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第2話

「お嬢様、お嬢様!」

はっと目を覚ます。

メイドのマリリンが心配そうに私を覗き込んでいた。

「大丈夫ですか。うなされていましたよ。」

私は呆然とあたりを見回す。

天蓋ベットに朝日が差し込んでいる。

ファンシーで快適で上質ないつもの私のお部屋。

ええと…さっきのは夢でしたのね…?

恐ろしすぎましてよ?

まだ体の震えが治まらない。

「失礼します。」

そう言って、マリリンは私の額に手をあてる。

「お嬢様、お熱がおありのようです。

 本日は学園をお休みされてはいかがでしょうか?」

「ええ…。

 ええ。そうするわ。」

私は押し寄せてくる眩暈にぐったりと目を閉じる。

すると前世の記憶が洪水の様に私に降り注いでくる。

ええ。そうよ。

私はこの世界を知っている。

ここは…前世でアラサー独身、喪女だった私が夢中になった乙女ゲームの世界だわ。

主人公はお転婆で天真爛漫な巨乳ロリ顔、低身長と男受けをこれでもかと詰め込んだピンク色の髪色をした美少女、アリス・ハーン。

そして攻略対象者は私の婚約者クールイケメンのドS王子、リアム・アインホルンを筆頭に煌びやかな魅力あふれる貴公子たち。

選択ルートによっては当て馬として立ちはだかる令嬢もストーリーも変わってくるその乙女ゲームで、私はリアムルートで主人公の当て馬となる公爵令嬢のキャロライン・フォーゲルに転生したのね。

私が夢に見たのはリアムルートで今から3年後に起こる断罪劇。

ぬるい乙女ゲームだから人が死んだりとか、お家断絶とか後味悪いことはないけれど…。

いえ。好色ジジィに嫁ぐなんて後味悪すぎますわ。なんておぞましい。

そもそもリアム様は私の婚約者で最愛の人。

主人公が私の婚約者狙いだとしたら当然黙ってなんていられません。

絶対、絶対に負けないんだから。

でも…主人公と比較するには私のスペックは悪すぎませんこと?

歯が立つ気がしませんわ。

夢で父上に指摘されたとおりだもの。

私ってとりえが膨大な魔力しかありません。

このままじゃ、打つ手がありませんわ。

しかも困ったことに私が前世で最推しだったのは婚約者のリアム様ではなく、リアム様付近衛騎士のサミュエル・ホロヴィッツ様です。

サミュエル様のルートでしたら、何でもござれの無双状態でしたが…。ええ、人生かけて乙女ゲームをやりこんでいましたから。

肝心の王子ルートのイベントがうろ覚えで…困りましたわ。どうしましょう。

前世の私、どうして最推しがリアム様じゃなんですの!

全く、見る目がありませんわ。

はぁ。

仕方ありませんわ。

まずは、できることからコツコツと。

3年猶予がありますもの。

せめて、今思い出せてラッキーですわ。

挽回してみせます。

3年後に王家から婚約破棄が来た場合に、父上が自信をもって私を王家に押せるようなスペックに私自身がアップグレードしませんと。

勉強は嫌いですが…。やるしかありませんわ。

大好きなリアム様を諦めるわけにはいきませんもの。

私は、人払いした静かな部屋で、すくっと起き上がり、ロココ調の机に腰をかける。

お気に入りのピンクの羽のついたペンに青いインクを含ませ、上質な紙にこれから私が上げるべきスペックを書き出していく。

・学力向上

・魔法の習得(何か箔付けできるもの)

・奉仕活動(アリスと被らないもの)

・容姿の魅力をあげる

ここまで書いて、私は鏡の前に立ち己の容姿をまじまじとよく観察する。

こげ茶のくるくるした髪に、グレーの瞳。

鼻のあたりにわずかに散るそばかす。

あああ。平凡ですわ…。

ですが、スタイルはまずますです。

足の形はスラっと伸びて美しい。腰もきゅっとしまっています。

ですが、胸が…とても貧しいですわ。

3年後の左右にこれでもかと揺れるアリスの巨乳を思い出し、自分の胸と比較する。

…とても歯が立ちませんわ。

・育乳

私はリストにさらに一つ書き込んだ。

毎日マリリンに手伝ってもらって胸を育てていきましょう。

胸に脂肪がないのなら、腕や背中など別の場所からマッサージでもってくればよいのです。

『努力は裏切らない』を合言葉に精進するのみですわ。

思い出して見ると、前世の容貌からしたら現在の私は大変なグレードアップを成し遂げておりますわ。

充分です。後は化粧の技術を磨きましょう。

小細工できるところは惜しみなくやってまいりましょう。

私は机の引き出しから繊細な銀で細工の施された小さなオルゴール箱を取り出し、ふたを開ける。

中には、磨く前の小さな魔石の原石が入っている。

これは、リアム様が初めて私にくれた宝物。

いびつな形の真っ黒なそれを日にかざしてみる。

光を浴びた場所が虹色に輝いた。

とっても綺麗。

幼かったリアム様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、あの思い出があれば私はどんなことでもがんばれます。

今まで…何一つ努力してこなかった私が言うのもおこがましいですが…。

これからちゃんと努力しますもの。

私は『キャロライン・フォーゲル』となったばかりのあの日々に思いを馳せる。

10歳の魔力審査で人生の全てが一変した、混乱に満ちたあの日々を。

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