第14話
静かな白を基調とした自室はたくさんのファンシーなものに囲まれて正に女の子の夢のお部屋だ。
大きな窓にかかった豪華なレースのカーテンは繊細で美しい。
私はロココ調の美しい勉強机に座り、大きなテディベアを抱きしめる。
ああ!かわいいものに囲まれる幸せよ。
「お嬢様、いつになったらお勉強を始めるのです。」
マリリンのあきれた声が私を現実に引き戻す。
「それが…マリリン。もうどこが分からないのかが分からないという有様で…。
何から手をつけて良いのかすらもさっぱり分かりませんの…。」
「お嬢様。落ち着いてください。
出題されるのは2学年までの総まとめですから、最低これだけを暗記すれば網羅できるかと思われます。」
マリリンが本棚から冷静に選び、私の机の上にドーンと置いたのは恐ろしいほどに厚みのある本、4冊。
1冊の厚みが30㎝ほどありますけど…。
これ全部を明日までに暗記…。
内容を理解するのもとうてい無理なのに…暗記とは…無理ゲーすぎる。
私はますますテディベアを抱きしめ、机に頭をつっぷした。
「詰んだ…。」
ぼそりとつぶやいたはずなのにマリリンの地獄耳は聞き逃さない。
「いえ、お嬢様。まだ取り掛かってもいませんよね?」
冷静にツッコミを入れてくるマリリンがにくい。
私はマリリンの無言の圧力に屈して、とりあえず一冊を手にしてめくる。
自慢じゃないが、私の学習能力値は前世も今世も、とてつもなく低い。
私が唯一手にした才能は漢字による魔法チートのみ。
あれ?
魔法で解決できないかしら?
マリリンが部屋から出ていくのを確認してから行動開始。
まず試しに「頭脳明晰」と唱えてみる。
私の魔力が全く反応しない。
今開いている分厚い本の内容もいつも通り全く頭に入ってこない。
どうやらこの魔法は失敗のようだ…。
私はそれから色々と試してみた。
すると、飴玉に「内容理解&暗記効果」を付与することに成功した。
効力を付与した飴玉をなめているうちに学んだことは見事に身に付く。
今まで、全く理解できなかったものが手に取るように理解ができ、きちんと記憶されていく。
ああ、なんたる快感!
私は今、知識と言う名の泉に満たされてゆく!
しかし…これには一つ副作用がある。
内容を理解すればするほど、そしてそれらを暗記すればするほど、己の見た目が膨れていくのだ。
要するになぜか脂肪もよく身に付く。
現在私は3冊分の内容を吸収しとりこんだところだが、単純に体の横はばがいつもの4倍の太さとなっている。
のども脂肪でおおわれているせいか、こもった声質になっているのが自分でも分かる。
それでもだ!
私はとうとう渇望していた頭が良いというステータスを生まれて初めて手に入れることができたのだ!
素晴らしい!
おほほほほ!
最高の気分ですわ!
それにしても、こちらの世界のお洋服はたいしたものです。
体の体積が倍以上に増えても、同じだけ伸びてくれました。
伸縮自在。
一体どうなっているのか分かりませんが、非常に助かります。
思う存分に高笑いをした私は、最後の1冊を手にして喜々として黙々と読み始める。
分かる!
分かりましてよ!
素晴らしい、全能感!
ノックとともに、マリリンが休憩用のお茶を用意するために、ワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
マリリンは私を目にするや、ぎょっとして動きを止める。
あからさまに動揺したマリリンが室内をきょろきょろと見渡して、再度私に視線を向けた。
「…どなたですか?え?お嬢様は?
もしや、とうとう替え玉受験なんて馬鹿な真似を考え付いたんじゃ…。
それにしても、あなた、お嬢様に似ても似つかないですわね。
替え玉にもなり得ませんわ。
まったくあのポンコツは…また何を考えて、どこに行ったのやら…。
失礼。動揺のあまり言葉が乱れてしまいました。
あなたもお嬢様の犠牲者ですわね。
あなたを攻めませんから、お嬢様がどこに消えたのか教えてください。」
え…。
私ですけども…。
何ですの?このやりとりは。
マリリンの新しい遊びかしら?
きょとんと首をかしげると、マリリンも同じ方向にきょとんと首をかしげる。
マリリンがちょっとかわいらしい。
「マリリン?私ですわよ?
え、何かの冗談ですか?」
私が笑って言うと、石化したマリリンが切り返す。
「え?お嬢様?本物ですか?
いえいえ、全く笑えませんから。
そのお姿は一体全体、何ですか?お嬢様こそ何の冗談ですか?」
「おほほほほ。」
私は朗らかに笑ってドヤ顔になり、ここぞとばかりに魔法を付与した飴玉を右手に天高くかかげてみせた。
ものすごく嫌そうな顔をしたマリリンが私の自慢の飴玉を食い入るように見つめる。
よき、よき、存分に見よ!
おほほほ!
いざ、マリリン!覚悟はよくって?
今ここで満を持して、私の今世紀最大の華麗なる発明を、華々しくお披露目しようではありませんか!