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第5話

ゲーム開始の入学式当日。

いよいよ、この日がやって来ましたわ。

本来なら2年生および3年生は本日の入学式に参加する予定はないのだが、私は公爵家の権力を公使して、2階最前列の特等席をゲットした。

ふふん。

なんとしても、リアム様の主席スピーチをこの目に焼き付けませんと!

麗しの婚約者の輝かしい晴れ舞台ですもの。

私は、主人公とリアム様のファーストコンタクトを阻止すべく舞台となる学園の中庭に朝から身を潜めている。

「お嬢様、今度は一体何を…。」

あきれ顔のマリリンがため息をつきながらそれでも私に付き添ってそばにいてくれる。

マリリンは私より5歳上の一番親しいメイドだ。

元は伯爵家令嬢だったが、家が没落し数年前から私付きのメイドとなった。

透き通る真っ白なシミ一つない肌に、赤く美しいルビーのような瞳。そして、キラキラ輝く銀髪。

顔面偏差値で言うと私の軽く10倍の数値はあるんじゃないかというくらいの極上の美女。

マリリンのギリシャ彫刻のような非の打ちどころのない黄金比率の完璧な顔を見て、なぜ私の顔はどこまでも平凡なんだと声を大にして運営に文句を言いたい。

いえいえ…。人をうらやんでも何も得ませんわ。

時たまに、やるせなくはなりますけど。

マリリンの性格はずばり「おかん」。ちょっと口うるさいのが玉に瑕。それでも、私のことを一番にかわいがってくれるとても大切な人。

「マリリンもちゃんとあちらから見えないように身を隠してくださいませ。」

私はマリリンを強引に木の陰へと押し込んだ。

「本当に、何をなさる気ですか…。」

マリリンの抗議もなんのその。唇に人差し指をもってきて「しー」と言って私はいそいそとマリリンとは別の大きな木の陰に身を隠す。

綺麗な顔を不満げにゆがめて、マリリンも不承不承、身を潜めてくれた。

私のミッションはこの場所で主人公がラッキースケベをリアム様にしかけるのを阻止することだ。

シナリオはこうだ。なぜか激走してくる主人公が、建物の角でリアム様にぶつかり、そのままの勢いで彼を押し倒し、その豊満な胸でリアム様の顔をパフパフするという衝撃的な出会いのエロイベント。

「申し訳ございません」と言って、主人公は手縫いの刺繍が入ったハンカチでリアム様の顔を優しくふく。そうして、二人はしばし見つめ合う。ここでメインテーマ「愛は薔薇の棘」が流れる。はっと我に返った主人公は「私ったら」と言って、リアム様に馬乗りになっている体制から楚々と離れると、羞恥のあまり顔を真っ赤に染め、あわててその場を去る。残されたハンカチを握りしめた王子はしばらくあの胸…(げほん、げほん)ではなく、可憐な女の子のことが忘れられずにそのハンカチを宝物にするというシナリオ。

けしからん。

は…ハレンチすぎます。

顔を挟むほどの厚みのある胸…。

思わず自分の胸の谷間の薄さに目を向けて…。育乳への決意を新たにする。

今日は朝早くから起き出して、このイベントをぶち壊す為の対策を考えた。

漢字で無詠唱のチートを手に入れたのならそのアドバンテージを大いに活用しませんと!

右手の親指と人差し指をL字に伸ばして銃の形にする。

エアガンを打ちたくて思いついたのがこの形。「空気弾、発射」と心の中で呟けば、圧縮された空気が弾丸のように発射される。

ええ、前世のとある漫画から着想を得ました。

これをラッキースケベでぶつかる前の二人の間に打ち込めば、風圧で二人を引きはがすことができるという作戦だ。

うふふ。

練習ではいい感じでした。

ブチかましてやりますわ!

位置取りも完璧。この角度からなら、うまい具合に命中すること間違いありませんわ。

ドキドキしながら息をひそめてしばらく待っていると、右から数名のお付きに囲まれた我が麗しの婚約者、そして校舎の角に向けて前方からまっすぐこちらに走って向かってくる主人公が見えた。このままだと、建物の角で出合い頭にぶつかり忌々しいラッキースケベが発動する。

そうはさせません。今ですわ。

私は右手を銃の形に構え、頭の中で呟く。

「空気弾、発射。」

ドゥオン!

ドガン!

物凄い爆音でエア弾が発射された。私はその激しい勢いのあまり、体が後ろに吹っ飛ばされる。

ちょっと、気合がはいりすぎましたかしら…。

「いててて…。」

なんとか立ち上がる。土がクッションのように私を柔らかく受け止めてくれたので、特に体は問題なさそうだ。

どうなったのかしら。

慌てて現場を見ると、校舎に大きな穴が開いている。

あら…。威力がちょっと強めでしたかしら…。

災害レベルに見えますわ。…気のせいですわよね?

王子も主人公もかなりはでに吹っ飛ばされたようで、先ほどよりもかなり離れた位置で地面に倒れているのが見える。

誰一人ぴくりとも動かない。

「もしもし、皆さま。ご機嫌いかが?」なんて、とても声をかけれる雰囲気ではない…。

あまりの惨劇に思わずコクリと唾を飲み込んだ。

呆然としていると、マリリンが鬼の形相で私の手を引いてすごい勢いで駆け出した。

華奢なマリリンの体にどんな力があるのか、足をもつれさせ、もたもたする私を赤ちゃんのようにかかえて風の様に走り去る。

マリリン!肉体強化の魔法ですわね。すごいですわ。

「テロだ。兵をだせ!敵を逃がすな!殲滅せよ!」

ものすごい怒号が後ろから聞こえてくる。

大騒ぎになっていますわ…。

マリリンのお蔭で私たちは一目散に現場を後にする。

倒れたリアム様が心配ですわ…。

悪気はなかったのです。ご無事でしょうか。

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