不思議な国の勉強会。
見間違いなんかではありません。
アリスの目の前には…。
モゾモゾと蠢く巨大な芋虫がいたのです。
「芋虫と云う生き物は…。」
バケットハットの男の人は言います。
「やがて蝶か、蛾になるのですよ。あっ。蝶と蛾の違いって分かりますか?」
バケットハットの男の人はアリスに視線を送りました。
「えっ?わ…分かりません。」
アリスは答えます。
「簡単に言うのであれば…。」
バケットハットの男の人は人差し指を立て、左右に少し振りました。無意識にアリスの瞳は、その動きを追いかけます。
「昼行性が蝶、夜行性が蛾。 翅を縦にたたむのが蝶。そうではないのが蛾。 触角が細いのが蝶。太いのが蛾。鱗粉が落ちにくいのが蝶。落ちやすいのが蛾。そして…。」
バケットハットの男の人の瞳がアリスを捕らえました。
その瞳は漆黒の色でした。光沢を失った瞳。
マットブラックの瞳はアリスに告げます。
「繭を作らないのが蝶。繭を作るのが蛾。」
アリスは息を飲みました。血液が凍りつく感覚に支配されていきます。身体がガチガチと小刻みに震えます。
バケットハットの男の人は続けました。
「繭は、昆虫などの生物の卵,幼虫,蛹を保護をする構造物とでも言いましょうか。活動が停止していたり、活動状態が鈍くなっている生物を包み込んで保護する覆いですね。」
マットブラックの瞳の奥からは感情は読めません。
深い深い漆黒の色だけがありました。