9/12
不思議な国の物語①
川越亜里朱は、母子家庭で育った。彼女の記憶の中には、血の繋がった父親の姿は無い。いや、記憶の中だけでは無かった。父親に関する写真も何もかもが残ってはいなかったのである。故に、亜里朱は血の繋がった父親、そのものを知らなかった。だからなのか父親と云う存在に強い憧れを抱いていた。
亜里朱は、数十年前に造られた古い公団住宅に住んでいた。コンクリートで造られた建物は、夏には暑く冬には寒い。だからなのか、季節を身体で感じる事が多かった。物心が付いてから幾年か過ぎてからの事だったと思う。母親が親しい男性を家にあげる事が多くなった。それからというもの母親との時間は、目に見える様に減っていったのだった。朝目覚めてから学校へ通っている間、そして夕方五時迄の時間帯は友達がいる事で気は紛れているので良かった。しかし問題はそれ以降、寝る迄の時間帯は寂しくて寂しくて仕方が無かったのである。
そうして亜里朱は寂しさを紛らわせる為に…。
想像力で心の内に1つの世界を創造する事にしたのだった。




