮う機会も何事もなかった日常のすぐ近くに現れていた。

 人類がスキルの力を手にしたのと同時に、世界各地に謎の『穴』が出現した。暗く、ともすればブラックホールを連想させるその穴は無差別かつ多数出現し、何もない虚空に浮いているものもあれば、元々あった山や森といった地形や建造物などを削り取るようにして出現したものもある。


 ……ここまでくれば薄々先の展開が読めているかもしれないが。この穴は出現したその場とはかけ離れた場所への入口であり、穴の先には当時の人類からすれば未知の領域が広がっていた。

 鋭い牙と爪を持ち野生の獣と比較しても尚強靭すぎる肉体を持つ狼や熊といった、姿形の特徴だけは人類の知る動物に似ている獣達に始まり、醜い小鬼や粘度の高い液状の生命体、果ては竜などーー現実に地球に存在しているとは考えられない異形達が跋扈する、地球環境とは全く異なる領域へと繋がっていたのだ。

 そしてその異形達は穴を通して地球に降り立つと、瞬く間に人類の生存圏へと襲い掛かった。異形達は人類の敵対種だったというわけだ。

 予兆らしい予兆もなく行われた襲来。あまりにも電撃的すぎた敵対種の出現に人類は後手に回り、結果として生存圏の大半を奪われ世界中で多くの人命が喪われてしまった。私の両親もこの時に亡くなってしまい、中学の時までは母方の祖父母の元で育つことになる。尤も、その祖父母も私が高校に上がる前に起きた大規模な穴の出現により両親と同じく異形達に殺されてしまい、最終的には天涯孤独の身の上となってしまったが……。


 ……この話は、今は置いておくとして。世界中で突発的に起きた穴の出現と異形達の襲来を前に、地球人類という種の未来に大いなる暗雲が立ち籠めた。しかしそこで終わるほど人類も惰弱ではなく、各国の軍隊や勇敢な者達が銃火器やスキルなどあらゆる手を尽くして戦い、見事異形達の地球蔓延だけは防ぎ生存圏を確保したのだ。

 そこから、破壊されてしまった生活や社会性を立て直し国としての在り方を取り戻した人類は、今も尚様々な害悪を齎す脅威である穴の出現と異形達に対抗しつつ存続し──今に至る。


 さて。この穴は今では『異界』と正式な名称が定められ、異界から現れた異形達は一般的に『魔獣』、或いは『モンスター』などと呼ばれている。これらは紛れもない人類にとっての天敵ではあるが、それと同時に人類に莫大な利益を齎す『資源』でもあった。

 多くの人命と生存圏の大半を奪われた人類がこうも短期間に地球の生態系に復帰できたのは皮肉な事にこれが要因である。


 あるモンスターの内臓には異界顕現以前までの科学的には証明できないほどの効能が秘められており、その内臓を乾燥させたものを粉末にして服用すれば立ち所に体中の毒素が抜け、異界の内部に存在する鉱石資源は既存の鉱石資源とはまた異なる材料的数値と特性を持ち、これを元に建造物や機械などを設計・開発すれば今までにない強度や性能のものが出来上がり、更には石油やガスなどのエネルギー資源の代替となるものまで発見されて実用化に至っている。

 これにより復活した人類の社会の構造は異界顕現以前とは異なるものとなった。異界顕現という人類史上最大の惨劇の時代の幕開けであり、人類の進化を促すフロンティアの時代の幕開けでもあった。


 会社──特に材料そのものを取り扱ったり、製品に加工される前に材料を成形する会社などは異界由来の材料を求め、その需要に経済的に応える為に異界探索やモンスターの退治を生業とする探索者組織──正式名称『異界探索者通商連合』、俗称を『探索者ギルド』──正直俗称の方で呼ばれているケースの方が多い──が結成され、世界各国に『探索者』という職業が成立することとなる。


 地球に何が起きたのか、現実の地球人類の社会構造についてはここまでにしておくとしよう。本題は、私だ。……今現在どうしようもない状況に陥っている、私の話をしよう。

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